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フェアリーリング  作者: 坂井美春
第四章 ネーデルランド
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オランダ南部ロッテルダム

 敵性来攻生物はハーグ、ロッテルダムといった都市から市民を追い出しながら、南下を続けていた。アムステルダムの南西に位置するオランダの第二の都市ロッテルダムからも市民の避難が進む中、敵性来攻生物ヴイーヴルは人間を見かけると、必ず群れで襲ってきた。オランダ王立陸軍は主要な都市を守るために善戦していたが、ワイバーンと名付けられたより攻撃的な大型敵性来攻生物も登場するようになると被害地域が急速に広がっていった。ワイバーンはヴイーヴルより体格が大きく、携帯火器H&K HK417自動小銃では対処できる事態を超えていた。

 ラジオ・ネーデルランド放送は、敵性来攻生物の侵攻状況を伝え、早くからベルギーへ避難するように指示していた。ラジオ・ネーデルランド放送は、アムステルダムから全市民の避難が始まった時、放送機材を持ち出し、一時避難場所に臨時のスタジオを設置しながら放送を続けていた。電波の届く範囲は限られていたが、オランダ北部から脱出を試みる多くの避難民に、広がりつつある危険地域から安全な場所への脱出方法を伝え続けていた。

 セリア・ケイは、ベームスター干拓地ミサイル爆発事故現場後、行き場を無くしたためにアムステルダムの保護施設に身を寄せていたが、敵性来攻生物の危険にロッテルダムの施設まで集団で避難してきたばかりであった。

 ところが、ここロッテルダムも敵性来攻生物の危険が迫っていることは他の市民と何ら変わらなかった。市内の行政が事実上絶たれることとなったため、保護施設は暗黙のうちに放棄される事態となり、さらに南方のベルギーのスヘルデ川沿いにある港湾都市アントウェルペンの施設へ集団避難することになった。

 しかし、妹の死という事実に立ち直りきれていない彼女は、自暴自棄の真っ最中であり、何回かに分けて実施される避難に関心もなく、避難順番を他の人に譲ってしまっていた。このため、いちばん最後に出発する一行になってしまったが、これが運命の分かれ道となった。予定では車で移動する段取りであったが、道路には避難する人込みが溢れ始めており、車は数珠つなぎのまま動くことができない状況に陥り、車は次々と道路上に乗り捨てられるようになっていた。このため、ほかの避難民と同様に移動は徒歩によらなければならなかった。

 セリア・ケイたちの保護施設の避難者一行は、錯そうする情報に混乱し、人込みの中でいつしか散り散りになってしまった。ひとりはぐれた彼女は、ここでどこに避難するのが良いか考えを巡らせた。身を寄せることのできる家族や親戚、友人は周辺にいない。安全な場所が分かれば、そこがいちばんの選択肢であるが、どこも危険は似たり寄ったりであるのであれば、保護施設の一行と再び合流することを目指すことが最良に思えた。彼女はベルギー政府が用意したという一時避難所に向かうことを考えた。ラジオ・ネーデルランド放送は、アントウェルペンすらも危険になりつつあることを伝えていたが、当初の予定どおりにアントウェルペンを目指し始めた。

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