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第9話 原因は別にある

「キョンシー?」

「解らん」

 蒼礼はぎりぎりと術を強めながらも、どうにも奇妙だと感じていた。というのも、男自身からは術の気配を感じないのだ。

 もしもキョンシーとして作り替えられているのならば、その身から術の波動を感知して当然だというのに。

「解らんって、人を襲ってるし、キョンシーよね。顔も真っ青だよ!」

 鈴華はこの後に及んで解らないじゃないでしょと怒鳴る。しかし、怒鳴られても、蒼礼の研ぎ澄まされた感覚はキョンシーとしての術を感知できないままだ。だが、このままではこれが何なのか解らない。

「煩い。取り敢えず、キョンシーそのものじゃないと解れば簡単だ」

 蒼礼はもう一枚札を取り出すと

脱気(だつき)(じゅ)!」

 別の技を放った。札が男の額に張り付き、その瞬間、男は地面に崩れ落ちた。

「さすがは奏翼」

 手際のよさに、ついそう言ってしまう鈴華だ。それに蒼礼は舌打ちしたものの、男に近づいて状況を確認する。

 首に触れると低温になっているが体温を感じる。やはりこいつは死者ではない。ということは、同時にキョンシーではないということだ。ついで、男のぼろぼろの服を剥いだ。

「ちょっ、大丈夫なの?」

 あまりに冷静に近づいてあれこれする蒼礼に、鈴華は剣を構えたまま訊く。

「術が効いている間は大丈夫だ。って、何だ、これは」

 男の背中部分に、奇妙な紋様が浮かび上がっているのが解った。それは札を使わない呪術の紋様だ。そしてその中心には丸々と太ったダニがくっ付いている。

「ダニ。でもそんなの、山の中じゃ珍しくないわよ」

 ようやく近づいて来た鈴華は、蒼礼の摘まんでいるものを見て顔を顰める。吸血性のダニは病気を媒介することがあり危険だ。あまり出会いたくない生物だが、そこら中にいる生物でもある。

「このダニの中から術を感じる」

 しかし、蒼礼はそこから奇妙な波動を感じ取っていた。術は術だが、見たことのないものだった。どうやら紋様を浮かび上がらせたのはこのダニで、寄生されるとキョンシーのような動きを見せるということらしい。

「なっ、そんな」

 そんなことってあるのと鈴華は驚いてしまうが、ダニを取り外してしばらくすると、紋様が消えたことから、蒼礼の見解が正しいのだと解る。

「でもどうしてキョンシーのような動きを?」

 鈴華はそれでも解らないことがあると首を傾げていたが、蒼礼が札を取り出したので剣を構え直す。

「なっ」

 そして、先ほど襲われて倒れた男が、顔色を悪くし、虚ろな目をしている様子を目撃した。

「どうやらダニを媒介するために噛みついているようだな。噛みつくのが最も身体が密着するということだろう。もしくは、人間の身体を作り替え、唾液に麻酔成分でも含んでいるのか」

 蒼礼はもう一人の男にも気絶させる術を放つ。そして、その男の服も剥ぎ取った。すると、もぞもぞと動くダニが何匹かいる。

「これって」

「あっちの男から移ってきたんだろうな。あちらの男はもう虫の息だ。他の宿主を探していたというところか。取り敢えず、両方のダニを始末。そこから治癒だな」

 先ほどまで感じていた助けることへの疑念を払い除け、蒼礼はまず取り憑かれたばかりの男の服を剥ぎ取った。ダニを潰しつつ、他に異常がないか調べていく。

「こっちは?」

 鈴華は最初の男はどうすればいいと訊いてくる。気持ち悪い光景に引くかと思ったが、気丈なものだ。

「そっちもまだいるだろうから近づかないようにしてくれ。それと、お湯を沸かしてくれ。服にダニが残っていると厄介だからな。湯煎してしまおう」

「了解」

 鈴華はそのまま蒼礼が投げ捨てた桶を持って川に走って行く。

 蒼礼はお湯が準備されるまでの間、目視で確認できるダニを取っていく。そして解除の呪術を施してから潰した。これで間違ってこの呪術が広がることはないはずだ。

「それにしても」

 ダニを捕まえて呪術を仕掛けることといい、無差別に術が広がる方法といい、奏呪のやり方ではない。しかし、奏呪にしか出来ないようなやり方だ。一体犯人は誰なのか。

「お湯の用意が出来たわ」

 と、そこに鈴華が知らせに来た。蒼礼は二人の男の服を持つと、ぐらぐらとお湯が煮えたぎっている鍋の中に放り込む。

「これでくっついているダニは死滅するだろう」

「はあ、良かった。って、私たちは大丈夫かしら」

「一応は確認しておく必要はあるが、それは後で大丈夫だろう」

 すでにダニからの術の特徴を覚えている。小さくてなかなか感知しにくいが、近くにいれば解るはずだ。そして、今のところ、自分にも鈴華にもその気配はない。


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