エピローグ
あれから一か月。
ディネガランドはまだ破壊から完全に立ち直っておらず、調査船を派遣して、流木やブラスチックなどを探しては復興のための材料にしていた。
ユウキたち自警団も、そういった資材集めの仕事が多くなり、割と忙しい日々を送っていた。
幟のある街ではそのシンボルである幟が半分以上焼かれてしまっていて、損失の30%を何とか縫いなおしているらしい。
ギウイ・フィッシュから受け取った報酬を手に外に出る。
相変わらず車両型ディネガが死にたがりの運転をしていて、焦げた油のにおいがする街だ。
「あー、ユウキさん。お腹がすきました」
「さっきデータ食べたばかりだろ」
「それはそうですけど。乙女のお腹は速くすくんですよ」
「そんな言い回しきいたことがない――ん」
見覚えのある老人がいた。
どこでかは分からないが、会ったことがある。
老人は別の世界線とわあわあ叫んで、奇妙な覗き見型遊具機械にコインを入れないかと通行人をしつこく誘っている。
「わたしも見た覚えがあります。確か、わたしをビッグ・レディと崇める人たちの仲間です」
「なんだか怪しげな商売だな」
「でも、面白そうですよ」
「馬鹿げてる」
「見てみましょうよ」
老ディネガはユウキから代金をもらうと、別の世界線が見られる、とまわりで何度もうるさく言った。
なかを覗くと、奇妙な世界が見えた。
二千年前なら中世風の世界と言うだろう。
そのなかでひとり剣を振るって、ひとりの姫を魔物たちから守ろうとする剣士がいた。
いったい、これの何が面白いのだろう。
もう、十分見たと思うと、老人がぎゃあぎゃあ叫ぶので、仕方なく、見続ける。
剣士はそれなりに腕のある若者だったが、敵が多すぎた。
ついにふたりは崖の縁まで追いつめられる。
これは落ちて死ぬな、と思ったその時だった。
魔物の群れに落ちてきたのだ――軍艦が。
そして、そのブリッジから老人が顔を出した。
「おや? てっきり死んだと思っていたが、またもや異なる世界。うん。腕も生えているな」
ユウキは目を機械から離すと、これを売れ、と言ってポケットのなかのコインを全部わたし、残りは後で払うといい、今見たものを通信コードで知らせた。
それは提督の墓を飾るロック・ガーデンのためのユキノシタを手入れしているフレデリクや金融恐慌がもたらす喜劇的性質について脚本を書いているパトリオパッツィ、それにニラ玉をせっせとつくっている中佐のもとに届いていった。
――†――†――†――
覗き見機械はまだまわっている。
老人はあぜんとしている剣士と姫に気づき、錨鎖を伝って、下に降り、ふたりに対して、帽子の庇にちょっと手をやって、挨拶した。
「こんにちは。わたしは大英帝国海軍中将アンドリュー・ホクスティム三世。海軍の魔法にかかった提督です」
End




