第3話 母の味ライスボールと、クンツァイトさん自家製はんぺんチーズフライ、大葉の包み揚げ 1
わたしは息を潜めて探索していた。
洞窟の暗闇の中、ヒカリゴケの灯りを頼りに。
古代エルン=マロヌス語の石盤集め。これには、この国の生い立ちや、神様の物語が掘られている。タヒ村の考古学者さんの依頼だ。
わたしが拾って行った先にあった洞窟が当たりで、山ほど石盤があるし、貴重な壁画だってある。古代の絵師さんが神様を描いたのね。
問題は、どうやってゴブリンの群れを潜り抜けて、これを仲間に知らせるのかってことよ。
わたしのショートソードでゴブリン無双。は、無理無理。
音痴の怪音波でゴブリンを逃がす。うーん、敵対した場合、不利なのはわたしかぁ。
火を焚く……は、ゴブリンにも見つかるなぁ。
素早いシーフのチップとクロウが見つけてくれたらいいんだけどね。
そこで、手にした石盤から、ニュルリとこんにちはした。
ゲジゲジだっ!!
「うわあああッ!!やだあああッ!!」
無意識に石盤をブン投げた!
あぁ!
石盤、壁画に傷をつけ、割れたあぁ!!
あぁーッ!!
肩に手を、ポンと置かれた。
「今更遅いわよチップ!どうせ文化遺産を傷もんにしたのはわたしですよ!」
「ゴァ」
ゴブリンの群れだったぁー!!!
「どっひぇーッ!?」
腰が抜けたァー!!!
ゴブリンも、一人で大騒ぎしていたわたしを、敵とは認識し難いのか、すぐに斬りかかりはしなくて、仲間と目配せ。
すぐ、別方向に対応した。
「ゴァ!!」
百発百中の投げナイフが、ゴブリン達の眉間を、貫く貫く!!
クロウだ!!
前方からは猪突猛進、エスメラルダの剣戟!!
「ラビを食うなら、あたしを食ってからにしなぁ!!!」
そこにひょいひょいと、身軽なチップが洞窟に駆け込んだ!
「チップ!この洞窟はお宝の宝庫よ!!皆で漁ろう!!!」
「バカモン。ゴブリンの量、無限に湧くぜ?石盤諦めい!駆け抜けっぞ!!」
わたし、チップに背負われても、絶対石盤離さなかった。
「こら!捨てなさい、重いから!!」
「いやだ!やだやだ!!行きたくない!!お宝ぁ!!!」
チップ走り出した!
「ぐぇ。締めるな締めるな、強欲女め!」
「やだぁー!!洞窟ぅー!!」
わたしとチップの戦いをしながら、ゴブリン達をすり抜けてく。
時にクロウの投げナイフが、時にエスメラルダやラゴゥの剣がわたし達を助けた。
ヘトヘトのわたし達が、村はずれまで帰って来た。
ペタペタ、と、ちっちゃなニャビの足音。
「らびぃ、そえ、らめ!」
「え?でも、一個くらい……」
「にゃあにかしてッ!!」
石盤、ニャビの足元に置いたら、ニャビはいきなり呪文を高速詠唱。
石盤から魔術の仕掛けが現れた。
「すごっ!!」
あぁ、そうか。周りに敵がいないから、呪文言えるのね。
こういう時のニャビは高レベル魔術師も顔負け。どんな高度な魔術も知っている。
ニャビが魔術でつつくと、石盤の魔術が解除された。
「ふうー。らびぃ、こえ、いいお!」
ラゴゥが言った。
「ニャビ、何を解除したの?」
「ごぶいん、たーくさんでゆ、とりゃっぷだよ!」
「じゃああのゴブリンの嵐は……」
チップの言葉で、皆がわたしを見た。
「だ、だって、石盤集めるクエストだったじゃない!?」
クロウが言った。
「神は欲を捨てよと申される。また、こうも言った、金銭にがめついことは罪だが、貧しいものに与えるのは最も清い金の使い道であると。」
「へー!なら、わたし達の儲けだね!わたし達程の貧乏パーティはなかなかいないよ!」
「図太ッ。俺でも引くわ……」
「クロウの兄貴、ラビの奴死んでもあの石盤離さないぜ。」
ラゴゥ、エスメラルダに尋ねた。
「エスメラルダ、叱った方がいいんじゃないの?俺が叱る?」
「……ん?あ、ああ。悪いね、考えごとをしていたんだ。」
エスメラルダ……。
この村のお子さんに会ってから、ずっと考え込んじゃってる。
「エスメラルダ、何を考えているんだろうね……。」
「俺たちゃお前が何考えてんのか知りてぇよ……。」
吹き荒ぶ風が、枯れ木を揺らした。
この国では、神様はひとつ。
光の神エルン=ファルファロ様だ。
聖典にこうある。
波打つ金の髪、淡く輝けりし光の王。
まぁ、わたしのような一般冒険者は、聖典なんか長続きせず、眠くなっちゃう。
クロウの信じてる神様はこの人であること。
考古学的には、この神様はエルフの神話が流れ着いたもので、実在するエルフの王とも囁かれている。
このエルン=ファルファロ様信仰の前、もっと昔には、たくさんの神々の神話があったそうな。
亡くなった王様、マロン=マロヌスが名を継いだ、エルン=マロヌス神など、である。
タヒ村の考古学者さんは、早口だけどわかりやすく、そう教えてくれた。
「それで、解読した結果、間違いなくエルン=ファルファロ神話以前の時代の、エルン=マロヌス語の神話の一片でした!素晴らしい!!この石盤で神話の解釈が一変しますよ!ラビさん、よく届けてくださいましたね!!」
考古学者さん、報酬ガッポリ弾んで、金貨袋!!
「えぇ?石盤、一個でこんなに?」
「それだけの価値がある石盤なんですよ。わたし達学者は貧乏家業ですが、なにせこの研究は国が支援していますからね。今は王不在なので授与されませんが、石盤の獲得は名誉冒険者ものですよ。」
「あの〜この石盤、ある洞窟に山ほどあって、神様らしき壁画もあったんですよ。でも、うちの魔術師によると、石盤自体に魔術が仕込まれていて、ゴブリンが湧くんです。これは、解除したやつですけど。」
「なるほど……だから、持ち帰れる冒険者が限られていたんですね……。恐らく、魔族の仕業でしょう。この歴史を解明すれば、魔族への謎も明かされますからね。」
帰り道、わたしはホクホクの笑顔で金貨袋を鞄にしまい込んだ。
皆に何買ってあげよう?
アクセサリーショップを通ると、エスメラルダの長い髪が脳裏を過ぎり、なんか買って行こうかと眺めてたら、エスメラルダのお子さんが真剣にアクセサリーを見ていた。
占い師みたいな人のとこと、アクセサリーショップ、真剣に行ったり来たりしてる。
わたし、離れてから様子を伺った。
エスメラルダもお子さんも、再会してから難しい顔。
王位、継承したくないのかな……。
結局はエスメラルダのお子さん家に滞在してるから、帰り道は同じなんだけど。
「ラビさん。帰ってらっしゃったんですか。」
見つかっちゃった。
「うん。クンツァイトさん、真剣そうだったから。買えたの?」
「はい。バイト帰りにまっすぐ来たんですよ。今日は親父と母さんの、記念日ですから。」
「……そうなんだ。なら、エスメラルダ喜ぶね。」
「母さんは、どうでしたか。」
「今日も強かったよ!この村のエスメラルダ像にも負けないくらい。」
「……田舎のこの辺りでは、勝てるかもしれません。ですが、魔族の暮らす地域では違う。回避も出来ない母さんは、今のままでは容易く殺されます。ある意味では、母さんが戴冠して王都に残るのは、俺達には最善ですよ。」
あ……なるほど。
クンツァイトさんは、エスメラルダに安全地帯にいて欲しいのね。
「でも!わたし達もエスメラルダを守るよ。魔族相手なら、ミスリル鎧ぐらい買っちゃうし!」
「ラビさん。俺は母さんに貴方方のパーティーを引退してもらいたいって、昨日話し合ったんですよ。母さんは貴方達が考えるより、とても脆い人です。俺の反抗期も、親父の不治の病も、母さんはどれだけ泣きじゃくったかしれない。」
クンツァイトさん、本気なんだ。
でも、わたしも譲る気は無かった。
「親孝行になるかどうかは、エスメラルダ次第でしょ。女の子は泣いて泣いて強くなるのよ。クンツァイトさんに泣かされた分だって、エスメラルダは剣に篭める力にしちゃうわよ。」
クンツァイトさん、ちょっと顔を緩ませた。
「母さんを信じてくれて、ありがとう。親父が死んだ。母さんだけは、俺が守らなくちゃならないんです。」
クンツァイトさん、良い人。良い人だから、すれ違ってるんだね。
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