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月がきれいですね

 ドォン! ドォン!


 青い空にマグナムと対物ライフルの銃声が響く。


 提督は空母マーケットの甲板から、ユウキがキヅキに稽古をつけてもらう様子を眺めていた。


 かなりの手に汗握る激闘だったが、空母マーケットの売り手も買い手も銃声なんてBGMくらいにしか思っていないので、提督の他に空を見上げているのは、そばにいるテュルと中佐くらいのものだった。


「すごい飛行戦力だ」


 テュルがひゅーうと口笛を吹く。


「クーデターする?」


「クーデターは南米の将軍ジェネラリシモたちにくれてやりましょう。我々、協商勢力は打ち負かすべき敵がいるのです」


 中佐が色めき立つ。


「パトリオパッツィですね。提督。攻撃目標を指定してください」


 すると、提督が雇った屋台がニラ玉をつくって、中佐に渡す。


 ハフハフとニラ玉を食べる中佐を見ながら、


「何が平和に貢献するかは分からないものですな」


「わかる」


 と、言いながら、テュルはバキバキと尖り始めた左腕を右手でバシバシ叩く。


「長い手袋は日焼けしないから助かる」


 バァン! バァン!


 キヅキがマーケットで追尾ロケット弾を買っているのを見たが、ユウキは飛んでくるロケット弾を惚れ惚れする狙いエイムで全て撃ち抜き、青い空に赤と黒の丸い煙がボウボウと生まれて、ほぐれて、消えていく。


「おっ! いたいた!」


 見ると、カータがやってくるところだった。


「執事にここにいるってきいたんだ。その後の劇場公演はどんな感じだ?」


「相変わらずだ。支配人が見つからない」


「なんだ。じゃ」


 帰っていくカータの尻尾を中佐がつかむ。


「ぎゃっ!」


「あなたは観戦武官殿のマスターにあたる方ですか?」


「観戦武官?」


「カレイジャスのことだよ」


「ユウキくんのことね」


「ああ、そういうことか。そうだ。おれはいかにもユウキの師匠だぜ」


「では、ニラ玉をユウキさんよりもうまく作ることができますか」


「もちろん、おれはニラ玉を――ん? ニラ玉? 武術じゃなくて?」


「ニラ玉の製造指令オーダーを出しました。受付次第、戦略物資確保センターで補給準備を完了してください」


「えー。面倒だなあ。やだって言ったら?」


「攻撃目標を指定してください」


「すまないが、そこの屋台を借りて、作ってくれないか? 一シリングあげるから」


 中佐がカータお手製のニラ玉をもぐもぐハフハフしているあいだ、世界は蒸発の危機を免れる。


 一介の猫耳少年ディネガにニラ玉を作る腕で負けたことについて、提督に雇われた円錐型のディネガは何か思うところがあるのではないかと思ったが、


「別に心配は無用です。わたしの舌には味蕾がないんです」


「え? おっさん、じゃあ、なんで屋台開いてんの?」


「本業は文学の家庭教師なんだよ。屋台は趣味、というわけではないが、これが創作に役立つのだ」


 そして文学博士は目玉のついた触手で上空の戦いを一緒に眺めた。そして、正直に暴露をする。


「ユウキさん宛ての恋文を持ってきた」


「は?」


「テュプセムお嬢さまが以前、お助けしていただいたお礼をしていないので、その正式なお礼をしたいというものです」


「カレイジャスも隅におけないものだなあ」


「問題はその手紙を受け取ったが、後で読むといって置いていき、飛行ユニットの炎で灰になってしまったことだ」


「カレイジャスはやっぱり隅に置いておくものだなあ」


「しかし、安心してほしい。わたしは手紙の内容を知っている」


「恋する女性の恋文を勝手に読むのはいただけない」


「わたしは彼女の文学教師ですぞ。読まずともどんな内容を書いたか分かる」


「一理どころか万里ある」


 書いた手紙をにょろにょろと乾燥性触手で持ち上げ、提督に渡す。


「では、頼みます。わたしが渡しても、またジェットで灰になってしまいそうですから」


 バァン! バァン!


 一方、そのころ空ではロマンスとはかけ離れた音が放たれていた。

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