クリスマス作戦 後編
書くかどうか、すごく悩んだけど、エターナルしてしまうよりは書いたほうがいいという判断しました。
念のため。この作品は特定の思想などを賛美するものではなく、あくまでもゲームということで書いています。
そこは森の中だった。空を飛ぶのは爆撃機と姿の見えないトナカイ。飛び交うのは榴弾砲の砲弾。降り注ぐのは爆弾と榴弾とクリスマスプレゼントというシュールな戦場。
だが、そこにはシュールさは微塵もなく、自らの信念に殉ずるものたちの決闘の場となっていた。
片方は雑多な武装、服装を装備した歩兵部隊。それを補佐する装甲車や簡易武装装備の支援車両群。そして無骨な武人の甲冑としか思えないT-heartsを纏う大男と付き従う男たち。
男たちの多くは顔に傷があったり、目つきが悪いなどの怖い第一印象を与える者、少し小太りだったりして、こう言ってはなんだがモテナイ感じの男の集まり。はためく旗はボロボロなドクロとドクロに打ち込まれたトマホークをモチーフとしていた。
もう片方は近代になって成立したナポレオン式の正規軍かと見まごうばかりの豪奢な制服を身に着けた女性たちが多かった。装備も主力戦車とまではいかないようだが、旧型の軽戦車や牽引式榴弾砲、小型迫撃砲運用車両と豪華な装備。そして中心には銀の甲冑を纏った細身の女性騎士を中心に幹部クラスは赤や黄色といったカラーリングの同型甲冑を纏っていた。はためく旗はバラとハートが重なった豪華な軍旗だった。
「今年もまだ、地獄の一日がやってきた・・・モテナイ男たちの悲嘆の声が木霊する戦場の一日か」
大男が手にしていた大型トマホークを地面に打ち付けると、爆弾でも使ったかのように派手な炸裂じみた衝撃で地面が激しく抉れていた。
「クリスマスは恋する乙女の祝福された日よ。むしろ貴君のような男が暴れるからイケナイのよ。あなただって恋はしたことあるでしょうに」
女性騎士は腰に装備していたレイピアを二刀流で抜いて構えた。面白いことにレイピアの鞘は箱型で3連装備の2セット、合計6本となっていた。
「調査兵団から流れた刀身交換機構式近接武装換装システムか。調査兵団のはブースト機能内臓だが、そっちのはタダの予備刀身保管用みたいだな。ついでに言えば恋はしたことあるが、顔のせいで振られた。ひどい時は告白するつもりで接近しただけで警備員を呼ばれたな。顔面偏差値っていうのは怖いものだぞ。美形なお前らに何が分かる?」
レイピアの武装システムを見ながらリアルでの悲しい告白話を暴露する大男。女性騎士を睨む目は悲しみと憎しみを見せていた。
「そう、でも、だからこそ、邪魔をしていいわけじゃないわ。いくらゲームの中でも貴方達の行動は行き過ぎなの。ルールには則っているけど、やり過ぎよ」
悲しげに答えつつ、シャランと美しい鞘走りの音をさせて両手に二刀流のレイピアで構えていた。
「ルールに則っているならいいではないか?はっきり言おう。お前らの方もやり過ぎだ。我々を敵視するのはいい。派手に暴れるのもいい。嫉妬に狂った者がいてもいいではないか?だからこそ、決着をつけるのみだ」
大型のトマホークを手にした大男は大盾と共に構え、名乗りを上げた。
「しっと団、団長!アルバトロス!名誉の為に!そして意地の為に相手してもらおう!」
女性騎士もレイピアを構え、告げた。
「では・・・ブリタニア・フランス方面軍、ラブコメバタリオン大隊長、エリー・アントワネット。騒動を抑えるために参ります!」
お互いの名乗りが終われば激突するのは双剣のレイピアとトマホーク。一瞬にして加速した二人が正面切って激突したのを皮切りに両勢力が戦闘を開始した。
しっと団側の支援戦闘車両から放たれる対戦車ミサイルがラブバタ側の戦車に突き刺さるならば、お返しにと、ラブバタ側の複数の車両から無反動砲が一斉に放たれ、しっと団の車両と運用要員をまとめてスクラップへと変えていく。
派手な車両戦闘があると思えば一見地味な戦いがある。歩兵同士のぶつかりあい、飛び交う銃弾と漂う硝煙、銃剣と刀剣のまじ合う中、指揮官を双方に狙い合う狙撃戦とその狙撃兵を潰すための対狙撃戦。
その中心にはやはりアルバトロスとマリーの姿は在った。その姿はまるで劇作家でも書いたかのような流れる動きでレイピアは突き出され、トマホークは薙ぎ払われ、しかし、そのどちらも決定打どころかカスリもせず、殺陣を見ているような動きだった。
「流石に何度もやり合えば癖や技のタイミングは分かるか。とは言え、負けられないのだよ」
「そうですわ。こちらも負けられないのです。イベントごとに現れ、騒動を起こす貴方を許すことは出来ないのです」
手堅い盾を用いた防御と当たれば強力なトマホークによる攻撃、それに対して高速で繰り出される刺突と斬撃を組み合わせたレイピアによる双剣攻撃。遂にレイピアが耐えきれなくなり、刀身が砕けるとマリーは一旦、緊急回避にて後ろに下がり、予備の刀身を柄へと装着。大型の鞘から無傷となったレイピアを再び構えた。
「各員、絶対に団長を守りきれ!戦争に恋愛風味を混ぜる、甘ったるい恋愛大隊ごときに遅れを取るな!」
大型の銃剣を装備した通常ではありえない大きさの砲を銃へと変貌させた砲剣付き突撃型対戦車銃を構え、砲剣突撃を敢行する副団長を皮切りに他の団員は普通サイズの小銃だったり、無反動砲を持つ者たちも駆けつけ、決闘の邪魔をしようとする一部のラブバタの隊員を追い払う。
その際に砲剣突撃をされた甲冑付きの兵士の腹部へ砲剣が突き刺さると見せしめと言わんばかりにゼロ距離での砲撃をしてみせる。
通常ではありえない20ミリなどという大口径砲弾を食らった結果、その肉体は爆散し、ミンチへと変わる。
「ごときなどと言われるほど、バカにされて我慢できません。決闘は大隊長に一任し、総員、雑兵共を駆逐します。とにかく、彼奴らの存在を否定します!」
砲剣突撃という攻撃を見せつけられれば、嫌がらせと言わんばかりに同じ20ミリ機関砲をということでそれを装備しているT-heartsや義体化兵が重量を無視したかのように砲弾の雨を振らせていく。
ほんの少しのチャンスを狙い、無反動砲やグレネードを打ち出すも装甲化されていない兵が多い、しっと団員側は跳弾や破片で軽傷を受けていく。
義体化兵や対T-heartsの定番武装。EMPグレネードが撃ち込まれ、ラブバタ側の兵も一時混乱を起こし、そのチャンスに銃がぶっ壊れるのも覚悟の上の激しいフルオート射撃が集中して行なわれる。
如何に強力な義体化兵も全身に撃ち込まれれば損傷の1つもするもので、頭部損傷を起こし、戦えなくなった者の20ミリガトリングガンを奪ったしっと団団員は命中率、反動抑制なんぞ考えず、残弾を撃ち込む。わずか10秒しか持たないその火力は凄まじいが、弾がなくなれば意味はなく、同じように頭を撃ち抜かれ、戦死する。
凄惨、そう表現するのが普通と思えるほどの血と肉とスクラップの山。最初の衝突から続く戦いも激しさを失っていき、もはや散発的な戦闘になっている中でも、まだ切り結ぶ両軍大将の一騎打ち。
ここだけは時代錯誤と言われても仕方ない。否、この世界での自分たちのアイデンティティを時代錯誤故にロールプレイという形で表現している。それ故に衝突するのだった。
「そこです!」
マリーの右手にもつレイピアがアルバトロスの盾の防御をかいくぐり、盾を持つ腕に突き刺さるも、その刀身は耐久値を失い、砕け散る。
盾での防御が出来ないとなれば機動力向上を狙い、重たい武装である戦斧と盾を放棄。予備武装の片手斧を背中のウェポンストックから抜けばマリーの左腕を斬り落とすために叩きつける動きを見せたが、左手のレイピアでガードされたため、レイピアを身代わりにマリーは攻撃を回避できた。
「武器をなくしたようだな。投降しろ。今回は我々の勝ちだ」
アルバトロスの持つ片手斧は鈍い輝きを持ち、速度と重さを重視した機能美を見せていた。
「あら、それはどうかしら?女には秘密がいくつもあるものでしてよ」
見た目には武装を無くしたようにしか見えないマリーが自信ありげに微笑む姿を訝しげに見ているアルバトロス。次の瞬間、トドメを差さんと一気に斬り込んで行った。
「単純でバカで、それでも勇猛果敢。出会いさえ良ければ素敵な関係になれたでしょうね」
そうつぶやくマリーが刀身交換機構のある鞘のボタンを押せばトリガーが現れ、鞘の本体は一回転して前後入れ替わり、鞘の底に当たる部分がスライドして、そこには銃口としか思えない物をみせていた。銃口は真っ直ぐ突撃してくるアルバトロスへと向けるマリー。静かに引き金を引けば左右2門づつ、合計4門からの拡散徹甲弾が一気にバラ撒かれ、アルバトロスの装甲を撃ち抜いて内部へとめり込んでいく。反動でマリーは女性にあるまじき無様な姿で大地へと倒れ伏し、全身にダメージを負っていた。
「ごほっ、おい、おい。30ミリ機関砲弾を魔改造して反動軽減考えないで対装甲用の拡散型フレシェット式徹甲弾かよ。装甲ぶち抜かれて結構キツいぜ。騎士様は正々堂々って言ってませんでしたかねえ?」
T-heartsの機動系にもダメージを受けたのか、アルバトロスはゆっくりと膝を折った。
「ええ、試作品ですけどね。対装甲散弾式貫通弾を装填してみました。本当なら毒針とか言いたいのですが、そこまでやると騎士道に反します。必殺技として作った玩具まがいですが、ご感想は?」
マリーも反動で吹き飛ばされたのが響いたのか左腕をかばいながら立ち上がってみるも、やはりこちらもフラフラとなっていた。
「今回も引き分け・・ってなるか?・・・・ってなんだ!ありゃあ!」
突然、激しい爆音と共に飛来した物が激しい閃光を放ち、地上に閃光と共に爆風が訪れた。
「各員!状況確認!被害状況を!負傷者は?」
「ちくしょう!EMPだ!駆動系がやられた!」
「衛生兵、早く来て!爆風で吹き飛ばされた車両がぶつかって大怪我した子がいるわ!工兵は車両を壊して救出を!」
阿鼻叫喚な地獄、そういった状況が発生していた。
「各員は戦闘中止!基地に情報を確認して!これって新型戦略兵器の可能性があるわ!」
「うむ!各々は所属するレギオンを経由してもかわまない。もはやここでの戦闘は不可能と判断する!横槍を入れたバカを突き止めろ!」
マリーとアルバトロスは流石に指揮官らしく、混乱を収めようとして適切な情報を得ようとしていた。
「団長!・・・・新国家の設立宣言が・・・核保有を宣言されました!」
「朝鮮半島が・・・独立国家として・・・・武装蜂起しました。反乱軍は大韓帝国軍を自称しました」
二人に届いたのは最悪の状況、運営が認めたルールの元での新勢力誕生イベント、クーデターイベントである。
初期設定で書いている最中に判定を何度もやったのですが、成功判定となりました。
なのにリアルでコレやられたのでどうしようかと本気で悩みましたが、出すことにします。