第2話 狐人族ジャンルカ
「ご、ごめんね。もう大丈夫だからっ」
「もう少しですからです。ジャンルカ様のところでしたら、絶対に魔物は出ないですからです」
「ロッテちゃん、ごめんねっ」
「私も大丈夫ですからです」
歩もクレアロッテもお互いに温厚なので、あまりきまずくならず、また歩がクレアロッテを抱いている。
クレアロッテがそれをとても喜んでいるようで、安心した表情になった。
「あ、ここです」
まっすぐ歩いていると、急に整備された場所になる。
荒野ではあるが、さっきまであったデコボコがなく、木が円状になって、中心部分だけ分かれている。
「いかにもって感じの場所だな」
ここだけ雪も降っていないし、なんだか黄金色になっている。
「神道ですからです」
「それでここからどうするのかなっ?」
「はいです。あそこに1本だけ大きい木がありますですよねです?」
クレアロッテが指を指した先には、目立って大きい木が1本あった。なぜ目立つかといえば、その木だけ、金色の葉をつけていたのである。
「あれもいかにもって感じだな」
多分ここに何の知識がなくて来ても、頑張ればなんとかできるくらいいかにもという設定が目白押しである。
「では、この木を触りますねです」
「やっぱ触るのか」
本当にわかりやすい。
『…………何の用事…………?』
クレアロッテが木に触ると、声が聞こえる。
その声は二一と歩にも聞こえた。声が聞こえるというよりは、頭に直接響いてくるという感じだが。
「ジャンルカ様、ルナルデッタ様の使いで、クレアロッテです」
『…………クレアロッテ…………。…………しかし、最近来たばかりだと思ったんだけど…………』
「先日のご用事と関係することです。今回は本人が直接来てもらいましたです。お話しいただけますかです?」
『…………うーん…………。…………分かった…………。…………会うだけ会う…………。…………今神道を開けるから、こっちにきて……………」
すると中心の部分に白い筒状の霧ができる。
「これでジャンルカ様にお会いできます。入りましょう」
クレアロッテに導かれて、3人とも中心の筒に入る。
すると3人は一瞬にしてその場から消えた。
「おっとと」
「です!」
「わわっ」
3人が出てくると、明らかに先ほどとは違う場所に出てくる。
「おお、ここグリッシーニだよな?」
「はい、そうです」
二一にしては珍しく動揺していた。
先ほどの全く何もなかった光景からは想像できないほどきれいな光景が広がっていた。
空は満面の星が広がり、左右には紅葉を付けた木が立ち並び、いずれもきれいな光沢を放って、黄金のようであった。
道もその紅葉が落ち葉となって、金色の道になっていた。
それは夢の世界のようであった。
「わー。ロマンチックすぎるよっ。どこにいってもこんなにきれいな紅葉は見れないよっ」
歩が目をキラキラさせて、満面の笑みを浮かべる。
「見学はあとでいいだろ。要件を済ますぞ」
「ささ、こっちです」
クレアロッテが案内するまでもなく、完全に一本道だったので、普通に歩くだけだったが。
「どうも、お久しぶりです。ジャンルカ様」
そしてしばらく歩くと、少し階段があり、その上に置いてある大きな椅子ににその狐人族はいた。
大きさは2メートルはあり、しっぽは大きく自ら光を発しているかと見間違うような黄金色。
耳は猫であるクレアロッテよりも縦に長くてピンと張りがある。
服は白色の装束を完璧に着こなしていて、とても迫力がある。
「…………ああ、クレアロッテ久しぶり…………、…………そちらの2人が先日ルナルデッタ姫が言われていた2人か…………」
玉座から立たずに2人を見る。
恐ろしいほど顔がきりりと整っていて、妖艶さすら感じさせる。
世の女性のほぼすべてが間違いなく魅了されるレベルである。
その例外に歩が入っているのではあるが。歩は相手がイケメンだとか不細工とかは関係なく、二一しか見ていない。だから、日本で誰が相手でも男に対しては対応が一緒だったのである。
「はい、その通りです」
「どうも、中野渡歩ですっ」
「……初めまして、若松二一と申します」
歩とクレアロッテは二一を見て驚いていた。
「二一ちゃん、きちんと敬語つかえたんだね」
「ルナ様も適当にあしらうのに……、やっぱやればできるんですねです」
2人が無駄に二一を尊敬する。クレアロッテがちょっとづつ思考が歩に似つつある。二一を好きになると、二一がたまに当たり前のことをするだけで尊敬することになるのだろうか?
「えーと、ジャンルカ……さん。話すの遅いからもっと早く話せませんかね?」
そしてその見た目は男性が相手でもそれを一瞬忘れさせそうなほどである。
だが、二一の第一声はまぁ失礼にもほどがある。いきなり苦情からスタートである。
ルナルデッタから話は聞いていた。めんどくさがりではあるが、基本的には温厚で、質問をしても怒ることはない。
ただ、独特のマイペースさで、途中で話の腰を折られてしまうので、話すのは簡単ではないとのことでもあった。
神様ではあるが、別に奉納とかお祈りをするわけでもない。高貴な存在ではあるが、存在そのものが高貴ではないということで、多少は突っ込んだ話をしても問題はないとのことであった。
ルナルデッタがそれでも心配したのは、二一があまりにも傍若無人にしゃべるので、さすがのジャンルカも怒るのではないかとの不安からである。
その不安を彼女から聞いていたので、二一は敬語をきちんと使っているのである。
「…………、あー申し訳ない…………。…………あまりしゃべらないから…………。…………同じ狐人族ならテレパシーで話せるから…………」
やはり文句は言われない。自分が遅くしゃべっている自覚はあったようである。
「二一さん、さっきのはよかったですけど、さすがにだめです。ルナ様よりも偉いんですよです。いきなり話し方に文句をつけるのは」
「わかったわかった。さっきのは俺が悪かった。ゆっくりしゃべるのは別にいいんだが、あまりにも間が空きすぎだったからな。しかし普段話してないんじゃ仕方ない。そこは妥協しよう」
「…………、で、用事は前と一緒なのか?…………」
「はいそうです。実は自分達は異世界からの召喚されたんです。そして200年ほど前自分たちと同じように異世界に召喚された人達が戻られたそうです。つまりジャンルカ様が生まれる前ですね、それで、ルナルデッタ姫から、あなたの先代であるジャンマリア様が情報を持っているかもしれないということなので、会いたいんです」
「…………とりあえず前と返事は同じ…………、…………断る…………」
おっとりしたしゃべり方のままだが、明らかにこの言葉は強い拒否であった。
「事情は知っています。ジャンマリア様は400歳で寿命目前なんですよね。ですが、ただお話をするだけでいいんです。別に外に連れて行こうとか、無理難題を言おうとかそういうことではありません」
「……………それでも……………、…………断る…………」
「まぁそこを何とか。最悪要件を伝えてくれればいいです」
「……………それでも……………、…………断る…………」
「じゃあ、手紙でも書きますから渡してくださいよ。読んでいただかなくてもいいですから」
「……………それでも……………、…………断る…………」
「じゃあどうすべきですか?」
「…………帰るべきだと思う…………」
「う~ん、どうしても無理ですかね? 俺も情報がほしいんです。簡単には引き下がれないんですよ」
「…………別にまたこればいい…………。…………だけど自分が許可しないとここには来れない…………。…………常に移動し続けるこの場所を見つけるのは大変だよ…………」
「そんなことはないはずです。あなたどう見ても面倒ごとを嫌うでしょう。移動はできればしたくないはずです。移動ってたぶん簡単じゃないでしょう」
「…………、むぅ、するどい…………。…………確かに移動はめんどい…………」
「1つだけ聞いていいですか? これはただの質問ですから」
「…………何かな?…………」
「一応ルナルデッタ姫から会えない事情は聞いてます。先代が寿命寸前で、お元気でないということですよね」
「…………そうだよ…………」
「本当の理由を教えてください! いくら体調が悪くても全く何にできないというのはおかしいです。もっと違う理由があるんじゃないですか?」
「……………………別に………………………」
「ちょっと沈黙が長かったですね。目を見て言えますか?」
「………………………………………………………………………言える………………………………………………………………………」
「目が合ってませんし、沈黙がより長くなってます。答えが出るまで絶対に帰りませんよ。俺は本当のことを知りたいだけなんです。具体的にダメな理由があるんでしたら、引き下がります」
「すごいですね。あのひたすらのらりくらりとして会話を嫌がるジャンルカ様と粘り強く会話をするなんてです」
「二一ちゃんは絶対に折れないよっ。納得できないことは何日かけても解決させるんだよっ」
二一は凝ることには以上に凝る。もうこうなってくると、別の方法で帰る方法を探したほうが早い可能性があるのだが、もう二一には関係ない。
1度手段を決めて、それがある程度の段階まで進めば、それがどれだけ効率の悪いことになろうが、最後までやる。
「あ、よろしければこちらでお待ちください」
あまりにも話が長いので別の狐人族が2人に椅子とお菓子を提供する。
「あ、どうもすみませんです」
「わーい、どうもありがとうございますっ」
「いえいえ、狐人族以外の人が来るのは珍しいですからね。たまに来ていただいても、すぐに帰られてしまうでしょう。少し外の世界のお話を聞かせてください」
ジャンルカと二一は激論をしていたが、ほかのメンバーは意外と楽しんでいた。
「…………わかった、話す…………」
「よし、お願いします」
約4時間粘り切った結果、ようやくジャンルカが折れた。
「うとうと……、あ、終わったみたいだねっ」
「くーくー、あ、寝てませんよです」
2人とも完全に寝てたが、そんなことはとりあえず気にしないでおく。
「…………実は狐人族とは言っても実際の寿命は150年ほど…………、…………だから151歳を超えた狐人族が私のように狐神族となる…………、…………そしてに守り神としてここでずっと過ごしている…………、………狐人族以外でも寿命を超えて生きると○神族となって特別な力を得る…………、…………でも基本的には狐人族が多い………。…………というより狐人族以外では寿命を超えて生きた亜人はまだ発見されてない…………」
「はいはい、それはいいです。で、なんで会えないんですか?」
「…………私の先代ジャンマリアは今380歳………。…………私が150歳の時…………、…………つまり350歳の時に隠居されてからはグリッシーナの最北端の祠の中から出てきてないので私も会ってない…………。…………会っちゃいけないって言われたから…………、…………30年会ってない…………」
「最後に会ったときになんかあったんですか?」
「…………別にいつも通りだった…………。………ただ単に会うなって言われただけ…………」
「会ったらどうなるんだ?」
「…………別に何もないと思うけど…………」
「は? 何もないんですか?」
「…………なんで会えないのって聞いたら…………、…………恥ずかしいから言ってたから…………」
「理由それだけか! だったらいいだろう!」
「…………先代怒るとこわいんだもん…………」
「そんな理由だったらもうちょっと早く折れてくれませんか……」
さすがの二一もあきれ気味であった。
狐人族あらため狐神族が、謁見を頑なに拒む理由は、先代の羞恥心と当代の面倒くさがりやが原因であった。




