表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

その十八 三嶋 結

「あーちゃぁん!!」


 ワシらより遅れること十分、駅からずっと走ってきたらしく、全身汗だくになりながら、その足元は素足のママさんがやって来た。

走りにくかったのだろう、手には蛍光ピンクのヒールが。


 ママさんもワシらに理由を尋ねてくるが、肝心の三田村 弥生は話すどころではなく、ずっと泣き続けていた。


 手続きなどの説明があると、三十代くらいの男性の医者に呼ばれたのは、身内であるママさんとほのかのみ。

二人が部屋に入ってしまい残されたワシは、とうとう我慢が出来なくなったワシは杖で弥生の頭を小突いて目を醒まさせる。


「ぐすっ……何……するの……よ」


 鼻をすすり、俯いたままだった弥生の顔が、ようやくこちらを向いたので額を再び小突く。


「何するじゃ、ないのじゃ。お主が心配している以上にほのかやママさんが不安なのが何故わからぬ。ほら、ひとまずワシに何があったのか、話すのじゃ」

「そっか……そうだよね……」


 袖で涙を拭いた弥生は、経緯を全て話をしてくれた。

バタフライとかいう対ワームの協会へとゴブリンでの被害申請をしに行ったこと。

そこで、出会ったワームと前線で戦う急襲部隊の第二部隊の隊長、三嶋 (ゆい)とやらに、いきなり殴られたこと。

それから、何度も蹴られ殴られ続けたことを。


 怒りでブルブルとワシの体が震えてくる。


「意味がわからぬのじゃ!! なんじゃ、ソイツは!」


 ワシが見た限りではアカツキ自身、恨むを買うような奴ではない。

ただ、ただ、理不尽に殴られたなど、ふざけるなという話である。


 説明を聞き終えて戻ってきたほのかとママさんから、アカツキが全治一ヶ月と聞かされ、ワシは益々腹が立って、ママさんとほのかに弥生から聞いた話をする。


「そう……やっぱり、結なのね……」

「ママさん、知っているのじゃ?」

「うん……これが始めてじゃないから」


 ママさんからの言葉にワシは衝撃を受ける。初めてどころかママさんの言葉尻から、過去何度もあったことが読み取れた。


 許せぬのじゃ。いくらアカツキが第四世代と言っても、余りにも酷すぎる話で、ワシは怒りに任せて床に杖を叩きつけた。


「ルスカちゃん……病院では静かにね」


 ほのかに怒られるが逆にほのかは悔しくないのかと、問い詰めてしまい、泣かせてしまった。

そうだった、悔しくないはずは無い。

大好きな兄が、こんな目に遭わされて。


「悔しいよ! 悔しい……けど」

「すまぬ、ほのか。ワシも言い過ぎたのじゃ」


 ほのかは、力なく項垂れる。ママさんも困った顔をするだけで、ほのかにも、ワシにも、何も言わない。

その事がワシの思っていた差別だけが理由ではないとワシに気づかせた。


「あっ!」


 弥生の声にワシらが反応すると、扉からベッドに寝かされたアカツキが出てくる。

命に別状はない。そう聞かされホッとするが、腫れ上がった顔の痛々しさに、ワシも含めて皆が悔しい感情が表情に滲み出ていた。


 アカツキの病室に案内され、ほのかがアカツキのすぐ横に陣取ると手を繋ぎ、ずっと泣いていた。

弥生は、何故訴えないのかとママさんに問い詰めるのだが、アカツキから何があっても騒ぎにするなと言われているとママさんは説明した。

弥生も憤り、ワシも弥生と気持ちは同じなのだが、ママさんとアカツキの考えがよくわからない。

理由は他にあるはずだと、ワシはママさんを部屋の外に連れ出した


 弥生にほのかの事を頼みワシらは部屋の外にあるソファーに腰をかけて話を聞く。


「……結のことね」


 ママさんから口火を切りワシは大きく頷く。

まずは、三嶋 結が何者かを知る必要があると思ったのだ。


「……結は、私のいわば元舎て──仲間だった子なの」


 恐らく舎弟と言いたかったのだろうが、ママさんは言い直す。

今更な気もするが、今はそんなことはどうでもよい。


「アカツキに聞いた、元ヤンとかいうやつじゃな?」


 ママさんは頷き話を続けようとするのだが、その目にはうっすらと涙を浮かべていた。


「“羽”が発動するまでね。“羽”が発動したことが判明して、あの子はあーちゃんと同じ学園に行くことになったのよ。

私は当時トップだったこともあって、あの子がチームを抜けるのを反対したのよ。

いえ、違うわね。

私は抜けることに賛成したのだけれども、下の人達にメンツが立たないと言われてね。

私も流されて渋々反対したっていうのが正しいわね」


 よっぽど話辛いことなのだろう。ママさんは、一旦間を開けて大きく深呼吸をすると話を続ける。


「それからというもの、結の周囲で嫌がらせが始まったのよ。

当初学園からも、何とかしろと結の方に文句を言っていたみたいで、当時は相当悩んでいたらしいわ」

「それじゃ、そやつはアカツキに、その時の腹いせを?」

「ううん……それは、ただのきっかけよ。結にはね、仲の良かった二つ上の兄がいたの。嫌がらせは、そのお兄さんにもきてね、そして事件が起こったの」

「事件?」

「結のお兄さんが殺されたのよ。その時私は、あーちゃんを妊娠していてトップを降りてたから事件が起こった後、知ったのだけれども代わりにトップに立った男がね、主導して事件を起こしたのよ。


そして、その男ってのが……あーちゃんの父親なの」


 自分の兄を殺した男の息子、それがアカツキか。しかし、それは余りにも勝手過ぎないだろうか。

確かに殺したのはアカツキの父親なのかも知れぬが、アカツキは関係ないではないか。


「得心いかぬのじゃ。大体アカツキの父親はどうしたのじゃ?」

「もちろん、すぐに捕まって刑務所に入ったわ。

そして十年経って刑期を終えた。彼女、結はそれをずっと待っていたのよ。自分の手で殺すために」


 自らの手で仇を討つ。ワシのいた世界ではよくある話じゃが、ここでは恐らく違うのじゃろう。


「しかし、それで満足したはずじゃろ? 自分の手で殺したのなら」

「彼女は殺してないわ。殺したのは──」


 どんどんと当時を思い出してなのか暗くなっていくママさん。

しかし、ワシには予想がついておった。


「アカツキ。なのじゃな?」


 ママさんは黙って頷くことしかしなかった。

しかし、三嶋 結も自らの手ではないにしろ満足したはずじゃ。

それなのに、アカツキに執拗に食ってかかるとは。


 そもそも、何故アカツキは父親を殺す必要があったのか。

短い付き合いじゃが、アカツキのことをワシは出会った当初からお人好しっぽいと思っていたし実際そうだった。

アカツキが殺さなくてはならないと思った理由。


「ママさんとほのか、じゃな?」


 二人を守るために殺した。それがアカツキが唯一あり得る可能性じゃった。


 話で聞いただけじゃがアカツキの父親は、ろくでもなさそうじゃ。


「うーん……しかし、そうだとしても、そやつがアカツキに固執する理由がわからんのじゃ」


 ママさんは、他にも何か隠している様子で、ワシはこれ以上追及してもよいものなのか、悩んでいた。


 静かな夜間の病院の廊下に気まずい空気が流れている。


「ルスカちゃん……」と、ママさんの声が静寂を破る。ワシは黙ったままママさんを見ると、抱き締められる。

その力は、普段のママさんとは思えないほど力強い。

ワシを抱き締め声を殺して泣いていた。


 ママさんは悔しい……と言うより無念なのじゃろう。

自分の息子が苦しんでいるのに、何も出来ないのが。


 そんなママさんの様子を見てワシは一つ疑問に感じ心に突き刺さったトゲが抜けた気がした。


 ほのかだ。


 ママさんがアカツを妊娠していた頃に捕まり、その男は十年もの間、牢に入っていたという。

ほのかは歳は十一と言っておった。

計算が合わぬ。アカツキは十七、ほのかは十一。


「アカツキとほのかは、父親が違──」


 ママさんの人差し指がワシの唇に触れる。話さないでと言っていると判断したワシ黙る。


 突然、病室の扉が開くと中から、ほのかが飛び出し走り去っていく。


「ほのか!」


 ママさんが呼び止めるのも聞かず、廊下の奥に消えていき、任せろとママさんの腕を強引に外して、ワシはほのかの後を追う。


“フィジカルブースト”


 身体能力を上げる魔法をかけて、追いかける。

アカツキの回復が無い今、あまり頻繁に魔法は使えぬ。


「待つのじゃ! ほのか!!」


 何とか二度目のフィジカルブーストで、病院の出入口の外でほのかを捕まえることが出来た。

ほのかは、ワシを見るなり抱きついて泣き出したのだった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ