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8.僕と猫と月と「 」
「あの…夜も遅いので、自分は帰ります。猫ちゃん、見つかって良かったです。」
僕は女性に声をかける。冷たい風が廊下に流れてきて、少し肩をすくめる。
ピアノが最後の一フレーズを奏でて、とまる。
月が雲に隠れたのか、辺りが急に暗くなる。
「あっ、そ、そうですよね、す…すいません。はい。ありがとうございました…!」
震えた声でそう告げた彼女の顔は、暗がりで見ることはできなかった。
ルナが「にゃおん」と鳴いて。
バタン!とドアが閉まった後、1人廊下に僕は佇んでいた。
「…帰るか。」
死んでもいい?…まあ、彼女の自殺願望も猫がいるなら大丈夫だろう。
それに今日は寒いから、早く家に帰りたい。
僕は一回伸びをすると、アパートを出て歩きだす。
左手にさげたビニール袋がカサカサと鳴った。
そういえば、不思議な目薬を買ったんだった。
なんでも忘れたいものを忘れられる薬らしい。
恥だけは多い人生だ。忘れたいものなら沢山ある。
「今日は忙しくなるぞ〜」
僕は、小走りで帰路を目指すのだった。




