*76 血が告げる噓偽りなき真実
――セーラス国の大書庫にて
「……あったあった。これだ『血脈の運命』」
大書庫の一室、その最奥でヒュドールはある本を探していた。それはフラムからジンとグレイの家系図を調べて欲しいという依頼に必要な本、人の歴史が記されるアーティファクト……『血脈の運命』であった。
書庫の最奥にて安置されていた表紙が真っ黒で血のように赤い模様が刻まれたその本は、とある条件を満たすことで対象者の家系図を映し出すというかなり重要な物であった。その性質から別名『偽りなき血脈』とも言われており、かつてこの本は親権を巡る問題や孤児の親を見つける等もっぱら裁判などに活用されてきた過去がある。
「で……ここに、ジンとグレイの血を垂らして……っと」
本の表紙にジンとグレイから予め採取して冷凍保存しておいた血液と髪の毛をそれぞれ本の表紙に垂らした。そして本がドクンと胎動したのを見計らってヒュドールは己の魔力を込め始め、呪文をブツブツと唱え始めた。
「……ここに表すのは、噓偽りなき血の流れである。血よ、固まれ、描け、表せ。髪はその道しるべとなれ」
すると胎動が徐々に収まっていき、そして一際赤い光を発した。それを見たヒュドールはゆっくりとその表紙を捲った。そこは白紙だったが、徐々に文字と家系図らしき物が白紙に浮かんできた。そして一通り現れた所でヒュドールがゆっくりと目を通していった。その最初の項目はグレイだった。
「……ふむ、確かにグレイは【奴隷王】の子孫か……」
グレイの家系図を上に辿っていったヒュドールはその箇所にグリース……つまり【奴隷王】の名と生年月日が記載されていることを確認した。しかし『血脈の運命』の制約として五頭身以内の人物しか詳しく書かれない為、大人しく断念することにした。
「流石に古すぎたか……じゃあ、次はジンだ」
そうしてジンのページに移行したヒュドールは、ジンとその父であるコウキの名を確認した。そしてそこに記された情報により彼が【黒色の武装】であることも知ることができた。
「やはり、ジンは彼の子孫だったか……」
ふと年代を見ているとヒュドールは不可解な記述に顔を顰めた。
「……なぜジンとの関係が父と息子なんだ? これほど年代が離れているのに……?」
そこに記述されていた年代は少なくとも百年以上の間があるのにも関わらず、関係が父と息子となっていた。
「確かに……長命種ならばこれだけの年の差が離れていることに説明がつく。だが、ジンの場合だと先代とジンの間に誰も存在していない……つまり、正真正銘ジンが先代の息子であることは間違いない!」
更にヒュドールは、ジンの年齢とコウキの年齢の差が可笑しいことと、普通の人にはあり得ない記述がされていたことに気づきさらに事の異常さを知り、思わず身を震わせる。
「なぜ死亡時刻が記載されているんだ!? それになぜ誕生日が二つあるんだ!?これは……どういうことだ?」
ヒュドールは知る由も無いが、その死亡時刻は紛れもなくジンが日本で死んだ時刻であり、誕生日が二つあるのも彼が日本で生を受けた日とこの世界に転生されたのが要因であった。詰まる所『血脈の運命』は紛れもない真実のみを映しており、そこに偽りがないことを表していた。詰まる所これが意味するのは、
「……まさか、ジンは……既に一度死んでいるのか!? だとしたら……どうやって復活した?」
ヒュドールはこれまで培ってきたの自分の知識を総動員させ、手あたり次第思いつく仮定を精査してはつぶしを繰り返した。そしてふとあることを思い出した。
「まてよ……じゃあジンの父はどうなんだ!?」
そうして今度はコウキの覧に目を通すヒュドール。するとそこには、死亡時刻と誕生日が二つ存在した。
「やはり……! ジンもコウキも一度どこかで死んでいる! そして蘇っている! 何処だ!? 二人の故郷は! そして共通点は!?」
ヒュドールは必死に本に記された情報を目で追い、頭の中で情報をまとめた。しかし『血脈の運命』に記されている情報はあくまで対象者の誕生日や死亡時刻、そして血のつながりのみであり得られる情報は殆ど無かった。
だが、コウキの親つまりはジンの祖父に当たる人物にも目を通した。まさかと思ったヒュドールだがやはりそこにも何故か死亡時刻と誕生日が二つあった。
「待てよ……?もしかして……ジンを含めたこの父と祖父は、元々別の世界から来たとでもいうのか!?……そうすると、死亡時刻が二つあるのも誕生日が二つあるのにも説明がつく! この本は、嘘をつかない。つまり、この死亡時刻はジン達が元々いた世界での死を意味して、この誕生日はこの世界に来た時の事を意味していたんだ!!」
頭をフルに回転させて少し疲れた様子のヒュドールは水で作ったソファのような球体に倒れこみ、心底疲れたような声を上げた。
「……まさか、これほどまで情報が得られるとは……」
そして『血脈の運命』を寝ながらの体勢で手に取り、再びジンの項目を開いた。そこには相変わらず死亡時刻と誕生日が二つある異様な項目が浮かんでいた。そしてそこから上へ上へとあみだくじのように辿っていた。そしてジンの祖父『タチバナ カイト』と書かれた項目に指がたどり着いた時ふと視線がその顔に向かった。
それはどこかで見覚えがあるような顔立ちで……そして先程見たようなナニカ……
「はっ!? これ、確かグレイの項目に…………いた!」
ヒュドールはページを戻してグレイの項目に移行して上へと辿っていった。そしてグリースの上にあたる部分に位置する所に先程見た顔、カイトの顔とコウキとは別の母の顔がそこにはあった。
「……とすると、コウキはグリースの腹違いの兄弟だったのか!? うわぁ……こんなこと知りたくなかった……」
意図せず神話の英雄の裏事情を目の当たりにして顔を突っ伏せるヒュドール。そして彼の優秀な頭脳がジンとグレイの関係を導き出した。
「……じゃあ、あれか。ジンとグレイは元を同じとする遠い子孫だったのか……これフラムに伝えるべきかなぁ……伝えたくないなぁ」
そして暫くうなだれていると大書庫に誰かが入ってきた気配がした。しかし神話の英雄のドロドロとした一面を発見してしまったヒュドールは精神的にダメージを負っていたため、あまり気が進まない様子でゆっくりと顔を上げた。声の主はカルメンだった。カルメンは晴れたような顔で何時ものように大きな声が響き渡った。
「ヒュドール殿! ジン達が帰ってきたぞ!!」
「……あぁ、そう……分かった。今行くよ……」
「どうした? どこか調子でも悪いのか?」
「……強いていうなら心かな」
「うん?」
「なんでもない」
それからヒュドールはこれ以上の詮索は己の心に損害をもたらすとして考えることを辞めた。しかしそう簡単に忘れることは出来ず頭の中にカイトに関する記述があったなと思い返してしまっていた。
(そういや……あの男……他にも妻がいたような……確かあの本にも、それからあの本にも……忘却魔法覚えようかな……)
ヒュドールは生い立ちが複雑極まりないジンとグレイに同情した。
という訳でジンとグレイは遠い血縁でした。
そしてジンの父のコウキも祖父のカイトもまさかの親子三代で転生者でした。
また、コウキはグリースが腹違いの兄弟とは最後の最後まで知ることは無かったそうな




