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撃破の功労者たち

 逆重力の街の近接武器自動販売機もパトリオパッツィ打倒の功労者と見なされる。

 ユウキは誰かに刀の名前を問われるたびに彼の刀には銘はないと言い張ったが、真っ赤な刀身を見る限り、これを無銘にするのはありえない。


「紅き烈風。紅蓮の劫掠。紅竜の咆哮。このどれかだと思う。わたしの利き腕を斬り落としたのだから、それなりの銘がつくべきじゃないか?」


「……知るか」


 例の自販機は相変わらず、スキャン用のヘルメットが本物の重力に忠節を尽くして、そらに向かってぶらぶらしている。


 それを手繰り寄せて、パトリオパッツィにかぶせて、自販機のなかに入れたのだが、背が高いので、ちょっと首を傾けないといけないのが、ユウキにはちょっと腹が立った。


 提督に出会って以来、ユウキは背の高さが気になっている。

 パトリオパッツィもフレデリクもリアムもシンも、そして提督も背は高いほうだ。


 ギウィ・フィッシュは判定の外に置くとしても、何か思うところが出てくる。

 ただ、カータよりは高い。それが慰めである。


 これもエゴの一種なのだ。


 その後、自動販売機は質問をしたが、そのこたえも合わせると、チューニ度最高値の教理問答のようだった。


 質問その一:

 あなたは学生です。

 あなたの学校がテロリストに占拠されてしまいました。

 あなたはどうしますか?


 返答:

 突如、闇の力に目覚め、ひとりでテロリストを排除する。


 質問その二:

 あなたの腕は闇の力に呪われてしまいました。

 強力な力がありますが、使いすぎると闇に落ちます。

 あなたはどうしますか?


 返答:

 善でも悪でもない『第三の人類』として、全ての理と戦う。


 その結果、〈漆黒の猟死士〉という名の赤い大鎌が出てきた。


「この自販機は色が分からないのかい? ……まあ、いいか。武器なんて所詮殺せれば。それに、猟死士(フェイタルイェーガー)というのは悪くない」


     ――†――†――†――


〈ラルモヒィ・リヴォルヴァー販売 どうせあなたもがっかりする〉では相変わらず、全生命体にガッカリされる悪夢に悩まされるリスの親子ラルモヒィとマルモヒィがいた。

 いまも客からクイックローダーを使わないで、自動拳銃並みに素早く再装填ができる手術はやっているのかとたずねられ、ここには医療用ナノマシンがしみ込んだ絆創膏があるだけで、これを貼る以上の医療行為はここでできないと言って、ガッカリされているところだった。


「父さん。どうして僕らはガッカリされるの?」


「それは父さんが改造手術ができないダメなリス型ディネガだからだよ」


 ユウキがやってくるのを見た親子は返品される! ガッカリされる!とパニックに陥り、さらに後ろにいるパトリオパッツィも返品者だと思い込み、パニックにパニックが上書きされることとなった。


「安心しろ。クレームを入れに来たわけじゃない」


「ででで、でも、やっぱり役に立たなかったんじゃ」


「役に立った。そうだな?」


「いや、全然楽勝だったよ。ここのリヴォルヴァー」


 ユウキはリス親子のパニックを上書きされたパニックがさらに上書きされて、パニック複層構造体(ティラミス)へと変化しつつあるのをなだめ、パトリオパッツィの脛にはローキックを放った。


「うそうそ。すごい苦戦させられたよ。ここのリヴォルヴァーには」


 実際、パトリオパッツィはあの戦闘で、ラルモヒィのつくったリヴォルヴァーのせいで頭を吹き飛ばされかけることが五度あったことを認めた。


 それでパニックのティラミスがトルティーヤくらいの薄さになって、リスの親子はほんの少し落ち着いた。


「そ、それで、今日はどのような、御用で――」


 ユウキが顎でパトリオパッツィへしゃくりながら、


「こいつが一丁買う」


「ガッカリされる!」


「おい、落ち着け。せめて見せてからパニックになれ」


 ユウキのなかではひとつの策略が拍動し始めていた。


「きみはどんな銃を?」


 ユウキは自分の銃を見せた。

 すると、パトリオパッツィはユウキが思い描いた通り、自分のリヴォルヴァーよりもはるかに大きい、ショットガンくらいのリヴォルヴァーを選び、これを試し撃ちしたいと言った。


 一レーンしかない射撃場で、その巨大なリヴォルヴァーを撃てば、反動でどうなることやら。


 これがユウキの陰謀『バーン!となって、ドーン!と飛ばされ、クッションにズバーン!』だった。


 このどこか余裕のある仇敵に人生の厳しさを教えてやるのだ。


 リスの親子はパトリオパッツィのすぐ後ろにせっせとリスをダメにするクッションを積んでいく。


「きみたち、それは?」


「保険です。保険です」


 パトリオパッツィはその化け物リヴォルヴァーを左手で持ち、さあ、いよいよ『バーン!となって、ドーン!と飛ばされ、クッションにズバーン!』だと思ったら――、


「ちょっと待った」


 そうして、ウォークマンのイヤホンをつけて、再生ボタンを押した。それは空母甲板マーケットで売っていた骨董品のレプリカで音楽が磁気テープにインプットされている。


 パトリオパッツィは彼にだけきこえる優雅な音楽にあわせて、銃を華麗に操った。

 銃身が多少は跳ね上がったが、ユウキが期待した『バーン!となって、ドーン!と飛ばされ、クッションにズバーン!』とまではいかない。


 カータが身体をさばく理を武術に求めたように、パトリオパッツィは音楽に理を求めた。


「きみの今の顔。腕を落とされたときよりもいい顔をしている」


「知るか」


「わたしは人が期待していることがある程度分かるんだよ。だから、その逆を行って、人をガッカリさせる――」


「やっぱりガッカリされた!」


「――ガッカリさせることについては一家言ある。恥じることはない。選んだ相手が悪かったのさ」


「父さん、選んだ相手が悪かったって!」


「ガッカリされる!」


「きみたち、少し落ち着いてくれないかな? これには十分満足した。これをテラリア人の身体の真ん中に撃ち込んで手足がそれぞれ違う方向に飛んでいくのを見るのが楽しみになった。プレゼント用に包装してくれるかな?」


「リリリ、リボンの色は?」


「もちろん赤で」


「父さん、赤のリボンがない! 青しかない!」


「ガッカリされる!」


「そういえば青が一番好きな色だった」


「じゃあ、その、ガッカリはなし?」


「自分へのプレゼントを自分の好きな色のリボンで飾ってもらうわたしはなんて幸福なのだろう!」


     ――†――†――†――


 銃と鎌、それにカセットテープ。


 買い物遠征は大成功だ。

 ただ、パトリオパッツィは何かが足りなかった。


「あの店はなんだろう?」


「知るか」


「きみに何かふると、必ず『知るか』とこたえる」


「知らないものを知らないと言って、何が悪い」


「『ふーん。なんだろう? 見た覚えがあるんだけど、……ごめん、ちょっと分からないかな』って言ってもいいんだよ?」


「どうしておれが自分の腕を切り落とした相手にそんな気をつかわないといけないんだよ」


 空母甲板マーケットはこの日、たまたま東側を向いていたので西日はまったく差さなかった。

 どこにあるかは誰も知らないが夜になれば勝手に動く空母の原子力ジェネレータ―がヴヴヴと唸り始めると、あちこちに張り渡された電球が自己主張多めの白光を放ち、木造屋台と移動キッチンが暑い一日を最高ののど越しでしめるべくビアホールを開店させる。


 このマーケットにはビニールテープの集合体と様々な錆び具合の鉄くずしかなかった。

 だが、パトリオパッツィがあの店は何だろう?と言って、指差した店は布でできていた。

 古いランプを入り口に下げていて、色合いは落ち着いている


 ひと言で表現すれば、提督が好きそうな素材と配色――ブロンズとマホガニーだ。


「わたしにはそんな感じがする」


「知るか」


「行ってみよう」


「おれは行かない」


「だが、あの店には提督と対峙する上で役に立ちそうなものがある気がしないかな?」


「……仮にそうだとして、それがなんだ?」


「お互い腕を切り飛ばしたわけだけど、わたしのほうが先に切り飛ばしている。だから、アドヴァンテージがあるんだよ。ほんの少し。それを前提として、正直に言おう。提督の精神攻撃は、かなり効果があった。そして、その精神攻撃はその目的を隠ぺいして、達成した。あの場面で、もし提督が片腕のわたしを殺さないでほしいと真っ向から言っていれば、きみは即座にわたしを殺していた。ところが、そうはならなかった。お互い、敵にまわすと厄介な人間のそばにいるのだから、この提督が好む色彩の店で、提督の感覚を学ぶことはそう損にはならないと思うんだよ」


「その口車に乗ること自体、馬鹿げているが。まあ、いい。どうせ、あんたの買い物遠征だ。好きにしろ」


 そこは操り人形の店だった。


 様々な形のディネガ人形が壁一面に吊るされていて、さらに人形の材料になる布地とコントローラーが小さなブロンズの箱に入って棚に並べてあった。


 店主は白いモジャモジャ型ディネガで甲板マーケットでは長老の部類に入る。

 自分の品物に自信がある商人らしく、客が入ってきても過度に構わず、ゆったりと構えて、好きに店内を見せた。


「テラリアで操り人形をしていた身としては大変興味深いね」


「これは売れるのか?」


 モジャモジャはあまり売れないとこたえた。ただ、副業でミサイルを販売しているから、なんとか食べていける。


「操り人形を売る死の商人。ああ、いいね。創作意欲が湧いてきた。とりあえず材料と作り方の本をもらおう」


「ろくなものができない気がする」


「失礼だね、きみは。わたしがつくるのは裏切りと迫害、軽蔑と追放の物語だよ」

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