演劇へのクチバシ
パトリオパッツィは自身が監督と脚本を務める人形劇を駅舎の前で興行してみた。
中身はテラリアに棄てられた自身の話を丁寧になぞったもので、ただ、舞台は大昔の城やら騎士やらが出てくる時代に変えていた。
「うんしょ、うんしょ、お城のためにもっといっぱい殺さなきゃ」
と、殊勝な騎士パトリオパッツィはディネガから改変されたゴブリンたちを殺しまくったのだが、このゴブリンたちは首や手足が簡単に着脱可能で、剣で攻撃されると赤い水性インクをまき散らしながら倒れていった。
このゴブリンが彼らディネガをあらわしていることは明白だし、観客はそれを知っていたが、それにもかかわらず、ディネガたちは殺しのシーンに夢中になり、「うひゃあ。こんなスゲエ殺しは見たことがねえや!」と絶賛された。
そして、さんざん利用するだけ利用され、騎士がお城から棄てられたシーンでは腹があるディネガは腹を抱えて大笑いした。
「軍艦を出せば、もっとよくなる」
提督が言った。
「時代背景を考えてほしいな」
「フランシス・ドレイクの時代で妥協しよう」
「大変申し訳ないけど、このお話には海は出てこないんだよ」
「ニラ玉が足りません」
中佐が言った。
「話の筋を考えてほしいな」
「では、攻撃目標を指定してください」
「分かった。まあ、努力はしよう」
「血が足りねえな」
カータが言った。
「十分出てると思うけどね」
「上の階層に届くほどの血しぶきがねえと飽きられるぜ」
「あのデフォルメ二頭身人形のどこにそんな赤インクが入るのかな。発言をする前によく考えて」
「でも、血しぶきが必要なんだよ」
「どなたかひとりくらいは幸せになってもよろしいのではないでしょうか?」
フレデリクが言った。
「観客は幸福を求めていないんだ」
「左様でございますか。では、仕方ありませんね」
「やはり軍艦が足りない!」
提督がまたやってきた。
「お帰りはあちら」
――†――†――†――
提督は自身の生活にもっと軍艦が必要だと感じていた。
できることなら、相手の艦隊の前で思いっきり回頭し、Tの字をつくって、敵艦隊に集中砲火を浴びせたかった。
しかし、ウェポン相手ではそんな大規模な作戦は必要とされていない。
ユウキたちの白兵戦でカタがついてしまうのだ。
「やはり軍艦が足りない」
図書室でジェーン海軍年鑑を閉じながら、提督は首をふった。
「誰か艦隊を率いて攻撃しにきてはくれまいか」
ユウキが、ふざけるな、と突っ込む。
「そんな物騒なことがあって、たまるか」
「アウトレンジ戦法が本当に有効なのか試したいし、巡洋戦艦と主力戦艦の連携が速度の面で破綻しないかを知りたいのだよ。カレイジャス」
「こっちは厄介なやつがひとり増えて大変なんだ。あんたの道楽に付き合ってなんかいられない」
「おや、パトリオパッツィのことかね?」
「劇の感想をしつこくねだってくる」
「見たのだろう?」
「ああ」
「どう思う? わたしは軍艦が足りないと思う」
「別に。どうとも思わない」
「それはないだろう、カレイジャス。リトル・レディは言っていたぞ。あの劇をかけているあいだ、きみが瞬きした回数はわずか三回。物凄く食い入って見ているじゃないか」
「あのAIめ」
「で、感想は?」
「さあな。まあ、悪くないんじゃないか」
「――だそうだ」
すると、閲覧室からパトリオパッツィがひょっこり顔を出した。
ユウキは頭をふった。そんな気がしていたのだ。
「うれしいね。少なくとも及第点はついているわけだ」
「好きに言え」
「ところで、カレイジャス。何か用があったのではないかね?」
「ああ。ギウィ・フィッシュからだ。中佐とパトリオパッツィを自警団に入れるつもりはないかときいてきた」
「わたしは構わないよ。あの魚はもう何度か利用させてもらっている」
「――だそうだ。中佐は?」
「あんたが命令すれば、入る」
「では、そうしよう。みなで幟の街へ繰り出すとしよう」
――†――†――†――
幟の街ではニラ玉販売のギルドがあり、主に移動キッチン型ディネガがニラ玉を売っていた。
注文すると、あらかじめ溶いた卵とニラを一緒にしてあるタンクからタネが鉄板におちて、これを焼く。
できたものはビニールパックに入れてゴムで縛り、消費者のもとへ届けられる。
宴会も受けつけていて、百人の客はいつでも熱いニラ玉を食べることができる。
天使のごときニラ玉評論家になりつつある中佐はこのニラ玉を食べてみて、ユウキのつくったニラ玉に軍配を上げた。ニラと卵を別々に炒める手間とフレデリクの特製ソースが決め手だ。
「見ての通り、おれは水のなかの魚だからよ」
と、ギウィ・フィッシュはいつもの事務所で、魚専門のエロ雑誌のサーモン産卵特集の袋とじを慎重に破りながら言った。
「ニラ玉が食えねえんだ。まあ、別にいいんだけどさ。あ、すっげえ破っちゃった。まあ、いいや。テープで止めれば。って、あれ、テープがねえ。おい、誰かセロハンテープ持ってねえ?」
「持ってるわけないだろ」
「ちょっと言ってみただけだろ。で、我が自警団の新たなメンバーってわけだ。そっちの天使もどきはニラ玉を食う以外に何ができる?」
「攻撃対象に対する熱攻撃を行います。つまり、蒸発です」
「おれたち魚型ディネガにとって、蒸発ほど恐ろしい言葉はねえ。そっちの蝶ネクタイは?」
「ん? わたしかい? そうだな。鎌と銃。それに遅滞斬撃」
「依頼する側が依頼される側か。まあ、この業界にはよくあることだ。ただ、今のところ仕事がねえんだ。ウェポンにぶっ殺されるリスクを冒してまで、外に出てえって変態がいなくて――」
そのとき、時価のガラクタだらけの廊下をガラクタを容赦なく蹴飛ばしながら走ってくる音がして、扉が乱暴に開かれた。
恐鳥類のクチバシに二メートル以上の身長を持つパンチカード愛好家、スイゥプゥが慌ただしく入ってきた。
「大変だ、ギウィ・フィッシュ! 大変なんだ!」
「落ち着けよ、ブラザー。どうした? おまえんちのエアコンにクソが飛び込んだみてえな慌てぶりだぜ」
「山岳都市だ!」
クエェ!と大きくクチバシを開けて続けた。
「伝説の山岳都市! パンチカード製造の拠点! シウダード・パンチがやっと見つかったんだ!」




