交換日記
ある日の昼休み。
ルシアはいつもの中庭へやってくるなり、カイルのところへ駆け寄った。
「カイルさん、知ってますか?」
「何を?」
「今、お城で交換日記が流行ってるんですよ」
カイルは木の根元に座ったまま、首を傾げる。
「交換日記?」
「はい。侍女たちの間で特に流行っていて、一冊の日記を二人で交代しながら書くんです」
「へえ……」
「今日、先輩の侍女たちが楽しそうに話していて。私もやってみたいなって思ったんです」
ルシアは少し照れながら、小さなノートを取り出した。
「それで……」
「うん?」
「カイルさん、一緒にやりませんか?」
カイルはノートを見つめる。
「僕と?」
「はい」
「庭師と侍女で交換日記?」
「いいじゃないですか」
ルシアは楽しそうに笑った。
「ここなら誰にも見られませんし」
「……確かに」
カイルも少し笑う。
「じゃあ、やってみようか」
「やった!」
ルシアは嬉しそうにノートを開いた。
「じゃあ、最初は私から書きますね」
「何を書くの?」
「今日あったこととか、思ったこととか……何でもいいみたいです」
「なるほど」
「カイルさんは、私が書いたら次の日に書いてくださいね」
「わかった」
その日の帰り際。
ルシアはノートをカイルに渡した。
「絶対に見せちゃ駄目ですよ?」
「誰にも見せないよ」
「約束です」
「うん、約束」
ルシアは安心したように笑い、仕事へ戻っていった。
翌日。
カイルが中庭でノートを開く。
そこには、ルシアらしい明るい文字で、昨日あった小さな出来事がたくさん書かれていた。
最後には、
『今日はカイルさんと交換日記を始められて嬉しかったです』
と書かれている。
カイルはその一文をしばらく眺めていた。
そして、少しだけ笑ってペンを取る。
『僕も楽しいよ。これから何を書いていこうか』
短い言葉を書き終える。
次の日。
ノートを受け取ったルシアは、すぐにページを開いた。
「……ふふっ」
嬉しそうに笑う。
「カイルさん、ちゃんと書いてくれた」
それから二人の間では、誰にも知られない交換日記が始まった。
中庭で交わす言葉とは違う、二人だけの小さな秘密だった。




