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その十七 バタフライ~暁side~ルスカside~

【暁side】


 翌日、俺は学園の訓練所でヘトヘトになりながら、帰宅の準備を終えると、三田村と馬渕を誘いバタフライへと向かう。


 ゴブリンでの被害の手続きをしに来たわけだが、滅多に本部にやってくることは無いということで、二人も付き添いとして来てくれた。


 全十五階のビル全てが、バタフライの本部になっている。

俺達は、ビル内へと入ると入口横にある案内板で、手続きの場所を探す。


 八階以降、上はバタフライ関係者しか入れないようで、被害手続きは二階になっていた。


 俺は二人を一階のロビーに残して、二階へと受付横の階段を利用して上がっていく。

やはりこの間のゴブリンの被害は、大きかったみたいで整理券を取って順番待ちのようだ。


「六十四か」


 今、手続きを行っているのが二十番台だから、まだかかるのかと、辟易する。

カウンター内三つの窓口で対応していても追い付かないみたいだ。

中には、クレームだろうか、大声を張り上げている男性もいる。


 呼び出しまで時間があるので、二人に電話で先に帰るように連絡を入れると、ロビーにいた二人が俺の元にやってくる。


「凄い人だね。はい、これ」


 馬渕が缶コーヒーを俺に渡してくる。正直、助かる。

俺は礼を述べると、缶を開け喉を潤す。


「まだ、時間かかるみたいだけど、馬渕さんはどうしますか?」


 三田村が、ウロウロしている係りの人を捕まえて聞いてくれたみたいだ。


「うーん、門限もあるからね。僕は先に寮に戻るよ」

「そうですか。それじゃお疲れ様です」

「コーヒーありがとうございます」

「うん。それじゃまた明日、学園で」


 馬渕が階段をつたって、一階へと降りていくのを見送る。


「三田村は、大丈夫なのか? 心配しているんじゃ……」

「うん。だからさっき連絡入れといた。遅くなるかもって。田代くんも、ほのかちゃんやルスカちゃん大丈夫?」

「こっちも、ほのかに連絡入れてる。あ、そうそう。昨日は、ブ──」


 三田村が俺の口を両手で塞いできた。


「こんなところで、言わないで!」


 小声でも力強く俺に言ってくるところを見ると、恥ずかしいのだろうが、俺は単にお礼を言いたかっただけなのに。


 結局、馬渕が帰ってから二時間待たされて、手続きは五分と、あっという間に終わる。

どうやら、少なくとも処理には二週間はかかるという。


「二時間待たされて、五分で終わって、二週間待ちか。お役所仕事だな」


 今日受付ていた人達は、一般人で真封使いではない。

急襲部隊所属は、黄色、赤色、紫色と所属している部隊により色分けされている。


 俺が入るなら、ここになるだろうと思われる支援部隊は緑色だ。


 ビル内で、そんな色の制服を着ている人は見当たらない。

恐らく八階以降にいるのだろうと、俺は勝手に推測した。


 俺と三田村が帰ろうと一階へと階段を降りていく。


 その時、一階ロビーが騒がしくなる。

真っ赤に染めた赤く長い髪を靡かせて、颯爽と歩く姿は、モデル顔負けのスタイルで、まつげは長く切れ長の目を周囲に向けて微笑みながら歩いてくる。

髪と同じ色のロングブーツとロングコートに身を包んだ、その女性は、急襲部隊の第二隊隊長、三嶋 (ゆい)隊長。


「うわ、隊長さんだよ、田代く──」


 さっきのお返しとばかりに、三田村の口を咄嗟に塞ぐ。

しかし、時すでに遅く、切れ長の目がこちらに向いた。


「逃げるぞ、三田村」


 耳元で小声で話すと三田村の手を繋ぎ、人混みに紛れて逃走を試みる。


「何で、逃げんだい?」と、俺のすぐ後ろで声が聞こえた。


「ぐっ……!!」


 俺の右頬に強烈な痛みが襲ってくると同時に、ロビーに置かれたテーブルを巻き込んで俺は倒れた。


「田代くん!!」


 三田村がすぐに俺の元に駆け寄ろうとするが、俺は手でそれを制止する。

今、俺に近づいたら三田村まで巻き込んでしまう。


「挨拶も出来やしないのかい、お前は」

「がっ……は!」


 腹の痛みに耐えようと俺は床を転がりながら腹を押さえる。

この人は、いつもこうだ。

有名人なのだから裏口からこっそり入れよと思う。

しかし、思った事が見抜かれたのか、倒れている俺の顔にブーツで蹴りあげる。


「チッ……ほんと、いやな目付きだよ」

「ガッ!! ……いてぇ」


 鼻から血をボタボタと溢しながら、俺は立ち上がろうと

試みるが、そんなのを待ってくれるはずもなく再び蹴りが飛んでくる。


「プロテクト・ツー!」


 蹴りが俺の目の前に出来た白い壁に弾かれる。すぐに三田村の仕業だと分かり、非常に不味い状況になった。


「ふん……!!」


 三田村を一瞥すると三度目の蹴りが白い壁を破り、俺は顎を弾かれた。


「生意気にも、彼女連れかい? いいご身分だ、ね!」


 床に倒れている俺の脇腹を執拗に蹴り続けてくる。


「やめてください! 田代くんが何をしたんですか!」

「やめ……ろ、みた……む、ら……」


 やめろと言ったのに俺を庇うように俺と三嶋の間に立ち塞がる。


「くっ……!!」


 三嶋の遠慮のない拳が、三田村の顔に向かって襲いかかる。

三田村の襟首を掴んだ俺が引っ張ると軌道がずれるが「痛っ!!」と叫ぶ。

直撃は避けたもののカスっただけで、三田村の瞼近くが切れていた。


 こうなったらと、俺は三田村の上に覆い被さる。


 その後も容赦ない攻撃が俺を襲う。俺はこれ以上傷が広がらないよう三田村の瞼の上を押さえて止血を試みていた。

俺の真封だと、傷は治せない。

俺が瞼を押さえている間、ずっと三田村は泣いていた。


「いくよ」


 飽きたのだろう、三嶋が部下に声をかける。

蹴りが止み全身の痛みを堪えながら、立ち上がろうと体より足に力を込めた、その時。

今までで一番強烈な、そして俺の体の中で鈍い音が聞こえた。


「ぐわぁっ!!」


 全身が痺れるような痛みと共に、肺の中の酸素が全て吐き出すような感覚に、俺は床を脇腹を押さえて胃の中のものを床に撒き散らす。


「田代くん!!」


 三田村の声がするが、今の俺に三田村を見る余裕は無くなっていた。


「たし……田代……くん、いや、死なないで……」


 三田村の涙声が聞こえる。俺の手を握っているのも辛うじてわかる。

俺は三田村の手を握り返す、三田村が三嶋に突っかからないように。


「や……わた……まだ、す……って、言って……のに」


 俺は微かに聞こえる三田村の声に包まれて、意識を手放してしまった。



◇◇◇



【ルスカside】


 アカツキが病院に搬送されたと聞いたのは、夕方を過ぎ夜になっておった。


 ほのかの“すまほ”とやらに連絡が入ったのじゃが、ほのかはそれを聞いてショックで泣き出してしまい、代わりにワシが話を聞くことになったのじゃ。


 相手は三田村 弥生じゃったか、昨日いちごぱふぇを奢ってくれた女じゃった。

向こうも嗚咽を伴い話すので、内容は上手く聞き取れなんだが、怪我をしたのと病院の名前は確認取れた。


「ほのか、しっかりするのじゃ! 病院に行きたいじゃろ? ワシでは場所は、よう分からんのじゃ。ほら、涙拭くのじゃ、行くぞ」


 ほのかを叱咤激励し、腕を取って立たせる。ほのかは賢い子じゃ。すぐに袖で涙を拭くとワシが聞いた雨宮総合病院という場所を“すまほ”で調べ始めた。


 場所を確認すると、次はママさんに再び泣きながら連絡し終えると、黄色いネズミ型の置物を床に叩きつける。


「一枚、二枚、三枚……うん! ルスカちゃんはタダで乗れるから、いける!」


 割れた置物から出てきたお金を手に取り、ワシと外に出ようと靴を履いたが忘れ物をしたらしく、靴のまま部屋へと戻り箪笥を漁る。


 再び戻って来たほのかの手には小さな紙が。それをポシェットにしまい、ワシとほのかは駅へと向かったのじゃった。


 ワシらが病院へ着く頃には、人はほとんどおらず裏口みたいな場所から病院内へと二人で入ると、ほのかが受付と書かれた場所にいた女性に声をかける。


「あの……田代 暁の妹なんですが、お兄ちゃんは今どこに!」

「田代 暁さんですね。今は二階の手術室にいます。ここをまっすぐ行って隣の病棟に行ったら、エレベーターがありますので、それで二階に。その後……」

「ええい! 長いわ! 馬鹿者、案内するのじゃ!」


 緊急時だと言うのに、長々と説明されワシは頭に来て、カウンターから身を乗り出していた女性を杖で小突く。


「あ、ああ。そうね、一緒に行きましょう」


 女性に連れられて来た手術室の前には、三田村 弥生が椅子に座り項垂れていた。


「弥生お姉さん!」


 ほのかとワシに気づいた途端に泣いて謝りながら、ワシらにしがみつく。

三田村 弥生の左瞼の上には怪我をしたのか治療したと思われる白い綿が貼られていた。


 三田村 弥生は泣いてばかりで、一向に理由がわからぬ。

一体何があったのじゃ……

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