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無能扱いの底辺ギルドマスター、助けた仲間がなぜか全員最強になっていく  作者: 甲賀流


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次のステージ



 結局、あの後どうしたかと言うと。


 フィオナを家――というか、ギルドの二階に連れて帰った。


 連れて帰った、という言い方が正しいのかは分からない。


 本人に帰る場所がなかったからだ。


 いや、正確には、あるにはあったらしい。


 ただ、戻りたくないらしい。


 そこを詳しく聞こうとしたら、フィオナが妙に気まずそうな顔をしたので、まぁ深くは聞かなかった。


 他人の事情にずかずか踏み込めるほど、俺は立派な人間じゃない。


 それに、昨日の時点で十分おかしいことだらけだったしな。


 これ以上増やされても困る。


 増えたんだけど。


 起きた瞬間、まず視界に入ったのは天井だった。


 見慣れた天井だ。


 いやまぁ、そりゃ見慣れてる。


 自分の部屋なんだから。


 問題は、その次だ。


 起き上がって、なんとなく扉の方を見た瞬間。


「……なんでいるんだ?」


 扉の前に、フィオナが正座していた。


 綺麗な姿勢だった。


 綺麗すぎて逆に怖い。


 しかも、こっちが声を出した瞬間、ぱっと顔を上げて。


「おはようございます、ロイドさん!」


 にこっと笑った。


 完璧な笑顔だった。


 朝の挨拶として百点満点だ。


 問題は、なんでそれを俺の部屋の前でやってるのかって話である。


「……いつからいた?」


「少し前からです」


 少し、ねえ。


 それ便利な言葉だよな。


 一分でも少しだし、一時間でも言い張れば少しだ。


 いや一時間は少しか?


 まぁいい。


 よくないけど。


「そこで何してたんだ?」


「起きたら、すぐ分かるようにしようと思って」


「……そうか」


 意味は分からんが、言ってる本人が悪びれてないので余計に困る。


 しかも、フィオナの頭上には相変わらずあれが浮かんでいた。


【ギルド所属:彼方のエトワール


【才能:剣術(極限最適化)】


【戦闘適性:S】


【知力:D】

【敏捷:B】

【武器適性:短剣A】


【状態:最適化】


【副作用:執着増加(対象:ロイド)】


 消えない。


 昨日の夜、見間違いか疲れ目か、あるいはもう俺が駄目なのか、そのどれかだと思って寝たのに、朝になっても普通にある。


 どれでもなかったらしい。


 いや、それはそれで困るんだが。


「朝食、作りました」


「……は?」


「簡単なものですけど」


 そう言ってフィオナが立ち上がる。


 俺は反射的にそっちを見る。


 食堂代わりに使ってる一階の部屋から、スープの匂いがしていた。


 嫌な予感がする。


 階段を下りる。


 鍋がある。


 パンが切られている。


 卵まで焼かれている。


「……お前、作ったのか?」


「はい」


「勝手に?」


「はい」


「そうか……」


 駄目だとは言いづらい。


 普通にありがたいし。


 ありがたいんだが。


 距離感がいきなり最終局面みたいになってるの、どうにかならないか?


 何この新妻と迎える朝みたいな。


 昨日会ったばっかりだぞ、俺たち。


 いや、昨日死にかけた相手を拾った時点で普通の距離感じゃないのかもしれんが。


 にしても早い。


 早すぎる。


 とりあえず席に着く。


 フィオナも当然のように隣に座る。


 近い。


 普通、向かいじゃないのか。


「……お前、向こう空いてるぞ」


「隣の方が、すぐ動けるので」


「何にだよ」


「ロイドさんに何かあった時です」


「朝飯中に何があるんだよ」


 自分で言ってて、ちょっと笑いそうになった。


 フィオナは真面目な顔のままだったが。


 そこ笑うところだろ、とは言わない。


 そういうタイプじゃないのは分かってきた。


 朝食は普通にうまかった。


 それがまた困る。


 家事が壊滅的なら、まだ雑に断れたのに。


「……うまいな」


「本当ですか?」


 ぱっと表情が明るくなる。


 ああ、うん。


 その反応は可愛い。


 可愛いんだが、可愛いから余計に扱いに困る。


「本当です。よかった……」


 胸を撫で下ろしてる。


 何だろうな、この、朝からやたら重い感じ。

 やっぱり新妻じゃねぇか。


 いや、違うな。


 新妻って言うとなんか俺が変な感じになるからやめよう。


 とにかく、落ち着かない。


 朝食を食いながら、昨日の続きも片付けた。


「で、フィオナ」


「はい」


「お前、昨日ギルド入りたいって言ってたよな」


「はい」


「一応言っとくけど、うちは本当に何もないぞ」


「知ってます」


「知ってるのかよ」


「でも、入りたいです」


 即答だった。


 迷いがない。


 頭上の表示を見る。


【副作用:執着増加(対象:ロイド)】


 見ない方がいい気がするのに、つい見てしまう。


 いや、見るだろこんなの。


 見えるんだから。


「……仮登録だけな」


「ありがとうございます」


 また、ぱっと顔が明るくなる。


 ほんと反応が素直だ。


 こういう素直さは、だいたい裏切らない。


 その代わり、逃げづらい。


 朝食を終えて、一階へ降りる。


 うちのギルドは、昔はもう少し賑やかだった。


 受付台もあるし、依頼を貼る用の掲示板もあるし、無駄に広い打ち合わせ用の机なんかもある。


 ただ今は、全部ちょっと寂しい。


 誰もいないからだ。


 じゃあなんでこんな場所をわざわざ使ってるのかと言うと――まぁ、意地だな。


 ここまで人が減って、それでも看板だけは下ろさなかったのは、未練があるからだ。


 潰れかけ、じゃなくて、ほぼ潰れてるだろと言われたらその通りなんだが、だったら尚更、自分から認めるのも癪だった。


 それに、家賃はもう払ってるし。


 使わない方が損だ。


 夢も未練も意地も、最終的にはそういう妙に現実的な理由で生き残る。


 あんまり格好いい話じゃないが。


「ロイドさん」


「ん?」


「今日は何をするんですか?」


「何って……仕事だよ」


 依頼板を見る。


 大したものはない。


 そりゃそうだ。


 まともなギルドなら、もう少し上の依頼を回せるし、そういう仕事は当然そっちに流れる。


 うちみたいな半死半生のギルドに来るのは、採取とか、運搬とか、あとは誰もやりたがらない地味なやつばっかりだ。


 まぁ、俺にはそのくらいがちょうどいい。


 今はフィオナもいるしな。


「第三層の採取依頼だな。薬草と鉱石の回収」


「戦闘はありますか?」


「ないのが理想だな」


「そうですか」


 少しだけ残念そうだった。


 なんでだよ。


 普通は逆だろ。


 その時点で、やっぱりこいつもだいぶおかしい。


 ギルド協会で仮登録だけ済ませて、俺たちはダンジョンへ向かった。


 道中もフィオナは近い。


 歩幅を合わせてるとか、そういう可愛い話じゃない。


 単純に近い。


 肩が当たりそうなくらい近い。


「……フィオナ」


「はい」


「もう少し離れてもいいぞ」


「嫌です」


 即答だった。


「……なんでだよ」


「近い方が安心します」


 安心、ね。


 なんでとかは聞かない。


 聞いたらややこしくなりそうだからだ。


 第三層は危険も少ないし、その分、駆け出しや半端者がうろうろしてる。


 俺みたいなのには助かる場所だ。


 問題は、そういう場所でも普通に魔物は出るってことだが。


 採取を始めてしばらくしたところで、岩陰からストーンバイパーが出た。


 細長い石蛇だ。


 毒は弱いが、噛まれたら普通に痛いし面倒くさい。


「下に――」


 言い終わる前に、フィオナが動いた。


 速い。


 昨日より、明らかに。


 踏み込みが軽い。


 いや、軽いというより迷いがない。


 蛇が頭をもたげた瞬間にはもう距離を詰めていて、そのまま短剣を滑らせるように振る。


 一閃。


 ストーンバイパーの首が落ちた。


「……強いな」


 思わず呟く。


 昨日は昨日でおかしかったが、今日は今日でおかしい。


 頭上の表示を見る。


【戦闘適性:S】


【成長速度:加速中】


「加速中ってなんだよ……」


 どこに向かって加速してるんだ、こいつは。


 フィオナが振り返る。


「何か言いましたか?」


「いや、何も」


 言えるか。


 お前の頭の上に意味不明な表示が出てるとか。


 そんなこと言ったら、たぶん俺の方が頭おかしいとか言われてしまう。


 その後も採取を続けたが、フィオナはやたらと俺の前に立つ。


 魔物の気配がすれば先に出るし、足場の悪い場所では自然に俺を庇う位置に入る。


「おい、俺は後ろにいるから大丈夫だ」


「ダメです」


 また即答だった。


 しかも目が本気だ。


「ロイドさんに傷がつくのは、嫌です」


「…………」


 嬉しいっちゃ嬉しい。


 嬉しいんだが。


 なんだろうな、この圧。


 これも副作用に書いてある執着って症状の一つなんだろうけどさ。

 


 そして夕方前には依頼を終えた。


 報酬は銀貨数枚。


 まぁ、そんなものだ。


 大儲けには程遠いが、二人分の食費くらいにはなる。


 ため息をつきながら銀貨を数えていると、隣でフィオナが小さく笑った。


「ロイドさんと一緒にお仕事できるだけで、嬉しいです」


「……そうか」


 こういう素直さが一番困る。


 打算も駆け引きもなく真っ直ぐ来られると、こっちは逃げる理由を探す方が難しい。


 ギルドに戻って、簡単な夕食をとる。


 今日もフィオナは当然のように隣に座った。


 当然のように近い。


 近いというか、ほぼ密着してる。


「……もうちょっと離れてもいいんだぞ」


「えっ、離れた方がいいですか……?」


 フィオナの目が、見る見るうるむ。


 なんだこれ。


 そんな顔されるようなこと言ったか?


「いや、いい。そのままでいい」


 逃げた。


 俺は逃げた。


 戦略的撤退と言い換えてもいいが、まぁ逃げた。



 それから夜。


 自室に戻って、ようやく一人になる。


 ……いや、一人か?


 扉の向こうに気配がある気がするんだが。


 考えないことにする。


 今日はもう、考えない方がいい。


 そう決めたのに、昼間のことが頭に浮かぶ。


 それにしても、強くなりすぎだろ。


 距離だってずっと近いし。


 そこまで考えたところで、


 俺はふと別のことを頭の中で考えた。


 D級ギルド昇格審査。


 今はE級ギルドである彼方の星だが、


 人数が増えたことで、次のステージへ上がる可能性が現実的になった。


 D級にあがれば、六層から十層の任務を受注することが協会から認められる。


 たしか審査の最低条件は、


 ギルドメンバーが最低三人以上。

 

「……あと一人、仲間がいるよなぁ」


 せめてもう一人いないと、審査のスタート地点にすら立つことができない。


 そう思ったその時だった。


 かすかに扉が軋む。


 視線を向ける。


 少しだけ開いた隙間から、フィオナが覗いていた。


 目が合う。


「……ロイドさん」


「……なんだ」


「もう一人って、女の人ですか?」


 声は穏やかだった。


 穏やかだったが、なんだその質問は。

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