第33話 僕、ティナと共に領主執事と対峙する。
「ネリー。テオバルト様を裏切っておいて、のうのうと生きているとは舐めてますねぇ。娼婦としてしか能が無いと思ってましたが、今度は誰に腰を振ったのですか?」
「ふん! エドモンこそ、よくぞあたし達の前にのうのうと顔を出せたものね。アンタ達が禁呪にまで手を出していたのは大学に大公様もご存じよ。だから、アンタ達が直接顔を出してくるしか方法が無かったのよね? あー、恥ずかしいわねぇ」
ネリーは自分をひどい目に合わせた領主たちが許せないのか、冷たい眼で彼らを見ている。
執事らしい老人も、酷い事をネリーに言っている。
……これは、平和的に会談が終わる事なんてありえないね。
僕達は、カールスブルグ帝国大学の一室にてテオバルトの筆頭執事エドモン達と対峙している。
どうしてこんな事になったのかといえば、冒険者ギルドから顔を立てて欲しい、とりあえず会うだけでもと頼まれたからだ。
各地の領主とは治安維持の意味もあり、それなりの関係を維持している冒険者ギルド。
テオバルトが禁呪など非道な事をしている上に、嫌がるティナを無理やり僕が奪っていったという嘘をついてギルドに仕事を依頼したことで、冒険者ギルドはテオバルトからの僕達への追跡者派遣業務は受けない事になった。
もちろん僕達からテオバルトへの非難も受けない。
中立の立場になったという訳だ。
そして、聞こえてくる噂話では大公様も、わざわざ僕達を捕らえようとは思っていないらしい。
愚鈍なテオバルトが、貢物を奪われたのを逆に嘲笑しているとも聞く。
……僕等としては、ギルドから犯罪者として追いかけられないだけでも御の字だよ。今回もギルドの顔を立てて、かつ中立で安全な大学の一室での会談という形にしてもらったんだ。
「そこは、事実の掛け違いかと思いますが? こほん、姫様の前で申し訳ございません。かつて雇っていた者が愚行をしていましたので、つい口が滑りました。さて貴方がたは禁呪と言いますが、テオバルト様の為にと勝手に呪を使い奴隷化しましたのは、ここに居ます魔術師。彼はフローレンティナ様に謝罪したいと申しております」
「あら、わたくしを裸に剥いて汚らわしい術を施していた方々とは思えない発言ですわね。ふん!」
今日は貸衣裳で、貴族令嬢とは言わぬまでも裕福な商家の娘っぽい恰好のティナ。
顎を上に向け、執事や魔術師を見下す様に冷たい眼で睨みつける。
因みに僕も従者として正装に身を固め、表向き武器は高周波ナイフ以外は装備していない。
……ティナ、普段の可愛い顔も良いけど、殺気あふれる冷たい目線もゾクゾクするほど綺麗だなぁ。
<カイト様、鼻の下なぞ伸ばさずに真面目に警護ですぞ。しかし、この執事とやら、憎らしくてたまりませんです>
今日は、ティナの背後に控える僕。
何かあれば、射殺も辞さないつもりで拳銃も懐に忍ばせている。
……ルークスったらインカムで他に聞こえないと思ったら、酷い事を言うんだね。
僕の横に立つメイド服のネリーも、飛び掛かるのを必死に我慢している様だ。
なお、ティナの護衛はグローア姉さん。
今日は鎖帷子の上にターバードのみの軽装甲で小剣のみ持つ。
他の仲間達は、別室にて待機をしてもらっている。
「今回は、大学の方々にも中立的立場で立ち会って頂いています。お互いに誤解が無いように致しましょう」
「そこはアタシも同意だね。さて、ではこちらからはティナちゃん、いや、フローレンティナ様の下腹部に彫られていた禁呪の図式を出させてもらおう。大学関係者にも既に鑑定をしてもらっていて、魔神召喚術まで加わった非常に高度、かつ悪質な呪詛と判定してもらっているんだが?」
まず初手で動いたのが、グローア姉さん。
AIルークスが映像記録していた紋章を書き写し、それを皆に提示する。
「それにつきましては、こちらの魔術師から報告させて頂きます。さあ、お願いしますね」
「はいぃ! こ、この術式ですが伯爵様の所有図書の中にあった術式でありまして、わ、私は禁呪という認識も無く使っておりました」
妙にびくびくして冷や汗をびっしりかいている魔術師。
確かにティナに淫紋を彫り込んでいた人物ではあるのだが、そこまでの実力者とも見えない。
煙幕の中で魔法の灯りを灯す事すらパニックを起こしていたことからも、マルテ、それどころかヘッポコ派手好きなトビアスよりも実力は低いだろう。
……いくら書物に術式や必要な触媒が記載されていても、こいつレベルの魔術師に呪詛を使いこなせるのかな? 怪しい……。
視線がきょろきょろと定まらない魔術師、彼の視線は前に座るティナではなく、隣に座る老執事の方へばかり向かう。
彼が明らかに執事から、なんらかのプレッシャーを感じている様に思える。
<魔術師の様子がおかしいですね。映像からのポリグラフ判定でも嘘をついていると判断されます>
ルークスが見ても、魔術師の挙動がおかしいらしい。
何か裏があるのは間違いないだろう。
「そうですか。ではエドモン様。この件は、そこなる魔術師さんの単独犯行、テオバルト様は一切関係ないと言われますのですね? それでは、次の案件。フローレンティナ様につきましては、嫌がるのを無理やりカイトが連れ去ったと冒険者ギルドに報告して奪還依頼をなされていましたね。しかし、真実はフローレンティナ様自身がカイトと共に逃げる事を選んでいます。姫様、どうぞ」
「ありがとう、お姉さま。ええ、わたくしフローレンティナは、カイトと共に逃げる事を自ら選びました。逃亡の主犯はわたくし、カイトは共犯者なのです! そして今、わたくしはカイトと婚約をしておりますの」
ティナは、はっきりとした声で逃げる事を選択したのは自分、そして共犯者の僕と婚約していると宣言してくれた。
……ティナ! 僕、君の婚約者で良かった!!
<カイト様、良かったですね。ティナ様がはっきりと言ってくださいましたし>
頬や耳が熱くなるのを感じながら、僕はティナの可愛い横顔をじっと見つめた。
「ほう。そこなる小僧は共犯者。フローレンティナ様が自らテオバルト様から逃亡なさったのですか? 話が当方の認識と随分と違います。もしや、フローレンティナ様は、魔法か麻薬などで洗脳されていらっしゃるのでは無いですか? 元公爵令嬢が平民と婚約などあり得ない話ですが?」
「失礼ですわねぇ、執事風情が……。先にわたくしを人形にするように術を施した貴方がたとカイトは違いますのよ。カイトとは幼少期から結婚の約束をしていましたわ。それにカイトは地球政府の高官ご子息。公爵家とも十分につり合いは取れますのよ。おほほ!」
ティナは、僕が馬鹿にされたのを怒って、張り合ってくれている。
僕はティナの綺麗な怒り顔を見ながら、嬉しくなってしまった。
「エドモン殿、先程から何を言っているのですか? 私には話が見えないのですけれども。それに皆様に失礼です。如何な元メイド相手としても酷い事を言い過ぎです」
執事の背後に居た三人の騎士の内、鎧に金色のエングレービングがあり豪華っぽく見える人が執事に声を掛ける。
どうも、この人はテオバルトの私設騎士団でも上位の方。
それにネリーに対しても同情的に見える。
「騎士団長【フュルヒテゴット】殿、貴方は真面目過ぎます。それに色々と知り過ぎました。だから、こんなことになるのですよ。さて、その小僧は汚らわしい地球人ですか。では、容赦も我慢もする必要も無いですね。さあ、配下よ。動きましょう!」
老執事が一声を掛けると、魔術師、そして背後に居た騎士の内、騎士団長以外の二人がビクンと大きく痙攣をし苦しみだした。
「ぐわわっわあぁぁぁ!」
……一体、この執事は何を言っているんだ? 何をやった?
<カイト様。これはオカシイです。対応を!>
僕が疑問に思っているうちに、魔術師や騎士達は異形な姿、ヤギ頭で背中にコウモリの羽を持つ二メートルを越える赤銅色の肌な大男へと変わっていった。
<なんと、執事がバケモノなのでしょうか? これは大変です!>
ルークスさん、ネタバレはおやめくださいね。
では、明日の更新をお楽しみに!




