第9話 異世界のちょっとしたラブコメ
「本当にありがとうございました。カトリーネの仲間や、出向していた兵士も戻ってきました。これでよっぽどしばらくは安全です」
「まぁ俺が言い出したことですし。できる根拠もありましたし」
「いやいや、たいしたものだ。2500人だろう。それだけ強いと逆に信用できるな」
「え? カトリーネは2人を信用できるの? あんなに人間を疑ってるたのに?」
ルナルデッタが非常に驚いていた。
自分が彼女を信用させるのに、どれほど骨が折れたかを彼女は実体験で知っているのである。
「はい、ルナ様。2500人を相手にしても勝てるんでしたら、私たちをだまして何かをする必要もありませんし、私たちを捕まえようとするならいつでもできますから。と、いうより、これだけ強かったら、タニアに来る意味がないですから」
カトリーネが二一と歩を信用したのは、2人が強すぎることによるもの。要は、人間ではなく、2人を信用したということである。
まだまだ人間そのものを信用するには至らない。
「くー、くー」
そしてクレアロッテは寝ていた。
「ロッテちゃん昨日から寝てばかりだねっ」
「君たちを心配して、いない間まともに寝ていなかったからな」
「ふふ、幸せそうね。こんなに安心しきっちゃって」
歩、カトリーネ、ルナルデッタはほほえましいものを見る目で見ていた。
「微笑ましいのは結構なんだが、これはどういうことだ」
二一達5人がいたのは、王室の横にある要人を迎える部屋。
ロゼッタはほかの国に比べて他国との交流が少なく、たまに普通に使わないと、汚れてしまうので、時々普通に使用する。
そこは、テーブルがなく、下にカーペットのようなものがひいてある場所であった。
どうも客人の来る人数とかによって、ベッドやテーブルを持ち込む形にしてあり、部屋の隅に家具がおいてある。
つまり全員そのカーペットの上みたいなところに座っている状態になる。
そして、二一はそこに足を伸ばして座っている。
本来その姿勢は女王の前では失礼なのだが、二一はその座り方しかできないのである。
左のふとももにクレアロッテが頭を乗せて、寝ているためである。
「うらやましいっ~。どっちもっ」」
歩が両手を合わせてうらやましがる。二一に膝枕されているクレアロッテがうらやましいし、クレアロッテを膝枕している二一の両方に対してうらやましさを見せていた。
「すっかりなついちゃったわね」
「はい、ルナ様」
カトリーネが優しそうな目で見る。先ほどいろいろな理由を述べていたが、クレアロッテが全面的に信用していることが、彼女が二一を最も信頼できる理由なのであろう。それは歩にも言えることであるが、やはり男性には頼りがいがあるのだろう。
「二一ちゃんどかさないの?」
「別に、邪魔じゃないし」
「二一様はもっと冷たい方だと思ってましたが、普通にお優しいんですね」
「まぁこいつ迷惑じゃないし」
すると二一はクレアロッテの頭を軽くポンポンする。
「ふにゃ~」
クレアロッテは気持ちよさそうに喉をならす。
「二一ちゃんのお父さんとお母さんは動物が好きで、猫が結構たくさんいるんだよっ。二一ちゃんになついてる子も何匹かいて、縁側とかでよく膝の上にのせて撫でてるもんねっ」
「まぁ、猫はちょっときまぐれだが信用できるからな、こいつは全然猫らしくないな。信じすぎじゃないか? ってそんなほのぼのした話はいいんだよ。なんか帰るための方法は見つかってないのか? 時間はあっただろ」
「あ、はい。そうでしたね。実はその情報を得るために、グリッシーニに行ったんですが、そこのジャンルカ殿が相談に乗ってくれないので……」
「ジャンルカ?」
「はい、実は北のグリッシーニには、代々妖狐族のジャン族が住んでます。初代がジャンノット様、2代目がジャンマリア様、そして今の3代目のジャンルカ様です」
「そいつらが何なんだ?」
「はい、実はジャンノット様はもうなくなられていまして、ジャンルカ様は現在180歳です。今隠居されてるジャンマリア様が400歳でもうわずかで寿命を迎えられます。現在生きているセーレンの生物で、200歳より長く生きている、つまり、200年前の出来事を知っている可能性があるのが、ジャンマリア様だけなのです」
「つまり、ジャンマリアに話を聞けば、帰るためのヒントが得られるということだな。いいじゃないか」
「ですが、ジャンルカ様が既に隠居していて、衰弱されているジャンマリア様には会わせられないとのことでした」
「何? ピッキー、お前ここの王女だろ、話は通せないのか?」
二一は納得いかなかった、いくら若いとは言ってもルナルデッタは女王、つまり、現状タニアで身分がはかなり上ということになる。
質問も別にただ情報を教えてくれというだけの話。無茶は言っていない。
「二一殿よ、タニア国における狐人族は簡単にいうと、教会における神様みたいな存在なんだ。人間にとっても私達にとってもな。確かに地位では、ルナ様が上であることは間違いないが、狐人族がいなくては、タニア国は大変なことになる」
「迷信じゃないのか?」
「違う、現にいなくなったことは何度かあるが、そのたびに、タニア国は滅亡の危機になっている」
「今いるけど危機じゃないか」
「だから、この危機を乗り切れたのは、狐人族のおかげであると思っている人も多いと思う」
「今回俺たちがやったことはみんな知らないのか?」
「は、はい。一応あなたたちの正体がばれないほうがいいかと思って便宜を図らせていただきました」
ルナルデッタの考えは正しい。2人で2500人を倒すようなことがばれてしまえば、いろいろ利用される可能性が高いからである。
今回の戦の相手にはばれてしまうが、ドルツ国がわざわざたった2人に負けたことをさらす可能性は低いからである。
二一としても、それはなんとなく分かったので、一応納得する。別に名誉は必要ない。
だが二一は神を信用していない。神様というものは世間的には信用されるものだから、偏屈な二一が信用するはずがない。
それを抜きにしても、凝り性な二一にとっては、自分のやったことには、いいことであれ悪いことであれ、責任は自分がとるべきであるという考えがあり、その結果の責任が自分以外にいくのは納得がいかない。
つまり、自分の納得のいかないことが2つ並んでいるのであり、そのあげく、協力もしないというのだから、納得がいかない。
「そいつに会えるか?」
「え? 二一ちゃん? 神様に会うのっ?」
「せっかく情報が手に入るんだ。行かん訳にはいかん。ちゃんと話し合いはしてくる」
「で、ですが、私がすでに何度か話していますよ」
「それはピッキーが話したんだろ。俺が話した訳じゃない。直接俺が話して無理なら考える。お前が無理だからといって俺が無理とは限らんだろ。どうすればいいかだけ教えてくれ」
「あの~、もしご機嫌を損なわれるようなことをされるとすごく困るんですが」
二一のことを信用していないわけではないが、どうも口ぶりとか態度がいいとは言えない。温厚なランドルフやルナルデッタだから、あまり問題となっていないが、普通は不敬罪的なもので、裁かれてもおかしくないくらいのことをしている。
「大丈夫だ。あくまでも話し合いに行くんだ。あんたらの迷惑になることはしない。そんなことをしたら、迷惑になったことを解決するまで、また頑張らんといかんだろう。罪を償うまえに、罪を起こさないのが正しいんだ」
「それに私がついていきますからっ」
歩がそういうと、なぜか大丈夫そうな雰囲気になる。
二一は特に気にした様子もない。日本にいたころもよくあったことである。二一が暴走しても、ぎりぎり止めることができるのが、歩なのである。
とはいってもフォローをするだけで、行動そのものは止めないのだが。
と、いうわけで、二一達はまた違う任務を行うことになった。
「そもそも、どうして断られるんだ? 狐人族はタニアの守り神だろう。国民が困っていれば、助けるのは当然じゃないか」
二一はルナルデッタに訪ねる。神様の存在を二一はあてにするわけではない。狐人族はあくまでも神様という扱いを受けているだけで、本来の意味の神様ではない。
「いえ、狐人族は亜人でも群を抜くその強さと長生きによる知識の豊富さで存在意義があります。願いを叶えるというよりは、存在そのものが周りへの脅威となります」
「……、そこら辺が俺の知ってる神様と違うんだよな」
地球における神様の概念というのは、宗教によって異なるだろうが、人間とはレベルの違ういろいろ超越した存在をさす。いわゆる万能であり、なんでもできると思われる。
だが、ここの狐人族を神様とさすのは、簡単に言ってしまうと、救いの神で、本当に大変な時だけ自ら動く神様という概念である。
ひとえに神様とは言っても、地球ですら大きく意味合いが異なる。出かける前に、二一は狐人族についての情報をルナルデッタにしつこく聞きこんでいた。
「しかし、この剣はおそろしいな」
その日の夜。二一達は今日も王城に泊めてもらっていた。お客様扱いということで、宿泊費も取られなかったので、遠慮なく城に居続けていた。
彼はドゥンケルハイトの2つ目の効果を知っていて使ったが、その効果の絶大さに、震えていた。
『ドゥンケルハイト+1』
闇属性を持つ刀。闇属性の魔法攻撃ができる。攻撃力が非常に高いが、与えたダメージが60%の確率で自分にもダメージになる。
攻撃範囲も広い。直接打撃でも闇属性の効果を持つ。
効果 攻撃力極上昇 攻撃範囲大幅上昇 闇属性付与 反動ダメージ 無詠唱 適正殺し
『適正殺し』
『○○適正』とついたスキルが戦闘中なくなる。この攻撃によって生命力が0になった場合、命の代わりにスキルが不可逆的に消滅し、もう二度と取得はできない。
二一はドラゴンゾンビの骨をドゥンケルハイトに使った。
特に考えてのことではなかったが、圧倒的な能力を持つ剣のレベルを上げておくことで、いざというときに備えるためである。
すると、攻撃力の上昇とともに、変わったスキルがついた。
二一はまだこのスキルを付けた時点では、人間を相手にして戦ったことはなかったが、もしかしたら戦わなければならないときに、殺してしまうかもしれないと思っていた。
ところがこのスキルをうまく使えば、相手を絶対に殺さないことができると思った。
○○適正ということは、武器適正か魔法適正は含む。普通戦闘をする人間は、どちらかは間違いなく持っているのだから、力加減を気にしなくても思い切り戦えるということだ。
そして、歩の光魔法は相手を気絶させたりする魔法も多く、うまくやれば死者を出さないで戦うことができると踏んだ。
そしてその考えは正しく、2500人のうち死者は0人。そしてそのほとんどが適正を失いもう1度戦うことができなくなった。
つまり、適正がない以上は前線で戦えないので、もう1度二一の前に出てくる可能性は限りなく低い。
これによって、二一は躊躇なく全力で闇魔法を行ったのである。
拳銃の雷魔法や、氷魔法は威嚇程度に使えば、殺すことはまずなかったので、陽動に使った。
二一は人が好きというわけではないが、殺したいとは思わない。
だれかを殺せば必ず恨まれる。恨まれても気にしないが、恨まれるよりは恨まれないほうがいいというだけこのことである。
「二一ちゃん」
「あ、どうした?」
部屋は1人1人もらっていたので、二一と歩はもちろん部屋が別なのだが、歩は二一の部屋に現れた
二一は布団にすでに入っていたが、その傍らにある椅子に歩は座る。
「ロッテちゃんのことなんだけど、二一ちゃんはどう思ってるのかなっ」
「折れ耳のことか? まぁあれくらい素直でいいやつじゃないのか?」
「えーと、そうじゃなくてねっ。女の子にあれだけ優しい二一ちゃんって見たことないからっ」
日本にいたころの二一は普通にもてていることもあった。
距離が遠い関係であれば、そこそこスペックが高いため、好物件に見えるためである。
ただ、月は遠くから見るからきれいとはよく言ったもので、二一のそばにいるというのは、二一に対して幻滅の感情を抱くし、本人自身も、二一のそばにいると悪意の目線を受ける。そのため、二一のそばに長期間いるというのは、大変なことであった。
それはアインバックでもそうだったのだが、このロゼッタに来てからは、今までの二一ではなかった。
クレアロッテは明確な好意を示しているし、ルナルデッタも感謝の気持ちから優しい目線を向け、人間を嫌っているはずのカトリーネが、人間に嫌われる二一を信頼している。
歩は自分の大好きな二一が認められているのがうれしい反面、不安感にも悩まされていた。
その感情は二一がそばにいないときに時々感じる感情に近いのだが、今まで二一が目の前にいてその感情を持ったことはなかったので、どうすればいいかが困惑していた。
二一を理解してくれる人が増えたはずなのに、なぜ全面的に喜べないのか。その気持ちがわからなくて、部屋に来てしまったのである。
「はぁ、面倒くさい。来い」
二一は歩を手招きして呼ぶ。
「な、何かなっ」
歩が近づくと、二一は布団から出て、横向きになって腰かける状態になる。
「あっ……」
右手で歩の頭を抱えて、自分の胸に当てる。
二一は何度もいうが、人間関係に希薄なだけで、鈍感ではないし、女性に興味がないわけではない。
そして、人の感情の起伏には敏感である。
だから、ここで歩が感じているのが、小さな小さな嫉妬の気持ちであることは、二一は知っていた。
普段は気づいても、関係ない相手が多いので、無視するし、関係あっても無視するのだが、ここで歩のこの感情を無視することがどういう意味を持つのかがわかっていたので、歩を安心させる行為に出たのである。
「心配すんな。一緒に元の世界に戻って今まで通りに過ごすぞ」
「……うんっ」
二一の答えは、歩の質問の答えにはなっていなかったが、言葉と行動は彼女を安心させるには充分であった。
こんな話もたまには。