第34話 僕、ティナを奪われてしまう。
「一体何が!? エドモン、お前は??」
領主私設騎士団の団長さんが、異形になっていく仲間を見て狼狽している。
そんな中、老執事は一人冷たい笑み、いや嘲笑しながら優雅に茶を飲む。
「カイト、ティナちゃん。ネリーを連れて急いで逃げるんだ。ここはアタシが食い止める。こいつらは低級魔神だ!」
<なんと! これが魔神ですか。カイト様、お気をつけて>
「え、え? え? 何が起きているのですか?」
会談に立ち会っていた大学の職員もパニック状態。
目の前で起きている現象に理解が追い付いていない。
「ティナ、早く逃げよう! 姉さん、気を付けて!」
「うん、カイト! ネリーお姉さま、大学の方と一緒に逃げましょう」
僕は懐から拳銃を持ち出してティナの手を握り、部屋から飛び出した。
僕達の後ろから、ネリーと大学関係者が逃げてくる。
「フローレンティナ様、逃がしませんよ?」
老執事がボソリと呟くのを聞きながら、僕はティナと一緒に走り出した。
◆ ◇ ◆ ◇
「皆、戦闘準備を! テオバルトの配下達は魔神だったんだよぉ!!」
「な、なんだってぇぇ――!?」
僕とティナ、ネリー達は、他の仲間達が待機している部屋に逃げ込んだ。
そして僕は、驚いている仲間達を他所に愛用の小太刀を取り出す。
「カティ。今日はマルテやトビアスと一緒に後方で魔法支援しながら大人しく避難で宜しく。レオン、ヴィリバルト。姉さんが今、敵を足止めしているんだ。姉さんの元に戦斧を持って行くよ! ネリーは大学の方と一緒に大学内に避難勧告をお願い」
「は、はい」
「ん」
僕は皆にテキパキと指示を出す。
「とりあえず姉さんを回収後に撤退優先で。どうにもならない場合は倒しに行くよ」
「おうさ!」
「カイト、絶対に死ななないでね」
「うん! 約束するよ、ティナ」
<カイト様、ティナ様の事はお任せくださいませ。なお、グローア様は苦戦なさっていますが、健在です>
僕はレオン、ヴィリバルトと共に、「戦場」へと舞い戻った。
……姉さん、待っててよね。
◆ ◇ ◆ ◇
「姉さん、生きてる?」
「坊やかい? まあ、なんとかね。ティナちゃんは、ちゃんと逃がしたのかい? 上出来だよ」
僕達が姉さんの元に行くと、既に部屋はボロボロ。
戦場は、部屋の外の中庭に移っている。
三体の低級魔神が、魔法を放ちながら空を舞い暴れていた。
「おい、カイトとか言ったな。これは一体どういう事か?」
「騎士団長さんでしたっけ? 僕にも分かりません。ヴィリバルト、団長さんをお願い」
「ん!」
騎士団長さんは、青く輝く剣を抜き、空から襲ってくる魔神と切り結んでいる。
しかし、多勢に無勢で負傷し苦戦をしている様なので、ヴィリバルトに団長さんの支援に向かって貰った。
……三対二の上、魔法の武器しか効かない相手が飛んでいるんじゃ、スキルや魔法以外に飛び道具無い騎士や斧無しの姉さんでは苦戦しちゃうよね。
マルテに以前教えてもらったのだけれども、魔神等の異界の生物は魔力が付与された武器でしか傷つかない。
なので、僕達は新調した武器に魔法銀コートを追加で施してもらい、簡易魔法剣にしている。
「あれ、執事は?」
僕は魔神相手に牽制で拳銃を撃ちながら、姉さんに戦斧を渡し、戦場に執事が居ない事に疑問を浮かべた。
「すまない、坊や。知らぬ間に、アイツは逃げちまった」
「そうですか、姉さん。これは魔神を放置して逃げるのも難儀ですね。まずは、こいつらを倒すのを優先しましょう。このままでは被害増大しちゃいそうですし」
「カイトの意見に賛成だ。英雄候補の俺が魔神相手に逃げるのもなんだしな」
……流れ火炎弾で大学校舎にも火災が起きているし、怪我人もすでに出ている。魔法の武器持った兵士さんや倒せる人が他に来てくれない以上、このまま放置も出来ないよね。
レオンも大剣を抜き、既に魔神と戦っている。
僕も効果が薄い拳銃を仕舞い、小太刀と高周波ナイフを構えた。
「では、行きます!」
「じゃあ、アタシもいくよ」
僕と姉さんは共に魔神に戦いを挑んだ。
「ほい!」
僕は投げナイフを三本投げ、騎士団長さんを空から襲っている低級魔神の羽を狙う。
魔神は僕の方を見て身体を捻り、僕の投げナイフを避けようとする。
……自分から視線を外している敵を横から各個撃破。戦術の鉄則だね。
「よく気が付いたね、でも甘い!」
僕はナイフに繋いでいるワイヤーを操作し、上手く魔神をワイヤーに絡めとる。
……カーボンファイバー編み込みのワイヤーは、そう簡単には切れないぞ!
「トドメ!」
ワイヤーに絡めとられ飛べなくなり落ちてくる魔神を、僕は両手の武器で一閃!
ヤギ顔の首を跳ね飛ばして、僕は魔神を撃破した。
「おらよぉ!」
レオンは「スキル」を発動、火炎弾と圧縮空気弾を混ぜて放ち、視認しにくい空気弾を見切れなかった魔神を空中から撃墜。
後は、落ちてきた魔神を大剣で両断した。
……見せ球と本命を上手く使えるようになったんだ、レオン!
「こりゃ、アタシも良い場面見せなきゃね。よっこらしょ!」
姉さんは、空中に舞う魔神相手に戦斧を投げる。
まるでブーメランの様に回転しながら飛ぶ銀色な戦斧を魔神は避ける。
「ほりゃ! カイトの真似っぽいけど、こりゃいいね」
姉さんは戦斧の端につながっている鎖を引っ張り、戦斧の軌道を変える。
そして魔神の背後から戦斧が着弾、魔神を一撃でバラバラに砕いた。
「さて、執事を探すよ、カイト。アイツ、絶対ろくな事を考えていないからね」
「すまない。当家の問題が、ここまで皆様に迷惑をかけるとは……」
姉さんと騎士団長さんが僕に話しかけてくるが、あの執事には嫌な予感しかしてならない。
<カイト様! 申し訳ありません、只今ティナ様達が執事に襲われています!>
「なんだってぇ!」
ティナちゃんが魔の手に捕まりそうです。
カイト君はどうする?
次回、講釈をお楽しみに。




