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第119話 複雑な関係図

 アーリマーニの滅亡で、王家の直系の血筋は根絶やしにされ生き残りはいないらしい。だが、公爵家の娘が聖猫に守護され生き延びているという噂があるようだ。


 生きていれば八歳だという。八歳にしてはピコは少し幼いように思えるが、ありえないと否定できるほどでもない。栄養状態が悪かったので、成長に障りがあったと考えれば、むしろ納得できるくらいだ。


 もちろん、それだけを理由にピコがアーリマーニの公女だと断言することはできない。証拠はなく、ほとんどローニーの直感だけが根拠だ。しかし、可能性としては小さくても、ローニーにとっては無視できる問題ではない。これに関してはウェルとラピードも同意見らしい。


「私たちがアラヤ村に残ったのもそういう理由なのよ」

「スカウトのためじゃなかったんだな」

「それもないわけじゃないけどね」


 ローニーは軽く笑ってから、表情を改めた。


「そういうわけだから、私たちがピコちゃんのいるアラヤ村に敵対することはないわ」

「そうか」


 ローニーたちは公爵家に仕えていた氏族の生き残りで、公女はかつての主君の忘れ形見になる。ピコが公女である可能性がある以上、不利益になるようなことはしないと誓った。


 その言葉が真実なら、ここでアムフェリクスに寝返るようなことはしないだろう。だが、そうなると、別の問題もある。


「もし、ピコがその公女だったら、どうするつもりだ?」


 それだけは聞いておかなければならない。


 ピコが公女なら、傍系とはいえ王家の血筋だ。領土の奪還には、これ以上ない旗頭となる。ローニーたちとしてはぜひ協力を得たいところだろう。


 俺としては、ピコが戦いに巻き込まれるようなことは避けたい。だが、すべてはピコ次第だ。ピコが望んで協力すると言うなら、俺は妨げるようなことをするつもりはない。しかし、ピコが今の生活を望むなら——場合によっては、ローニーたちと敵対する可能性もある。


 正面から見据えると、ローニーは気負うことなく苦笑いを浮かべた。


「そんな怖い顔をしないでよ。無理やり連れ去ったりするつもりはないから安心して」


 む。怖い顔していたか。そんなつもりはなかったんだが。


「いや、すまん。だが、聞いておきたかったからな」

「まぁ、そうでしょうね。でも、安心して、私とウェルとラピードは領土奪還派ではあるけど、それは目的じゃなくて手段なの」

「手段?」

「そ」


 ローニーが言うには、アーリマーニの生き残りにもいくつか派閥があって、その中でも大きな派閥が領土奪還派らしい。そして、同じ派閥に属していてもそれぞれ考えに違いはある。ローニーたちは領土奪還はあくまで手段と考えているようだ。


 では、目的は何か。それは公女を探し出し、仕えることらしい。


 領土奪還はアーリマーニの民が安心して暮らせる場所を取り戻すため。そうなれば、身を隠している公女も無事な姿で戻られる。そう考えて、領土奪還派に身を置いているらしい。


「つまり、ピコが公女なら領土奪還は必ずしも必要はないと」

「奪還できるならそのほうがいいと思うわよ。民のことを思えばね。でも、そのために公女様が望まぬ戦いに身を投じる必要はないわ」


 ローニーの言葉に、ウェルとラピードが頷く。彼らが優先するのは、公女の幸せ。女王として祭り上げようという気はないようだ。そういうことなら、信用して良さそうだな。


「すまん、助かる」

「別にいいのよ。こっちの都合なんだから」


 ローニーたちの事情はわかった。が、ここまででルーマは何も発言していない。こいつ、一応、団長のはずなんだが。


「ルーマもそれでいいのか?」

「ははは。私には細かいことはわからん。すべて、ローニーに任せておけば大丈夫だ」


 朗らかな顔で丸投げ宣言されてしまった。本当にリーダーとしての役割は看板だけなんだよなぁ。


 結局のところ、アムフェリクスと名乗る者たちの正体はわからなかったが、ある程度の予測は立てられる。名前から言って、アーリマーニの生き残りであることは間違いないだろう。


 なぜ、銃を知っていたかについても説明はつく。以前、レンとも話したが、クロニクル・オブ・ロードにおいて、アーリマーニの残党であるレジスタンス戦線はゲーム開始時から厳しい状況に置かれている。CPUが動かした場合、大抵は序盤で滅んでしまうそうだ。だが、現実となった今、ローニーたちをスカウトとして派遣するなど、本来はなかった動きをしている。おそらくは、この新たな動きには“プレイヤー”が絡んでいるのだ。となれば、アムフェリクスが銃を知っていてもおかしくはない。“プレイヤー”が直接関わっているのか、それとも知識だけ授かったのかは知らないが、“プレイヤー”の息がかかった連中なのは間違いない。


 さて、この戦い、どうやって収めたものだろうか。


 エルフたちにとってドワーフは古くからの仇敵。今回の戦いで仲間を殺された恨みもあるだろう。現状はかなり追い込まれているので、ある程度の領土返還が叶えば停戦の方向でまとめられると思うが、火種は確実に残るだろうな。


 ドワーフ側が納得する材料はボルヴァスとアムフェリクスの情報か。意図したわけではないが、ボルヴァスはアムフェリクスがユーリッドとドラクハイムに両天秤をかけたと思い込んでいる。その誤解を利用して、アムフェリクスを共通の敵に仕立て上げれば停戦交渉の席につかせることはできるかもしれない。


 だけど、そのアムフェリクスがローニーたちの仲間である可能性が高いんだよなぁ。どうしたものか。



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