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その十二 極秘事項

 俺達が到着するまで母さんは、あれだけの数のゴブリンに一人立ち向かい、自分達を守ってくれていたと聞かされた。

母さんは何度も感謝を述べられて、照れているようだ。


 いつもなら騒動終了後、すぐに開店するこのスーパーも店内は散らかり損害も酷く今回ばかりは無理だという。

他の店員は残って後片付けをするみたいで、母さんも一緒にやろうとするのだが「今日はいいよ」と店長らしい男性や他の店員からも言われて、俺達と一緒に帰宅することに。


「な、なんじゃこりゃ~」


 傾いた玄関扉を開くと家の中は荒らされており、窓ガラスは割れて外からは丸見え、脚が折れたテーブルと椅子に、テレビも画面が割れており、布団はぐちゃぐちゃ──は、いつもか。

何より俺が許せなかったのは、冷蔵庫。

すっからかん。何も無い。あるのは、薬味とかソースとかだけ。


「こ、今月の出費が……」


 修理費や追加の食費と、予定外な出費に床に伏せ嘆く俺を、ほのかとルスカが頭を撫でて慰めてくれる。


「あー、やっと戻ってきたー、って泣いてる!?」


 割れた窓ガラスから家の中を覗きこむ三田村と馬渕。

二人は、もう安全だとバタフライの一人から聞いて、一時避難していたアパートの住人達と戻ってきたという。

途中で助けた女の子も、親が見つかり無事に返したと三田村から聞き、俺はホッと胸を撫で下ろした。


「それで、どうして田代くんは泣いているんだい?」


 二人を家の中に招き入れて現状を見せて、出費の痛さに涙が止まらないと説明すると、馬渕から朗報がもたらされた。


「あれ、でもこの場合、写真を撮ってバタフライに説明すれば、お金が出るはずだよ」

「本当か!? 馬渕さん!! よし、ほのかカメラ持ってこい!!」

「らじゃー」


 箪笥の中からデジカメを持ってきたほのかに、事細かに写真を撮るように言うと、俺は撮り終えた場所を後片付けしようとする。


「ちょっと、田代くん。それどころじゃないと思うんだが」

 

 馬渕に言われ俺は、大切な事を思い出す。

それは約束。

ほのかとの約束だ。

初ブラジャーを買ってやるという。

しかし、お金が足りない。バタフライから出ると言っても後日のはずだ。


 そんな悩み頭を抱える俺の目の前に天使がいた。


「み、三田村さん……ぶ」

「ぶ?」

「ブラジャーくれ」


 顔を真っ赤にした三田村から渇いた音のするビンタを貰いリビングから寝室の布団へとダイブする。


「な、な、何言ってるのよ、いきなり!?」

「ち、違う! 誤解だから! 使わなくなったブラジャーをくれって」


 更に追加のビンタを頂いた俺は、ほのかの事情を三田村に話し誤解を解こうとするのだが、今度は、ほのかからのビンタを頂く。


「お、お、お兄ちゃん! 他の男の人の前で言わないで!」


 再び寝室からリビングへと俺は戻ってくることに。

母さんの血を引いているだけあり、いいビンタだ。

立ち上がるが、顎にヒットしたらしく足にきている。


 改めて、ほのかの事をこっそりと三田村に話し、昔使っていたブラジャーをほのかにとお願いする。

快く引き受けてくれたものの、学園に持ってきて欲しいと頼んだら、ほのかを家に連れてきてくれたら渡すという。

学園に持ってきた方が手間がかからないでいいのにな、と俺は思った。


「いや、田代くん。そうじゃなくて学園に戻らないと。多分かなり怒られると思うけど」


 俺は血の気の引く音を生まれて初めて聞こえた気がした。

忘れていた、すっかり。

怒られるのは覚悟している。

しかし、気がかりなのは俺について来た、この二人のことだ。


「ほのか、写真しっかり頼む。母さんは、気をつけながらガラスの破片の片付けを。ルスカは母さんの指示で手伝ってくれ」

「「「らじゃー」」」


 やるべき事を話をし、相変わらず息の揃った三人は、各々取りかかり始めた。


 俺は後を母さんに頼んで、三田村と馬渕と一緒に学園へと戻ることに。


「三田村さん、馬渕さん。ごめん!」


 学園に戻る途中、俺は二人に頭を下げる。

学園を勝手に飛び出した俺達は、怒られるのはもちろんのこと停学、下手をしたら退学もあり得る。


 二人に迷惑をかけたと今さらながら、反省し謝罪する。

せめて、俺一人で負えるなら、そのつもりだと。


 しかし、馬渕と三田村は逆に怒り出す。

自分達は、自分の意思でついて来たのだと。

それにチームなのだから、連帯責任は当然だとも。

俺は二人に再び頭を下げた。

今度はありがとうの意味を込めて。

この事で二人が怒ることはなかった。


 学園に着いた俺達は、早速指導室に呼ばれると、そこには来栖先生と真鍋先生(なべちゃん)が、そして何故か“対ワーム対策協会、通称バタフライ”の若い短髪の男性が。

まずは、勝手なことをしたことを怒られる。

そして、飛び出した理由を、何故かバタフライの男性が聞いてきた。


 俺は特に隠すつもりはなく堂々と家族のためだと話すと、バタフライの男性は見るからに不機嫌な表情に変わる。


「ちっ! これだから学生は」


 続いて、処罰に関してだが、特にお咎め無しという。

再び何故かバタフライの男性が、反対する。


「何故ですか! ここは真封()()学園。将来バタフライを担う者を育てる場所! 誰もが勝手な事をしたら大変なことになる。この三人には厳罰をもってあたるべきです」


 反論してくる理由はわからない。

だが男性の指摘は至極まともに聞こえたのだけれども、更に来栖先生は反論したのだった。


「馬渕。この報告に間違いはないな?」

「はい、間違いないです」

「宮原さん。この男子生徒の報告では倒したゴブリンの数、それに助けた人の数、ともにバタフライが上げた成果に負けず劣らずだ。

それに馬渕は見ていないようだが、更に倒したゴブリンの数、それに助けた数は更に増えるという。

あくまで結果論だが、それでも今回バタフライの起こした事に比べれば……」

「わ、わかった! もういい!!」


 宮原と呼ばれた男は踵を返し、勢いよく扉を開けて部屋を出ていく。

協会の人達は、あんなのばかりなのかと残念に思えた。


「お前達も、もういいぞ」

「「「失礼します」」」


 俺達三人は、深々とお辞儀をして指導室を出ていく。


 扉を閉めると安堵して大きく息を吐いた。


「良かったぁ、退学にならないで」

「しかし馬渕さん。いつの間に報告なんか」

「ああ、それかい? 君たちがブラジャーのことでイチャイチャしている間に、真鍋先生に電話でね」

「どうして、なべちゃんの番号知っているんですか!?」

「ほら、僕はクラス委員だろ? 何かと便利なんだよ。あ、誤解しないでくれ。プライベートの番号なんて知らないから」


 それでも真鍋先生(なべちゃん)のファンは悶絶ものだろうな。

あの先生、童顔でウチの母さんと負けず劣らずの見た目だけど、胸も無いし益々子供っぽい。

それでもというか、それだからというか、男女共に慕われている。


「あとで、ちゃんとした報告を上げないとね。もちろんリーダーの田代くんが」

「うへぇ、面倒だな」


 教室に置き忘れた鞄を取りに戻ると、既に帰宅したのか人っ子一人居ない。

外は既に太陽は沈み、オレンジ色の夕闇が黒く染まり始めていた。


 俺達は各々の机で教科書を鞄にしまいながら雑談していたのだが、三田村が思い出したように尋ねてくる。


「ところで、田代くん。あのルスカちゃんて何者なの?」


 三田村の質問は至極当然で、いつかは聞いてくるのだろうなとは思っていた。

初めは隠そうと思っていたのだが、ほのかもルスカも二人が居なかったら助けられなかったかもしれない。

俺は、二人に極秘事項として口外しないように何度も念を押してから、ルスカの事を話した。


「異世界に、三百歳……ねぇ」


 馬渕と三田村はお互い顔を見合せ困った表情をしていた。

一概には信じられないのだろう。

俺も正直今でも疑問に思ったりもする。


「大事な事なので改めて聞くけど、あの子は真封使いではないんだね?」


 馬渕は報告義務違反を心配しているみたいだが、少なくともルスカの魔法は、俺達とは違う。


「真封使いじゃないけど、魔法使いだな。“羽”の有無は確認していないが、俺達みたいに使用時に輝いたりしてしないから、恐らくは……」

「魔法使いと真封使い。ややこしいなぁ……」


 椅子の背もたれを前に向け足を開いて座っている三田村が、眉を八の字にして眉間に皺を寄せる。


(ったく、見えるぞ。その格好だと)と俺は三田村から視線を外す。


「全くだ、誰が“真封”とか言い出したんだろ」と俺は三田村の方を見ないまま同意した。


「取り敢えずは、ルスカちゃんの件は田代くんに任せよう。

騒ぎたてても信じてもらえるかも分からないしね。

さて、そろそろ帰ろうか。

僕は寮だからいいけど、田代くんは三田村さんを送ってやりなよ」

「え? い、いいよ。田代くんの家より遠いから大丈夫だよ」


 三田村はそうは言うが、夜道を女の子一人にするわけにはいかない。

俺が送ると言い続けると、三田村は「じゃあ……お願いします」と折れてくれた。

馬渕とは校門で別れ、二人きりで帰路に着く。

ちょっとしつこく言いすぎたのか、三田村は、終始俯き加減で目を合わそうとしない。


 いつもなら、こっちが引くくらいグイグイと話かける三田村が大人しいのは珍しい。

長い沈黙に耐えられなくなった俺から三田村に話しかける。


「あー、送って行くって、ちょっとしつこく言い過ぎたか。ごめん」

「え、そんなことないよ。こちらこそ送ってくれてありがと」


 街灯に照らされた夜道を並んで歩く三田村は、はにかんだ笑顔を見せくれた。


 三田村の家の最寄り駅まで送ってきたが、三田村が「すぐ、そこだから」と言い、俺に向けて頭を下げると、走り去ってしまった。

お読み頂きありがとうございます。

次話は21日になります。


良ければブクマや感想など応援よろしくお願いします


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