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神様のコラージュ  作者: 飛来颯
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存在しない男

 これは、小説『綺羅』などに出てくる《栗栖要》が《古賀浩一郎》率いる裏組織『古賀会』に入る前の話である。

 

 薄暗い倉庫の中にて。今、その場にいるのは《栗栖要》と名乗る30代半ばの男と、まだ年若い青年の2人だけだった。

 この栗栖要という男、実は偽名。それどころか、顔も経歴も全てウソ! なぜなら彼は、幼い頃に起きた一家心中で戸籍から抹消された人間だからだ。

 親の代から鉄工所を受け継いだ父は、不渡り手形で首が回らなくなり、妻とまだ幼い我が子を連れてガス自殺を図ろうとした。

 ‥‥‥遠のいていく意識の中で、父は横でぐっすり眠る息子を見て何を思ったのだろう?

 幸い発見が比較的に早かったので、ぐっすり眠っていた栗栖は、ガスを吸うことなく助かったのだが、父母は肺までガスを吸い込んですしまい亡くなっていたらしい。

 その後、救出者は彼を保護するではなく裏組織に売り飛ばした‥‥‥‥その男は、父母を自殺へと追いやった男で金を返せそうにない赤ん坊を高値で売り付けたのだ。

 かくして世間では彼は、一家心中の犠牲者の1人として処理され、戸籍も抹消された。その後、組織の一員として働くようになった〝幽霊〟は自らを《栗栖要》と呼ぶようになり、率先して他人の顔に造り直してスパイ活動をするようになる。

 様々な人物のプロフィールと防犯カメラに映る彼の動きを完璧にコピーし、その相手に成り済ます事が可能なのだ。

 仲間内では、彼を〝如何様者いかさまもの〟と読んで蔑んでいるが、上層部からの信頼は厚い。

 手術する執刀医は、医師免許を剥奪された人物だが、腕は良いらしくヤミ医者として地下で看板を挙げているらしい。


 「‥‥‥準備は抜かるなよ、お前は今日から《門田隼人》だぞ。分かってるな?」


 栗栖の声に青年は、手鏡で自分の顔を確認した。


 「分かってるさ、昨日で〝俺〟は捨てて、今日からは『小笠原研究所』の研究員《門田》だ」


 とある事情にて、合田は《門田隼人》という男になりすまし『小笠原研究所』という製薬会社に潜入することとなった。

 その〝男〟は依頼者の話しによると、いきなり失踪してしまったというのだ。確証がある訳ではないが明らかに周りの人間たちは、不審がっている。 

 それというのも、彼個人が研究している事柄に関わっているらしく、内容を把握してない為らしいのだが。

 どうやら《門田隼人》という人物は、研究所にとっては〝消したい〟人物らしい。その証拠に、研究所内では彼は行方不明扱いとなっているが、誰も警察に〝失踪者届け〟を提出する気配がない。

 きっと、裏で何かがある筈なのだが‥‥‥

 そこで〝彼ら〟の元へ訪れ、依頼して来たのだ。その《門田隼人》本人を探し出すようにと。

 その時、栗栖は本物が見つかるまでの間、新人の青年に〝試験〟という名目で彼を、門田隼人に成りすませて会社に行かせることにした。勿論、監視付きで‥‥‥


 青年は鏡で今の自分の顔を確かめ、最後の確認をしていた。なぜなら、その〝顔〟は彼のものではなく、行方不明者のものだからだ。

 生まれて初めて、他人の顔に作り替えたのだ無理もあるまい。違和感がありすぎて仕方がないみたいだ。



 彼の名前は、《合田》。上層部の人間が、いきなり連れてきた男である。

 はっきり言って、名前以外のプロフィールは誰も知らない。それどころか上層部の人間でさえ、堅く口止めされているらしい。

 まぁ、別にいいではないか。仕事さえしてくれれば‥‥‥それにしても20歳いくかいかないかくらいの年頃のクセに、ニコリともしやがらない。気味悪いガキだぜ!

 栗栖は納得できないながらも、上層部には逆らえなかった。


 「ところで、合田。1つだけ注意事項がある」


 いきなり栗栖に呼び止められ、合田は首を傾ぐ。

 新田隼人のプロフィールは、頭に叩き込んだし、会社の監視カメラに映る彼の仕草とも完コピ済みである。

 顔も、写真そっくりに作り替えている。ホクロの位置までも一緒‥‥‥他に何があると?


 「絶対に、女からネダられたとしてもエッチはすんなよ?」


 突然のことに、合田は「はぁ?」と聞き返した。あまりにもクダらない話しだからだ。凄く真剣に言うから、何かと思ったが‥‥‥


 「俺は、そこまでガッツかねぇよ! しばらくだったら我慢出来ない事ねぇ」


 ああ、実はさ。俺この前まで結婚してたけど、他の女とも遊んでたんだ。

 それがある日、遊び相手に別れ話を切り出したら女が家庭に乗り込んで来てさ〜。俺の背中のホクロの位置や、尻のアザまで全部バラされて、こんな男とは別れてやる! なんて、吐き捨てて帰ったんだけど。その後で、家庭も崩壊しちゃって〜。

 だから、お前も下手に門田の女に手ぇ出してバレたら、元も子もないだろ? 女は、あざといって言うからなぁ。

 俺たちは相手の顔までは変えることができても、背中のホクロまでは分からないからなあ。

 まぁ、気を付けるこったぁ。


 ‥‥‥何気にサラリと恐ろしいことを言われて、完全に合田は委縮してしまった。

 だが当の栗栖本人は、ケロリとした雰囲気で、合田にある鍵を渡した。

 これは何だ? と聞くと。栗栖は、満面の笑顔で答えた。


 これは、俺のアジトの鍵だ。今、俺は新しい子と別の場所で暮らしてるから、部屋は好きに使うといい。


 それと、俺は今《立石房弘》って名前で通ってんだ、カッコいいだろ? 忘れんなよ。その名前で部屋も借りてるから、絶対に間違えんな。


 それだけを言うと、栗栖はスーツに着替えメガネを装着した。


 「これからは、お前が門田で俺は付き添い人兼監視人の立石だ」


 ‥‥‥ここでの設定は、門田隼人という男が実は生きていて、記憶を失くしていたということ。

 先に会社に連絡を入れておいたので、もし出社した彼を見て誰かが顔色を変えたら、ソイツは何らかに関わっている疑いがある。

 事前に、合田にはサングラスを掛けさせて車椅子に乗せた。それは、彼が記憶喪失だという設定だからだ。

 きっと、それを見た犯人は何らかの行動に移す筈である。


 


 都内‥‥‥オウガ製薬会社の敷地内にある『小笠原研究所』のラボにて。

 車椅子に乗せた合田を下に俯かせ、付き添い人の栗栖が車椅子を押して歩く。

 ラボの中にいたのは、所長の《小笠原》に同僚の《日室》《小坂井》《鴨居》それから紅一点の《新庄》

 確か、このチームで何かを研究してたな。ふと、栗栖はその事が気になった。


 「‥‥‥正直、門田が戻って来るなんて夢にも思わなかったんです。上から〝捜索願い届け〟を出すな、と言われたものですから‥‥‥」


 戸惑いを隠せない、所長。中には泣き出す者もいる。

 やっぱり、何か隠してやがんな。

 栗栖がチラリと周りを見やると、その中で妙に冷静な人物がいた。

 それは紅一点の新庄だった。

 





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