ライゴク王国領界1 かつて存在した島国
現在漢の国の軍船がいる場所はライゴク王国領海内部の北東に位置する海上
ライゴクに存在するロウラル諸島に建つ【ロストファビュラス主要国議事堂】に向けて直線に進まず
航路の途中に目撃されるファバルロスと名乗る賢族がいる島を避ける為に迂回して進行していた
既に五つの小国を拠点にして宿泊し 問題なく目的地へと近づいている
崩すことなく進む船の陣形の最後尾の大型軍船
皇帝艶も同船しているこの船を護衛する趙炎は今日も欠かさず辺りに目を光らせている
そんな中で気になる人物が一人
今の今ままで船から姿を見せることのなかった人間国宝左慈が外に出てずっと海を見ていたのだ
「何かお持ちしましょうか? 左慈殿」
「……構わんよ」
趙炎はそれを聞き入れるとまた警備に戻ろうとしたが
「若き旅人よ…… 少し小生と共に海を見ぬか?」
「はい!」
ーー旅人?
何故自分が旅人と呼ばれるのか疑問に思いつつも
人間国宝の気分を損ねないよう瞬時に対応する
「丁度この場所だな……」
「何がですか?」
辺り一面の海に何があるのか
趙炎がふと聞き返すと 彼の隣に艶がやって来て
「とある帝国があった場所だよ趙炎」
「へ…… 陛下!!」
まるで敵の攻撃を回避するが如く後ずさり 膝を折る趙炎に艶は笑っていた
「楽にせよ…… 一緒に隣に並んでくれ趙炎」
「は…… はい……」
皇帝と人間国宝に挟まれる一人の兵士という光景を
周りの護衛兵も動揺して見ている中 艶は自由に口を開く
「あなたもご存じだったのですね 左慈殿」
「…………」
「ここには何かがあったんですか?」
気になる趙炎の質問に艶は船の進む方角にある小さな島を指差す
その島の海岸には文字が書かれた古い看板が木々に凭れていた
「リタリア?」
「【リタリア帝国】 あの看板の先にある…… つまり今私達がいるこの場所にはかつて
大昔に存在していたかしていないか架空都市と呼ばれる巨大国家があったんだ」
「架空都市?」
「現代に遺されている…… ユレイシア海のどこの国の歴史でも使用経緯が確認されていない物品
またはそれを基に本として遺した人達のを参考に研究した結果 一つの国が誕生した
それがリタリア帝国なんだ」
「存在した確信は無いんですよね?」
「あぁ…… リタリアの名が付いたのも誰かの本に出てきたからってだけで
十中八九あの小島に立てられた看板もその本を読んだ者の悪戯だろうね
要はそんな国があったら良いなと思う人々の理想と探究心で生まれた帝国なんだよ」
「……だから架空都市」
「まさしく理想郷」
二人の会話に乗る左慈はそう呟く
「どんな生物も拒むことなく受け入れられた楽園
その大国には万の人種が招かれ 全ての者から尊敬を浴びた一人の存在が居たそうだ
名は〝ルミア・ノートメモリアル〟
聖女のその慈愛は万物の負を取り払い 国に住む者に安寧をもたらしたのだ」
「……驚きましたな まさかそこまでリタリアに興味があるとは」
「失礼」
左慈はそのまま船内へと姿を隠してしまった
「左慈さんの話は本当なのですか?」
「私も初めて知った話だ 彼も彼なりに調べて自分の解釈があるのだろうな
言えば人の数だけ国が創れるということだ」
そう言って艶も笑顔でその場を退席する
一人残された趙炎は警備に戻らず ずっと海を眺めていた
ーーここに一つの国が存在していた…… だけど違和感が残る
陛下と左慈殿の二人が話してくれたリタリアには奇妙な亀裂があった
艶陛下の言う作り話と違い 左慈殿のあれは…… まるで真相を語っているような
海に向けて考え事をしている趙炎は 後からやって来た張車に警備を怠るなと怒鳴られていた
それから数日後
「お待ちしておりました艶皇帝陛下
今会議も進行役を務めさせて頂きます領界スレイシャガルの属国
【党国バロシアン】の先導者デベロップ・バロシアンです」
出迎えてくれた彼の背後にはロストファビュラス主要国議事堂が待ち構えている
辺りには森も川すらも無い見晴らしの良い その新鮮な景色に趙炎は圧倒されながら陸に足を着ける
ーーここがロウラル諸島…… そしてあれが七大国協定会議が行われる場所か
高まる衝動をつい顔に出しながらも
護衛を怠らずに 十二衛兵と艶と共に議事堂の中へと向かう
入り口に入ってすぐ横を見ると一人の女性が笑顔で出迎えてくれた
「陛下のお部屋はこちらになります」
階段を上り 東の方へと進む
広場に出て複数ある階段をさらに上って奥へ進むと一際目立つ扉の前へと辿り着く
「入り組んでますね……」
「大国の王が一つの場所に集まる場所ですので
誰がどの部屋に居るのか分からなくする為でございます」
十二衛兵の一人馬留の問いにも丁寧に返す女性は扉を開けて艶を中に招く
それと同時に周りの兵士も動き出す
「では陛下 我々はここを中心とした警護体制に入りますので」
「あぁわかった」
「それでは何か身辺で困り事があれば私を呼んで下さい
この度デベロップ様の命により陛下の担当となりましたヒャル・アドヴァンスです」
一礼を終えた彼女はそのまま下の階へと下りていった
他の兵士のほとんどもその場を離れ 各々持ち場へと向かう
「いよいよ始まるな……」
「えぇ…… 全てが終わるまで気を緩められませんね」
趙炎もまた馬留と共に自分の兵を引き連れて配置場所へと赴くのだった




