*77 【王】の挑戦
「【黒色の武装】御一行様! ヴィクター王がお待ちです」
「分かりました!」
雷霆国を出立して数日が経過してジン達は魔物の残党を薙ぎ払いながらも、セーラス国に帰還していた。
――やはり四天王が全滅した影響か、魔物もどこかに潜んでいるのか姿を殆ど表すことなく、以前に戻ったという印象をジン達は感じさせられると共に、どこか得体の知れない違和感に胸をざわつかせていた。それはこの先向かうことになる【アライブ迷宮】への不安と期待か、はたまた……もっと恐ろしいナニカか。ジン達には判断しかねた。
それからセーラス国についたジン達はすぐさまヴィクターの下に案内された。見慣れてしまったその玉座の間と端に並ぶ貴族と王子たち。しかし今日に限ってはいつもより多くの人が集まっているかのように感じられるほどに人数が多かったとジン達は感じた。ジン達がいつもの定位置に着くとヴィクターが空を見上げながら話し始めた。
「素晴らしい」
「……え?」
「そなたたちのここまでの偉業は誠素晴らしい。我は今、感激している! 我の知る限りでも、ここまでの偉業が成し遂げられたことは無い。素晴らしい……これ以上の言葉が思いつかない」
(感極まってる……)
ヴィクターは興奮を隠しきれない様子でジン達に、そして周囲に向けても話し始めた。その様子にジン達も驚きを隠せず動揺した。しかし周りはそんなジン達を畏敬の念を込めた目で見つめていた。彼らにとってもジン達が成し得た偉業は凄まじいものだったことが伺える。ヴィクターは話を続けた。
「そして……ジン、お主は遂に全ての力を受け継いだと聞いた」
「……はい」
「……そこで頼みがある」
(またどこかが襲われているのかな……?まぁ、別に何だっていいけど……)
そう考えていたジンだったが、次の瞬間ジンは己の耳を疑った。
「我と闘ってくれ。英雄よ」
「……え?」
「「えぇえええええええ!!」」
「親父殿……! マジかよ!」
「ヴィクター王……!?」
ヴィクターは伏せていた目を開けると、そこには前にセーラス国が襲撃された際に見せた闘気が満ちていた。ジンは自分の耳の不調を疑い、アイリとグレイはそのあまりの内容に驚きを隠せずに二人の声が玉座の間に広がった。
そして周囲も困惑する中、ディナルドは以前ヴィクターがジンと戦いたがっていた旨を耳にしていたがまさか本当にこうなるとは思わず、只々啞然としていた。カルメンはヴィクターのその並々ならぬ様子に驚きを隠せず、戦場にいるときに見せるその表情と声色にヴィクターは本気であることが分かり、更に困惑した。
「困惑するのは分かる。だが、我は歴戦の戦士にも勝るその武勇、そしてその力に我は魅入られた。そして我は、『王』であると共に『戦士』である。名誉ある戦いがしたい……どうか、我の我儘に付き合ってもらえないだろうか?」
そう問われたジンは内心かなり戸惑っていた。ジンは一瞬断ろうと思っていたが、周囲のジンとヴィクターの闘いを心待ちにしているような雰囲気が漂い始め、ジンは諦めてヴィクターに承諾の意を示した。すると、ヴィクターは心底嬉しそうで獰猛な笑みを浮かべていた。
(……戦士じゃなくて格闘士だったか……)
「あぁ……本当に済まない、年甲斐もなく血の滾るような闘争に歓喜してしまった……だが、ここで我の挑戦を受けてくれることを嬉しく思う! 皆の者! これより一週間後の正午、訓練場にて我、ヴィクターと【黒色の武装】ジンとの模擬戦闘を執り行う!」
「「「ウォオオオオオオオ!!」」」
「はわわわわわわ……」
「ジ……ジン様!? 本当によろしいのですか?!」
(もう、どうにでもなーれ……)
◆◆◆
――【黒色の武装】とセーラス国の国王ヴィクターとの模擬戦闘一週間後に訓練場にて執り行われる
「おい、聞いたか!?」
「あぁ! 聞いたぞ! まさかヴィクター様とあの【黒色の武装】のジンが戦うなんてよ!」
この報せはすぐ城下に広がり道行く人々は口々にその話をしていた。何せこの大陸での屈指の実力者にしてセーラス国の国王であるヴィクターと【黒色の武装】の継承者にしてあの四天王を全て撃破し(実際は少し違う)、更にセーラス国のみならず他の国の危機を救った実績を持つジンとの模擬戦は、誰しもが心躍る内容だった。
そしてそのビッグイベントに商人はビジネスチャンスを見出し、ジンの纏っている黒い鎧を模した鎧や武具を販売したり、ある詩人はセーラス国を救ったジンを称えるかのような詩を語った。さらにギルドでは、ジンに憧れた冒険者が現れ始め、そのいずれも装備を黒く染めたり、同じような鎧を纏ったりと数多くの影響を及ぼしていた。
果てにはシニアーク王国やセイクリッド王国等にいる、これまでジンが関わってきた【色付き】の面々もこの一大イベントの報せを聞いてそこに参加したいと思い、各々の事情を見合わせてそれぞれ参加希望をセーラス国に届けた。
後にセーラス国の文官タニアは次のように語った。
「ヴィクター様のご子息の誕生した時に行われた『誕生祭』以上に盛り上がり、我々は数々の書類に目を通さなければなりませんでした。……別に? 怒ってませんけど? えぇ、怒ってませんとも」




