第十四話 ホエザルとキバタン、声がでかい者同士 語り手:キバタン
広場でホエザルと会ったのは、偶然だった。
ホエザルが広場を歩いていた。普通に歩いているだけなのに、声が大きい。独り言も大きい。
「今日の広場は静かだな」とホエザルが言った。
ものすごく大きな声で。
おれは少し笑った。
「静かじゃないぞ」
「え?」
「おまえの声が大きい」
「……静かにしてたのに」
「それが静かなのか」
ホエザルは少しがっかりした顔をした。
おれはそのそばへ行った。
「おれも声が大きいぞ」
「どのくらい」
「感情が溢れると、止まらない。泣いても笑っても全部でかい」
「それは違う種類だ。おれは普通に話しててもでかい」
「そうか。じゃあ、おれのほうがまだコントロールできる余地があるな」
「うらやましい」
「でも感情が溢れると無理だ。どうにもならない」
ふたりで噴水のそばに座った。
「声がでかいって、困ることが多いか」とホエザルが聞いた。
「困る。でも、感情が溢れてるってことだから、しかたない」
「割り切ってるんだな」
「割り切った方が楽だった。なくすことはできないから」
「おれも練習した。少し小さくする練習。半分くらいにはなった」
「半分でも大きいが」
「それがおれの「静か」だ」
おれは少し考えた。
「……半分にする練習か」
「やるか?」
「やってみる」
ホエザルが「おれの「静か」はこのくらいだ」と言った。
かなり大きかったが、普段より少し小さかった。
おれが同じくらいの声で「これくらいか」と言った。
「そうだ。それで十分だ」
「……なんかできる気がしてきた」
「感情が溢れたときはできないかもしれない」
「そのときはしょうがない」
「そう。しょうがないときは、しょうがない」
ふたりで笑った。
かなり大きな声で笑った。
広場にいた別の子たちが振り返ったが、ふたりとも気にしなかった。
黒板に、ふたりが刻んだ。
ホエザル:「半分の声で話す練習をした。キバタンと一緒に。できた」
キバタン:「でかい声同士で笑ったら、すごくでかかった。最高だった」
その夜、広場を後にしながら、おれはふと思った。
声が止まらない、という悩みを持つのは、ホエザルだけじゃないかもしれない。
笑い声が止まらない子、というのが、もしかしたらいるかもしれない。
「……今度来たら聞いてみよう」
ひとりごとを言った。
だれも聞いていなかった。でも、刻んでおきたかった気がして、翌朝もう一度広場に来て、黒板の端に小さく刻んだ。
「声が止まらない仲間が、まだいるかもしれない」




