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第31話 棟梁

「止めておけ。あのじゃじゃ馬は俺たちでは御せない」

 途中になったとはいえ、数日間一緒に旅をした奏翼は、もうこりごりだと手を横に振る。ここで奏刃に顎でこき使われている方が楽だと思えるほどだ。

「まあ、そうだろうな。お前があの娘の口車に乗ったとは思えない。面倒だから一緒に旅をすることにしたってところか」

「そのとおり。術を発動すればどうなるか、解ってたしな」

 遠からず奏呪が自分を拘束しにやって来る。その覚悟の上で動いていたのだ。奏翼は殺されずに術を施されただけで、再び副官として戻ることになるとは思っていなかったが、連れ戻されることは解っていた。

「娘はキョンシーが出ること、幽霊が多発すること、そして下々の生活が荒廃していることを上げたんだったな」

 奏刃はこれで合っているかと訊ねる。

「ああ。キョンシーはすぐに出会ってダニが原因と解ったわけだが、他はどうなんだ?」

 奏翼は調べたのかと問い返す。

「ああ。幽霊が多く目撃されているというのは掴んでいる。どうやら大乱の時に死んだ奴が枕元に立つというのが最も多いようだな。それと荒廃についてだが、確かに農作物の収穫量の低下、疫病の蔓延などが確認されている。とはいえ、この二つはキョンシーもどきを作り出すダニの影響もあるだろう」

 すでに国全体の調査に入っている、と奏刃は付け加えた。だからそのうち、もっと詳細な情報が入ってくることだろう。

「どれも不思議な話だな」

 その報告に、自分は一体何に巻き込まれているのだろうと、奏翼は再び溜め息を吐いていたのだった。




「何だって」

「決めたんです。私、虎一族の棟梁となります」

 奏翼が頭を抱えている頃。行動的な虎鈴華は、親戚一同に向けてそう宣言をしていた。それに周囲はざわめき、何を考えているんだと鈴華を窘める。

「そりゃあ、優達の血を引くのはお前さんだが」

「女だぞ」

「そもそも棟梁なんて名乗って、何をする気だ?」

「まさか龍一族にケンカを売るつもりか」

 叔父たちは止めなさいと必死だ。

「龍一族にケンカを売るつもりはありません」

「だったら」

「奏呪の副官、奏翼にケンカを売るんです」

「は?」

 奏翼といえば、鈴華の父、優達を呪った張本人だ。そいつと一緒に旅をしたというだけでも仰天だったのに、今度はケンカを売るだって?

「待ってなさいよ。必ずあの男の能力を最大限に利用して見せるんだから」

 唖然とする親戚一同を放置し、鈴華はそう宣言する。

「なんでお前はそんなに奏翼に拘るんだ?」

 それまで黙っていた大叔父の()(しゅう)(たつ)が、真っ直ぐに鈴華を見つめて訊ねた。その理由をしっかり述べる事が出来るのか。そう静かに問うている。

 その視線を鈴華は真っ直ぐに受け止めると

「彼しかこの国を救える人はいないからです」

 きっぱりと告げた。

 それに、鈴華が話し合いのために呼んだ一族の男たちは黙り込んだ。部屋に入らずに成り行きを見守っていて女たちも反応に困っているようである。

「救うか、奏翼が」

「はい。彼の治癒能力、そして浄化の能力を間近で見て、そう確信しました。彼を奏呪ではなく、この国を救う存在と使うことこそ、この混乱を治めることが出来るんです」

 鈴華の真っ直ぐな言葉に、大叔父はそうかと頷いた。そしてすくっと立ち上がると

「本日この時より、虎鈴華に家督の相続を認め、棟梁といたす」

 大音声で集まった人々に宣言した。

「しゅ、秀達様」

「どうせ優達は呪いで苦しめられたままだ。ならば、呪いを掛けた奏翼を利用してやるくらいの気概を持っている奴が次の棟梁に相応しかろう」

 反対の声を上げようとした男に、秀達は変わる時が来たのだと一睨みする。

「ありがとうございます」

 鈴華は認めてくれた秀達に頭を下げる。だが、秀達の眼光は鋭いままだ。

「鈴華よ。間違っても現皇帝に弓を引くようなことはしてくれるな。やっていいのは同盟までだぞ」

 そして、そう釘を刺すことを忘れない。

「もちろんです」

 鈴華としても、戦を繰り返すつもりはないので、大きく頷いた。しかし、秀達の目が緩むことはなかった。

「肝に銘じよ。棟梁が背負う因果は重いぞ」

 そしてさらに忠告を口にするのだった。




 奏翼が奏呪に戻ったことを、最も面白くないと思っているのは東宮の龍聡だ。せっかくこの機会に奏呪を手に入れ、さらに早めの譲位を迫ろうと思っていたというのに、その計画が早々に頓挫してしまった。

「面白くない」

「まあまあ。奏刃に刃向かえなくなった奏翼なんて、もう宜しいではありませんか」

 イライラと呟く龍聡に、東宮妃の蝶妃は葡萄酒を勧めながら宥める。

「奏刃に刃向かえない、か」

 中書省経由でその話は聞いているが、どうにも信憑性のない話に思えた。本当にそんなことが可能なのか。呪術に疎い者にはその真偽を知ることが出来ないのだから、当然だった。


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