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その十三 ブラッドジェネシスとエボル教

「ただいまー」

 

 三田村を送り届けた後、すっかり遅くなってしまい家に帰ると三匹の雛がピーチクパーチクと腹を空かせて待っていた。


「お兄ちゃん、おかえり」

「アカツキー」

「あーちゃーん」

「「「お腹空いたー!!」」」

「わかった、わかったから離せって」


 三匹──三人は相も変わらず息ピッタリで、俺に空腹を訴え抱きついてくる。

帰る途中、買ってきたホカ弁を渡すと三人はあっさりと俺からホカ弁に切り替えて離れていく。


 家の中は、壊れたテレビやテーブルなどは無く、散らばっていたガラス片なども綺麗に片付いていた。

ほのかがデジカメを持ってくると、俺は写真を確認しながら、床に座りホカ弁を食べる。


「うん。細かく撮れているな。明日の帰りにでもバタフライに持って行って申請してくるよ。それと、三人ともまだ眠くないか?」

「ほのかは大丈夫だよー」

「母さんも!」

「ワシはちょっと……眠いのじゃ……」


 ルスカはフォークで唐揚げを突き刺したまま、舟を漕いでいた。

ほのかには、ルスカを寝かしつける役目を与えて、ホカ弁を食べ終えた俺は母さんを連れて、近くのコンビニへ段ボールを貰いに行く。


 コンビニでも割れたガラス窓を塞ぐために、必要な分もあるだろうに、快く分けてもらえて、俺と母さんは礼を言う。


「兄妹で大変だね。頑張って」


 店員のおばちゃんにそう言われて、母さんは帰り道終始にこやかだった。


「珍しいな。母さんが俺と兄妹に間違えられて嬉しそうなんて」

「だって、あーちゃんのお姉ちゃんに間違えられたら、ねぇ?」

「いや、多分妹だと思われてるぞ」


 いつものことなのだが、母さんは俺より年下に見られると落ち込む。

以前、何故そこまで俺より歳上に見られたいか聞いた答えが「女子大生に見られたい」と、よくわからない答えが返ってきた。


「ん?」


 家まであと少しという場所で街灯の柱にもたれている男性と目が合う。


「よう!」

「木場さん……またですか?」


 俺は母さんに先に家に戻るように伝えると、母さんは木場と呼んだ男性に丁寧に頭を下げて、アパートへと戻っていった。


「俺はお断りしたよな?」

「まぁまぁ。そろそろバタフライにも嫌気がさしてきた頃かなって?」


 黒いスーツを身にまとい、細身の身体にフレームの無い丸メガネと知的でスマートな格好をした木場がずれたメガネを指で直し、優しく話しかけてくる。

ただ、台詞は相変わらずと言ってもいい。

何かいつも俺を見ているような嫌な言い回しだ。


「あんたには感謝しているけど、仲間にはならないよ」

「相変わらずつれない態度だねぇ」


 俺は度々この人から仲間にならないかと勧誘されている。

俺自身、この人には感謝してはいるが、不信なことも多々あり、幾度となく断ってきた。

この木場は真封使い。それもかなり強い。

しかし、バタフライに所属しているわけではなく、別の“ブラッドジェネシス”という組織の人間だ。


 “ブラッドジェネシス”は、いわば、はぐれ者の集まりでバタフライを辞めた者や、バタフライを批判的な者が集まって組織された。


 つまりバタフライの正式名称、“対ワーム対魔物対真封対策協会”の対真封は、この人の組織“ブラッドジェネシス”の連中をさしている。


「俺は何度来られても犯罪組織になんか入る気はない」


 木場の目付きが一瞬だけ変わるが、すぐに優しい目付きに戻る。


「犯罪組織って……まぁそう言われてはいるけど。違うのは田代くんが知っているとは思うけど」

「わかってるさ。あんた達は至極真っ当だ。問題はあんた達の組織を抜けた連中だってことも」


 俺は犯罪組織とは言ったが、それはただの比喩。

“ブラッドジェネシス”は、協会とは別にワームや魔物から人々を守っている。

しかし、そこははぐれ者の集まり。

中には“ブラッドジェネシス”に不満を持ち、更に抜ける者もいる。


 その抜けた奴らが犯罪を犯し、協会がブラッドジェネシスの一員だと説明する。

それによってブラッドジェネシス=犯罪組織としてイメージが着いた。


「大体、何で俺なんだよ。“羽”は第四世代の“蠅”、使える真封はリリースサポートの“癒体疲滅”のみ。勧誘してくる理由がわからん」


 それじゃ、と話を一方的に終わらせ家へと戻ろうとするが、木場に腕を掴まれる。


「まぁまぁ。昨日のワーム出現からおかしなことになっているって気づいているだろ?」


 気づいている、バタフライが急襲部隊と公表しておきながら、実際は支援部隊が戦っていたり、ゴブリンの大量発生もタイミングがおかしい。


「さぁ?」


 俺は誤魔化して去ろうとするが、腕を離そうとしない。

木場は見た目に比べて力が強い。


「相変わらずだねぇ。まぁいいや。無理矢理誘っても意味ないし」


 結構強引だと俺は思うが、ようやく腕を解放された。


「そうそう。田代くんは、エボル教──うわっ、今露骨に嫌な顔をしたね」


 思わず顔に出してしまった。平常心を持つクールな大人を目指していると以前三田村やほのかに話をしたら、二人ともに「手遅れ」と言われた事を思い出した。


「で、エボル教が何?」

「うん。一時沈静化していたけど、ここに来てまた活発になりだしたから気をつけて」


 エボル教。宗教団体で、その信義は“真封を使える我らこそ、神から進化を許された選ばれた者だ”だ。

言い換えれば、真封を使えないお前らは、ただの雑魚だから大人しく従えと。


 実に馬鹿らしい。しかしその実態は、信者はバタフライにも、学園の教師や生徒の中にもいると言われていた。


 以前ブラッドジェネシスと揉めて、その実態や信義がニュースに取り上げられ一般人を中心に叩かれて、大人しくしていたはずなのに。


「忠告は受け取っておくよ、木場さん。ありがとう」

「うーん、素直な、田代くんは気持ち悪いねぇ」


 殴ってやろうかと木場のネクタイを掴み、腕を振り上げると、俺は踵で木場の爪先を踏みつけた。


「じゃあな」


 声にならない声を上げ、爪先を押さえながら飛び跳ねている木場をよそ目に俺は逃げるように家へと戻っていった。


「やっと、戻ってきた」


 暗い家の中、母さんのスマホの灯りを頼りに、ほのかが俺を出迎えた。


「なんで、こんなに真っ暗なんだ?」

「シー! ルスカちゃん寝てるから……」


 暗い寝室を目を凝らして覗くと母さんの布団ですやすやと寝息を立てているルスカが。

なんで母さんの布団でって思ったが、そういえば順番をほのかとルスカで決めてたなと思い出す。


「ほのかは眠くないか?」

「うん!」

「それじゃ、割れた窓とかを段ボールで塞ぐから手伝ってくれ」


「はーい」と元気のいい返事をすると、俺は段ボールを抱えて一旦外に出ると、ガムテープを取ってきたほのかが、俺に渡してきた。


「ありがとう、ほのか。そういや、母さんは、どこに行ったんだ?」

「あーちゃーん! ここ、ここ!」


 頭の上から声が聞こえて見上げると、アパートの二階の廊下に母さんがいて手を振っていた。


「円山さんが、テレビくれるってぇ」

「なにっ!? すぐ行く!」


 鉄で出来た階段を、俺のスリッパが甲高い音を鳴らす。


「いいんですか? テレビなんて」

「余っていてね。処分するのにもお金がかかるし。持っていって」


 うちの真上に住まう円山ご夫婦にお礼を言って、俺はテレビを家に運び入れる。

今までの十七インチだったテレビが三十二インチに。


「合わねぇな」

「テレビ台小さいからかな? よし、円山さんに聞いてくる」


 「やめろ! 恥ずかしい」と、家を出ようとした母さんの首根っこを捕まえて、制止する。


「ほら。窓を段ボールで塞ぐよ」


 母さんを連れて、ほのかと窓を段ボールで塞ぎ終えると、俺達は今日の疲れからかすぐに眠りについた。


 翌朝、いつもより起きる時間が遅く俺は重大なことに気づく。


 冷蔵庫が食い荒らされて、空っぽだったのだ。

ほのかのお弁当は途中パンでも買えばいいが、問題はルスカだ。

一人で留守番になる上にお昼を用意している暇がない。


「どうするかな……」

「あーちゃん。今電話して、遅れる連絡入れたから、母さんがほのかが帰ってくるまでいるよ」


 今日は母さんに甘える事にしよう。俺は急ぎ準備を終えると、ほのかと登校する。


「ほのか、今日帰ってもどこも行くなよ? 昨日いた三田村ってお姉さんの家に行くからな」

「はーい。じゃあ、行ってきまーす」


 小学校の校門前で、ほのかと別れると俺は急ぎ走り出す。少し寝坊したので、時間はギリギリだ。


 真封学園の校門前に到着すると、校門前には灰色のローブを羽織りビラを配る連中が。


(エボル教……)


「良かったら話を聞きに来ませんかー」


 ニコニコと笑顔で二十代くらいの女性がビラを押し付ける。

その嘘臭い笑顔の仮面に苛立ちつつ断るが、更にグイグイ押し付けてくる。


「いらん!」と一喝して断り校門をくぐると、背後から舌打ちが聞こえてきた。


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