第27話 虜囚
「だ、駄目」
そう脅されても、ここで奏呪に渡してしまったら、二度と蒼礼に会えない。それは考えるまでもないことなので、鈴華は拒否する。
「まあ、そう言うだろうことは解っていたがな」
奏刃はやはり面倒だと鈴華を見下ろす。が、所詮は一般人だ。やり方はいくらでもある。
「ここで言い合ってても無駄だからな」
奏刃は言いながら懐に手を入れた。それに、鈴華は札を取り出すつもりだと気づくも、何も出来ない。
自分は呪術師ではない。だから、ほんの小さな可能性、奏翼が自分に味方してくれるかもしれないという可能性に賭けたほどだ。
「蒼礼」
名前を呼ぶも、蒼礼は目を覚まさない。奏刃はそれを忌々しそうに見つめたまま、札を取り出した。
「ふん。貴様ともども、都まで来て貰おう」
「えっ」
鈴華が覚えていたのはそこまでだった。札が自分の真上にやって来たのが見えたのと同時に、眠るように気を失っていた。
「ん?」
眩しさを感じて、蒼礼は目を覚ました。ひょっとして浄化の儀式を行ったまま寝てしまったのか。蒼礼は身体を捩って起きようとする。
「あれ」
しかし、自分が寝ているのが寝台の上だと気づき、村にいるのではないと気づいた。鈴華がいくら男勝りとはいえ、寝台のある家を見つけてそこまで運び、さらに寝かせるなんて大仕事が出来るはずがない。
「ここは」
身を起こして見ると、清潔な部屋の中だった。少なくとも、あの滅びた村ではないことは確かだ。調度も、北と東の境にある農村にはあるはずがない、高価なものばかりだった。
「一体」
蒼礼はどこか把握しようと、寝台の横にあった窓へと手を伸した。しかし、窓に触れると同時に、バチンと大きな音がして弾かれてしまう。
「結界」
それが意味することはすぐに解った。ということは、ここは奏呪の息が掛かる場所ということになる。
「ようやく目覚めたか、奏翼」
結界が発動したことで起きたことに気づいた奏刃が、すぐに扉を開けて中に入ってきた。その姿に、蒼礼が絶望に似た気分を味わったのは言うまでもない。
「奏刃」
「覚えていてくれて良かったよ。仲間の顔も判別できないほどに呆けているわけではないようだな」
奏刃は皮肉を口に乗せて笑う。
「こ、ここは?」
蒼礼は捕まったことは理解したものの、一体何がどうなってこうなったのかと困惑してしまう。
「お前は限界まで能力を使い、気絶したんだよ。すぐに私が保護しなければ死んでいたぞ」
「なっ」
「嘘だと思うか。もしそんな状態でないのならば、医務室に寝かしていないさ」
くくっと笑う奏刃に、ここは宮廷の医務室なのかと蒼礼は驚いたまま何も言えなくなる。つまり今、蒼礼は完全に囚われてしまった状態なのだ。それはここが牢でなくても同じだ。
「村の浄化なんてもの、奏呪時代にもやったことがないだろ。治癒だってそうだ。殺しと違い、そういう正の気を消費することに慣れていない状態で、長時間術を行使し続ければ、倒れて当然だな。しかも十年もの間、まともに術を使っていなかった。そこに早朝から殺しの呪術まで使っていれば、倒れないほうがおかしい」
奏刃は何を呆けているんだと、寝台の横まで近づいて蒼礼を見下ろす。
「そう、か」
それに対し、蒼礼が言えるのはこれだけだった。
呪術の使いすぎで倒れていたというのならば、奏刃の気によって助かったということだろう。そして、見殺しにしなかったということは、やはり捕まえてちゃんと処罰を決めるつもりなのだろうと理解出来ている。
「俺を、どうするつもりだ?」
訊けるのはこれだけだと、蒼礼は奏刃を見る。それに奏刃は肩を竦めると
「もちろん、奏呪に戻って貰う。それと、虎の姫君の説得を頼む」
刃向かってこないのかと、淡々と要求を述べた。
「虎の姫君。鈴華もここにいるのか」
蒼礼は鈴華まで捕まえたのかと、奏刃を睨み付けた。しかし、それにようやく本調子になってきたなと奏刃は笑うだけだ。
「もちろんだ。野放しにしておくのはあまりに危険だからな。大人しく虎一族のいる西に戻るか、このまま後宮に入内するか決めて貰いたい」
「入内だと」
「別に不思議ではあるまい。今は大戦中ではない。しかも虎一族とは最も因縁があるが、そこの末の姫君が皇帝の元に入ったとなれば、和解したと内外の印象はいいからな。双方にとって利のある話だ」
奏刃はそれだけの利用価値はあるだろうと蒼礼を見る。
「帰すという選択肢もあるんだな」
しかし、蒼礼はそう簡単な話ではないだろうと、こちらを確認せずにはいられない。それに奏刃はもちろんと頷いた。
「随分とじゃじゃ馬のようだから、皇帝を暗殺しようと企むやもしれん。入内ほど利益はないが、帰っても問題はない。お前を見つけたという功績に免じてな」
「っつ」
つまり蒼礼の態度次第だと言いたいわけだ。大人しく奏呪に戻ると言えば、入内の話は白紙になる。しかし、少しでも反抗的な態度を取れば、無理にでも入内の話を進めるはずだ。人質として使うつもりだろう。




