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秘密の時間

翌日の夕方。


ルシアは仕事を終えると、いつものように中庭へ向かった。


城の中では、昨日までと何も変わらない。


カイルに会っても、周囲に人がいれば「カイル様」と呼ぶ。


侍女として、王子であるカイルとの距離をきちんと保つ。


それは今日も同じだった。


けれど、中庭へ入ると――。


「ルシア」


木の下にいたカイルが、嬉しそうに顔を上げた。


「カイル様、お待たせしました」


「ううん。僕も今来たところ」


ルシアが隣に座る。


二人きりになった途端、昨日のことが蘇ってくる。


ルシアは少し恥ずかしくなって、俯いた。


「……なんだか、変な感じです」


「僕も」


カイルが笑う。


「昨日までは、ただ一緒にいるだけだったのにね」


「はい」


「でも、今日からは恋人なんだよね」


その言葉に、ルシアの頬が赤くなる。


「……そうですね」


カイルはそんなルシアを見て、嬉しそうに微笑んだ。


「城では今まで通りでいいよ」


「はい。誰かに見られたら大変ですから」


「うん」


カイルも分かっている。


人の多い廊下では、王子と侍女。


仕事中も、それぞれの立場のまま。


だからこそ、この中庭に来たときだけは、少しだけ肩の力を抜ける。


「ここなら、ゆっくり話せるね」


「はい」


ルシアが笑う。


カイルも隣で笑った。


「じゃあ、今日もいつも通りに過ごそうか」


「はい、カイル様」


そう答えながらも、二人とも分かっていた。


もう「いつも通り」ではない。


同じ場所で、同じように話している。


それなのに、隣にいる人への気持ちだけは、昨日までとは違っていた。


二人だけの秘密を抱えたまま、夕暮れの中庭に穏やかな時間が流れていった。

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