*75 雷霆国との別れ
「先日は誠にご苦労だった!御蔭でこの国の危機は去った。本当に、感謝する!!」
「私からもありがとう。治療が間に合わなかったら死んでいたかもしてないからな」
この前の激闘を乗り越えたジン達は、雷霆国に暫く滞在した。
そして雷霆国に滞在中、嘗てのジンの故郷である日本の和食に似た料理が出された。久しぶりに食べる米の味にジンは感動して、その後も旅の途中で食べるために米俵を三つ衝動買いしたことにアイリが苦言を呈したことはさておく。
それからというもののジン達は、雷霆国の惨状を目の当たりにして、町の修復を手伝っていた。魔王軍が与えたダメージは深刻な状態なものであり、ずらりと並んでいたであろう建物の殆どが倒壊し、整備されていた筈の道路はまるで荒れ地のように荒れ果て、ボロボロになっていたのだ。
そしてそれらを、復帰した雷電(一日で傷が塞がった)と共に復興を手伝ったのである。ジンは、【黄色の雷鳴】の力を継承した影響か、雷電と同じような速度を出すことが出来るようになり、復興までの間町中を飛び回る黒い影と稲妻の噂が町中に広まったとか。
そんなこともありながらある程度の町の復興も進み、ファブニールの栄養を吸って巨大化した樹木を『大竜木』として雷霆国の新たな観光資源として利用する動きもありながら、ジン達は目的の場所である【アライブ迷宮】に向かう目的を龍我に伝えた。龍我は少し名残惜しそうにしながらも、ジン達に感謝を伝え、旅の無事を祈ったのだった。雷電も同様にこれまでの道中、そして今回の事件での感謝を伝え、ジン達に別れの言葉を告げた。
――そして当日ジン達は馬車に乗り込み、セーラス国に戻ろうとしていた。そんな彼らを龍我と雷電、そして複数の御付人と兵士……等々、今回の事件で関わったほとんどの人間がジン達を見送りに来ていた。
「ではジン、アイリ、グレイ殿!後の事は私達に任せて安心して使命を果たしてくれ!」
「丁度……あの男も動き出しそうだ……この機会に乗じて灰汁抜きをするとしようか……」
「えっと、こちらこそお世話になりました!」
「ありがとう!雷電!」
「……じゃあな」
「おお!ジン殿の声を聴いたのはこれが始めてか!さらばだ!!」
アイリ達が別れの挨拶をする中、ジンも意を決して声をひねり出した。龍我は初めて聞くジンの声に少し驚きながらも直ぐに笑顔になり、手を振って見送った。それから馬車が雷霆国を出てから直に見えなくなったあと、雷電と龍我はどこか冷徹な表情になった。
「……さて、兄上。我々は我々の為すべきことを致しましょう」
「そうだな。ちょうど奴らも動き始める頃合いか」
雷電の手には何やら黒く四角い物体が握られていた。
◆◆◆
「クソッ!奴らめ……ただでは済まさんぞ……!見ておれ……」
雷神城の最上階にて、ジン達に散々無礼を働いた老人こと、猩々が何やらボタンのような物を握りしめていた。
猩々はこれまで権力を振りかざして贅沢の限りを尽くしていた。彼が排除されなかった要因の一つには彼の先代、つまりは彼の祖父が猩々とは比べものにならないどころか比べるのもおこがましいレベルに優れた人格者であったためだ。そして猩々もその孫として周囲から期待されていた。
しかし、そんな親の期待を裏切るかのごとく猩々は親の残した莫大な財産と権力に溺れ堕ちるとこまで堕ちた外道になり果てた。
そんな彼は、自分に逆らう存在や目上の存在も忌み嫌っており、その行動原理も一貫して自分の言うことを聞かない存在が嫌いというモノであった。よって彼に楯突いたジン達に仕掛けた報復の手段とは、すなわち爆弾であった。
「まぁ良いわい……これさえ押せばあとは……あの忌々しい兄弟も後々葬ってくれよう……グフフフフフ……笑いが止まらんのう」
下品な笑い声を上げながら猩々の視線は遠ざかっていく馬車に向けられていた。爆弾は予め馬車の下に取り付けてあり、ボタンを押せばすぐに爆発することは目に見えていた。
――最も、その爆弾は既に……
「さらばじゃ、精々綺麗な花火になれ!」
猩々がボタンを押した。これで馬車が爆発するはず……そう思っていたのにも関わらず、一向に爆発しない。何度押しても爆発しない。
その事実に気づいた猩々は取り乱した。
「なぜじゃ!?なぜ作動しない!?」
「それは既に兄上が対処なされたからだ」
「ッ!?」
猩々が背後を振り返るとそこには龍我と国の補佐官や部門の長等そうそうたる面々がいた。
「き、貴様ら!儂を誰だと思っておる!!」
「この国を救った英雄を……殺そうとした大罪人ですが?猩々殿」
「クッ……!」
顔を顰める猩々に更に追い打ちをかけるかの如く、龍我がある一枚の紙を取り出し、それを猩々に突き立てた。
――そこには【解雇通知及び国外追放】と書かれていた。猩々はその紙の内容に目をかっ開きながら驚愕していた。
「な……ッ!?」
「残念ですが、猩々殿。あなたは本刻をもって解雇させていただきます。あなたの目に余る行動は我が国にとって不利益でしかありません。よってここに、解雇通告及び国外追放、財産没収をさせていただきます」
「な、なななんじゃと!?」
「あなたは、この国の敵となりました。速やかにご支度を」
「ふ、ふざけるな!貴様ら!この国が発展したのは誰のおかげだと思って居る!!」
半ば現実逃避の形で既に崩れ去った己の地位に縋りつく猩々に龍我が間髪入れずに最後の止めを打ち込んだ。
「猩々殿ではなく、あなたの祖父方のご尽力があってこそでした。あなたは足枷にすぎません。二度とこの国の敷居を跨がないでもらおう。狼藉者めが」
「か……かぁ……」
龍我の絶対零度の睨みに怖気づいたのか、既にただの矮小な老人になった猩々に為すすべはなかった。そして龍雅の御付人に連れられて、猩々は雷霆国の外に連れ出された。
「あとは……お任せします。兄上」
◆◆◆
「クソ……こんな筈では……こんな筈では……」
雷霆国から放り出されて暫く経ちすっかり沈み込んだ猩々。しかしその眼にはまだ野心の炎が燃え上がっていた。
「ならば……儂の持つ情報を『魔王崇拝』の連中に売り込めば……!」
「やはりか」
「なっ……!貴様!龍誠!!」
「貴様は死んでもらう。弟、ひいてはこの国の不穏因子は消さねばならない」
猩々の背後には大鎌を構えた雷電が佇んでおり、その鎌は今にも振り下ろされようとしていた。それに焦った猩々は咄嗟に言いくるめようとしたが……その瞬間刃が首元を通った。
「は……はは!外したか!!怪我が祟ったようだな!!このままにげ……え?」
「外してなどいない」
猩々は、己の視界がずれていくのを感じたのを最後に断末魔も上げることなく死んでいった。雷電が目にもとまらぬ速さで鎌を振り抜いたのだった。
「あの世で祖父方の叱責を受けるがよい愚か者め」
雷電は鎌から刃を外し、鞘に収めた。キィンという音が流れ、そこには既にこと切れた猩々の死体しか残されていなかった。




