第十五話 小さなビョードー
「ここ、どこだ?」
虹色の雲を飛んだ先には一本道しかなくて、リュウは先程の道に戻るに戻れなくなってしまった。
そのため、ビョードーやカゲなどの敵が何もいないことを願いながら、恐る恐る道の奥へと向かう。
「この道だんだん狭くなってるな。どこに繋がっているんだ?」
あてもなくリュウがずんずんと突き進んだ最奥は行き止まりだった。
「マジか。どうしよ。……ん? 何だこれ」
行き止まりなことにリュウが絶望しかけたとき、目に入ってきたのはリュウと同じくらいのサイズの小さな扉。
もうここに入る以外、リュウに残された道はなかった。
「とりあえず入ってみるか」
今のところ追いかけられていないとはいえ、いつビョードーに見つかるかわからない。
ヒナとヨシも見つけないといけないし、もしかしたら二人がこの中にいる可能性もあるとリュウは意を決して中に入ることにした。
念のため慎重にゆっくりと扉を押すと、キィ、と軋む音を立てて扉が開く。
中は来た道よりさらに細くて暗くて狭く、まるでトンネルのようになっていた。
「ずいぶんとここだけ狭いなぁ」
きっとこの狭さならカゲ達ならまだしも、ビョードーはやってこないだろう。リュウは、よいしょ、よいしょ、とハイハイしながら狭いトンネルの中へ進んでいった。
「きたなっ。掃除しろよ……」
中はやけにホコリっぽい。蜘蛛の巣も張られていて、手で払ったり避けたりしながらリュウは進んでいった。
「この奥に何があるんだ?」
期待半分と不安半分でドキドキしながら先に進む。
リュウは多少ホコリを吸ってしまったようで、軽く咳をしながらも着実に奥へと向かっていた。
「ごほっごほっ、う、わ……っ!」
すると、よく前が見えていなかったせいか、突然急な坂になっていることに気づけなかったリュウ。
ガクッと思いきりバランスを崩してしまい、リュウはまるで昔話の山を転げ落ちるおにぎりのように坂を転げ落ちていった。
「うわぁああああああ!! いてっ! ってててて……」
顔からどすんと着地して、思いきり鼻先をぶつけるリュウ。
痛む鼻をさすりながら鼻血が出てないことを確認したあと、そーっと辺りを見回す。
「何だ、ここ」
どうやら小さな部屋にやってきたらしい。さっきまでの城の殺風景な景色から一変して、何やらごちゃごちゃと荷物の多い部屋に着いたようだ。
ここは城の中にしてはやけに狭く、大きさとしてはリュウの部屋くらいの大きさである。
こんな部屋もあるのかぁとリュウがぼんやりと眺めていると、「おや、人間か」と目の前に突然ビョードーと同じ顔が現れて、「うわぁああ!!」とリュウは思わず叫び声をあげて飛び上がった。
「おやおや、なんだい。急に誰かが来たと思えば、うるさいねぇ。そんなに驚くもんでもなかろうに」
呆れたような顔をするビョードー。
でも、そのサイズはやけに小さく、身長はリュウと同じかちょっと小さいくらいだった。
リュウがびっくりしすぎてパクパクと口を開きながら喋られなくなっていると、目の前のビョードーはまじまじとリュウを値踏みするかのように見てくる。
「でもまさか、ここに人間が来るなんてねぇ。前はいつだったか……いや、初めてか……?」
何かを考え込むようにぶつぶつと言いながら、うんうんと唸り始める小さなビョードー。
顔は一緒なのにどうもさっきの大きなビョードーとは違う雰囲気にリュウは混乱する。
__大きさも全然違うし、オレのことを捕まえようともしないし、さっきのビョードーとは違うのか?
「どうした、ずいぶんと変な顔をして。アタシの顔に何かついているかい?」
「えっと、いや、そうじゃなくて……あの、あんたってビョードー、だよな?」
しどろもどろになりながらもそう尋ねると、目の前にいる小さなビョードーは突然カッカッカッカッと笑い出した。
「え? あれ? オレ、何か変なことを言った?」
「いや、悪い悪い。こんな面白いこと、久々すぎてのう。ここに閉じ込められて長いゆえ、久々に愉快なことを聞いたわ」
小さなビョードーが一体何を言ってるのかさっぱりわからず、リュウは首を傾げる。
だが、この目の前の人物は悪意がないことだけはわかった。
小さなビョードーはリュウの頭に軽く手をかざしてパッと花火を散らすと、何かを読み取ったのか、うんうんと頷き始める。
「何やってるんだ?」
「ちょっとな。小僧の記憶を見せてもらったのじゃ。そうか。そうか。アタシの本体に会ったのか、小僧。いや、リュウか。それで普通じゃないままここまで来たとは、大したもんじゃ」
「え? 記憶? それに、本体……って? え? え?」
わからない言葉のオンパレードに、リュウはますます混乱する。
そんなリュウの脳内を小さなビョードーは察してくれたようだった。
「アタシはね、言わばあの大きなビョードーから切り離された存在。リュウが会ったあの大きなビョードーがいらないと切り捨てた良心じゃ」
「良心……?」
「そうじゃ。つまりアタシは元はビョードーの一部。ビョードーがいらないと捨てたものと言えばいいのか」
「はぁ……?」
未だに理解が追いついていないリュウ。
それも察したらしい小さなビョードーは、何かを思いついたようにパッと魔法の花火を散らす。
すると、目の前に小さなスクリーンが現れた。
「おぉ、すげー! 何だこれ!」
「くっくっく、いい反応じゃ。話せば長くなるが、リュウも友達探しのために急いでいるようだし、手短に話すとしようか」
小さなビョードーが地べたに座ると、ぽんぽんと隣を叩く。
リュウは「もしかして、ここに座れってことか?」と察すると、促されるままに小さなビョードーと同じように地べたに座った。
「えっと、これから何をするの?」
「ビョードーの物語を聞かせてやろう」
「ビョードーの物語? オレ、別にそんなの知らなくてもいいんだけど」
「ずいぶんと素直よのう。確かに、そう言いたくなる気持ちはわかる。だが、敵のことを知っているのは悪いことではない。しかもこれはこの世界を脱出するためにも関わってくる話じゃ。見ていて損はないと思うぞ?」
「そ、そうなのか? だったら、ちょっと見ようかな……」
「よしよし、じゃあ始めるとするかのう」
小さなビョードーがパチンと手を叩くと、まるで映画が始まるかのように小さなスクリーンから映像が流れ始めるのだった。




