20.本命は遅きに最速で
ババ抜きの戦績は俺と奈子が四勝一敗ずつ。柊と最終バトルの場合はほぼ負けがない状態だからな。逆に俺と奈子が残った場合、どっちが勝つのかは運次第となってしまう。柊は運という要素が何かがおかしいから。
「ポーカーフェイス勝負となると運の要素が強いよな」
「あとはどれだけ相手の僅かな変化に気付けるか」
「それが分からなかったら運勝負だけど。何で私は二択に弱いのかな?」
「日々の生活で運を消費しているからだろ」
日常的におかしな事態に遭遇するのに、大きな怪我をしないのは運がいい証拠だろう。そもそもそのような事態に巻き込まれる時点で運が悪いともいえるが。だから帳尻が合っているとも思えるのだが。
「よし、そろそろ動こうか」
「誰の所為で延長戦したと思っている」
「奈子の言う通りだ。柊がもう一戦というから付き合ったんだぞ」
俺達が自由に動ける時間はすでに過ぎ去っている。時間的には五分くらいは経過しているか。別に最初からそこまでやる気がある方ではない俺達にとっては関係ないことだが、それでもワザと負けるのは嫌だよな。
「蘭。戦線は?」
「貴方たちが遊んでいる所為で前線が崩壊したわ。すでにこの階へ到達されているけど、お仕置き部屋のおかげでここに到達まではされていないわね」
「あいつらの拉致誘拐のような手際はどうなんだよ」
ドアを開けて、相手を引きずり込む。ただそれだけなのだが、その手際が良すぎるのだ。今のような事態ならば、ドアの向こうに何かが仕掛けられていると相手だって警戒しているはず。それでも意識の隙間を狙ったかのように捕まってしまう。
「偶に絶叫が聞こえてくるの、気づいていなかったの?」
「健康的な悲鳴だなと」
「間違ってはいないのだけれど、訳が分からないわね」
引きずり込まれた相手がどうなっているかというと、足つぼマッサージを強制執行されているだけだ。指による指圧と、棒による圧迫。実家が整体師の奴まで参加しているから、終わった頃には色々とスッキリしているだろう。
「施術中が地獄過ぎる」
「いやー、あれは私も体験してみたけどかなり痛いね」
「柊の引き攣った顔とか結構貴重だったな」
「痛みもだけど、その際に耳元で応援するの止めてくれないかな?」
「意味不明だよな」
奈子と柊の会話で思い出したが、男子にとってはご褒美のようなものがあるか。施術中は熱血ボイスによる応援ではなく、小さな子供を励ますような感じの声で。あいつの属性は俺にもよく分からないな。
「あれで関節技の匠なのは訳が分からん。偶に教えてもらっているが」
「参考になるよねー。痴漢撃退用とか言っていたけど、実戦で活用できる場面多いし」
「お前たちはどこに進んでいるんだよ」
友人二人の戦力増強に貢献しているとは思わなかったぞ。確かに俺と奈子、柊は争いごとに遭遇することが多い。奈子関係の喧嘩なのだが。警察関係も理解があって、こっちの正当防衛として処理してくれるのは助かっている。
「それよりも本当に出撃してくれない? 仕掛けだって限度があるんだから」
「「「了解」」」
まだここに乗り込んできていないということは、相手も警戒しながら進んでいるのだろう。余裕があるといっても、こっちは王手が掛けられる前の段階だ。相手側の前衛を壊滅させないと危ないな。
「それじゃ俺と奈子で前衛の相手をするか。柊はどうする?」
「最短距離に挑戦するよ」
「あー、報告によると洗剤でヌルヌルの階段だったか。いけるのか?」
「手摺を歩けば問題ないよ」
「任せた」
柊が問題ないというのであれば、本当にそうなのだろう。階段を手摺を歩くのがどれだけ危険なのかは容易に分かる。平均台を歩くのとは訳が違う。斜めに下るのだから、難易度が桁違いだし。何より落ちたら大怪我するだろう。
「それじゃ。よーい、どん!」
柊の掛け声と同時に俺達は走り出す。俺と奈子は廊下を走り、柊は靴と靴下を脱いで手摺に登る。とりあえず、近くの奴に奈子とラリアットをかまして倒す。盛大に背中から倒れたが多分大丈夫だろう。
「前衛の数が多くないのは助かるな」
「武闘派は私達を含めてもクラスの三分の一程度。それが更に半分になっているのだから、それほどでもないだろう」
想定外の実力を持った奴も出てきてはいたが、それだってほんの僅かだ。誰もが爪を隠しているし、牙を見せて相手を威嚇している。張りぼての可能性かもしれないし、本物なのかもしれない。
「油断ならない奴らばかりだな。おーい、そこで転がっている奴の治療頼んだ」
「総司だって色々と隠しているだろうに。私なんて分かりやすいものだ。治療箇所は首だぞー」
「首は専門外だが、任されたー」
不安しかない返答だったが、俺達よりは任せられるだろう。最悪、あいつの実家に連れて行けば安泰だ。整体師の実家なのに、何であいつは足つぼに嵌まってしまったのか。何でも経験が我らのモットーだ。
「修は無事だろうか」
「ひん剥かれていなければいいが」
着ぐるみを脱がされた修は人畜無害の存在に戻ってしまうからな。ここで戦力が減ってしまうのはよろしくない。前衛は俺、奈子、修、鳳だけで務まる。問題があるとしたら、隠密連中の動きだな。
「あっち側に瑠々。こっち側に火花。隠密連中の動き次第で戦況は変わるが」
「そこら辺は対策済みだろうに。総司が動いてくれるおかげでこっちは自由に動ける」
「悟はこういった篭絡戦術は使わないからな。話術で相手を動かしはするが」
「偶に脅迫のような言葉が混じっている感じはするけど」
おかげで危ない不良共がこっちに手を出さないでくれている。良識のある不良は正々堂々勝負を申し込んでくるからな。危ない不良は周囲を巻き込むし、人質を取ったりもする。それで知り合ったのが柊なんだよな。
「四階の掃除は終わったな」
「数が多くなかったからな。おーい、実験体が数人追加だぞ」
「ひゃっほーい。大量だー」
「あらあら、やんちゃな子ばかりね」
会話している間に処理は終わった。あとは倒れた奴らが復活して、攻めてこないように後処理するだけ。それはおしおき部屋の連中に任せて大丈夫だろう。施術の実験や、他の用途に使えると喜んでいるほどだ。
「ゴリラと若頭はまだ三階か」
「意外と修と鳳が善戦しているようだな」
「それかそれ以外の何かだな」
黒組で厄介なのはゴリラ、若頭、勇実、瑠々の四人。その四人を相手にして修と鳳が粘れるとは思っていない。まだ四階に上がってこないのは他の理由があると予測できる。そこまで最強の称号が欲しいのだろうか。
「奈子。頑張れ」
「何をだ?」
これから一番働くからだよ。三階に降りてみると対峙しているのは鳳と若頭。修と勇実だけ。ゴリラは腕組みをしながら仁王立ちしているだけ。その姿を見て、奈子も察したのだろう。重いため息を吐いている。
「遅かったな」
「馬鹿に付き合っていたからな」
「一対一で勝負だ、奈子。どっちが上なのか白黒つけようじゃないか!」
「好都合だ、ホモサピエンス」
「人間扱いしろよ!」
さて、俺はどうするか。ゴリラの相手は奈子で十分だし、勝敗についても予測できる。やれることがあるとすれば、誰かの援護なのだが。獲物を使っている鳳と若頭の間に挟まるのは躊躇するな。
「それで、勇実は何をしているんだよ?」
「着ぐるみ君相手に関節技が有用なのか実験中!」
『タップしているのに全然止めてくれない!』
「どうやってプラカードに書いているんだよ」
修相手に十字固めを極めながら喋っているが、着ぐるみ相手にそれが有用だとは思えない。皮だけを引っ張っても意味はないからな。それでも痛がる素振りを見せている修は何をしているのか。
「やっぱり残りを処理するしかないか」
「ふっ、俺をいつまでも雑魚だと思うなよ」
「噛ませ犬だって自覚を持てよ、新八」
前衛の総力戦だな。これでどちらが勝つかによって勝敗が若干傾く。ただ、こいつらは忘れていないかな。狂人がこの場にいないことを。奴が二階に到達したら防ぐ手立てがあるのだろうか。
遅くなった理由はエルデの王になっていました。
お陰様で確かな殺意を会得するに至りましたが、大体返り討ちです。
アトリエシリーズでスケジュール管理の大切さと、先を考えた計画。
フロムゲーで折れない心と、復讐の大切さを学びました。
ゲームで学べることって多いんですよね。




