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第百十四話 異変



 セバスチャンからエリスの居場所を聞き出した明乃は、階下で戦っていた光助とトムに合流することを選んだ。


「須崎さん!」

「ん!? どうして降りてきたんだ!?」

「姫殿下は下です! 上まで引き入れて一網打尽にする作戦なんでしょう!」

「えー!? じゃあボクら通り過ぎてたってことですか!?」

「そうなりますね」


 廊下を挟んで射撃戦を繰り広げつつ、光助とトムは同時にため息を吐く。

 二人とも今後の展開が予想できたからだ。


「つまり……」

「下からどんどん新手が来るってことだな」


 潜入した時点では城の警備はそこまで厳重ではなかった。

 城が堅牢ゆえ、中の人間を絞っているかと考えていたが、上まで登らせてから殲滅するつもりなら城の外から時間をおいて兵士がやってくる。

 このままいけば城の中で袋のネズミにされてしまう。


「どうします?」

「正直、どう動いても碌な目には合わないな。下にいっても上下で挟まれるし、留まっても上下で挟まれる」

「突破しますか?」


 明乃の言葉に光助は首を横に振る。

 突破はできなくはないが、脱出に支障をきたす可能性があるからだ。


「強硬突破をしたとしても時間がかかる。今大事なのは時間だ」

「でも今の内に数を減らしておけば脱出のとき楽ですよ?」


 喋りながらトムは廊下の向こう側にいた兵士を一人射抜く。

 そんなトムに負けまいと、光助も負傷した兵士を助けようとした兵士の足を射抜く。こうやって二人は負傷者を増やし続けて多数の敵を足止めしているのだ。


「脱出のときのことは考えなくていい。どうせ姫殿下を助けたあとなら好きに暴れられる。斗真がな」

「あー、なるほど」

「一番まずいのは斗真と敵の棟梁の決着がついたあとに、姫殿下がまだ敵の手にあることだ。人質に取られたら状況は悪化する。その前にさっさと救出しておかないといけない」

「そうなると……だれかが先行して救出したほうがいいですね」

「そのとおり。んで、見ての通り俺たちは手が離せない。ミコトも無理だろうから、明乃。お前がバレないように下までいって救出してこい」


 買い物にいってこいくらいのノリで言われた明乃は、頬を引きつらせる。

 城の中には兵士で溢れており、この階はもちろん、下にもミコトが相手をしている兵士たちが大量にいることだろう。

 その兵士たちに見つからないように移動するのは並大抵のことではない。


「私、須崎さんみたいに幻術使えないんですが……」

「幻術なんて必要ないだろ。窓から出て、壁を伝っておりていけ」

「簡単そうに言わないでください……」

「そんな難しくないだろ。縮地使えるんだし、お前」

「ここじゃ無理です。魔力が乱れてて……」

「無理でもやれ。俺やトムだと最後の場面での突破力に欠けるし、ミコトじゃバレずにいくのは無理だ。お前がやるしかない」


 ぐうの音も出ない正論を言われ、明乃はこれ以上の反論をやめた。

 この場で一番こういう場面での実戦経験があるのは光助である。普段からは想像がつかないが、光助は特殊部隊の一員だ。

 そんな光助が言う以上、それが適材適所なのである。

 しかし。


「まぁ安心しろ。危なくなったら俺が華麗に助けてやるさ」

「……」


 自分がカッコイイ場面で登場したいという下心があるのではと、明乃は内心では思いつつも口には出さない。

 言ってること自体はまともだということと、そんなことを問い詰めている時間もないからだ。


「じゃあここはお願いします」

「任されましたー」

「行ってこい」


 窓を開けた明乃はそこから外に出る。

 強風が髪を揺らす。

 いつも通りに動けるならば、そこまで難しい移動ではない。

 城のあちこちにある出っ張りを足場に降りていくだけだ。しかし、今はいつもどおりには動けない。

 たとえ魔力で体を保護していてもこの高さから落ちれば命が危うい。

 その可能性を考えながらも、明乃は気持ちを落ち着かせて下に向かって降り始めた。


「ふぅ……」


 窓から斜め下の出っ張りに飛び移り、そこを足場にして一つ下の階にあるバルコニーに着地する。

 そのまま似たようなルートでどんどん下へと降りていくと、ある階で怒声が聞こえてきた。


「ええい! 早く突破しろ!」

「む、無理です! あの少女、一つしかない階段に陣取っているんですから!」

「くそっ! 本来なら我々が使うはずの地の利を使われるとは!」


 本来なら侵入してきた敵を想定して、守りやすいように階段を一つだけにしておいたのだろう。

 それをミコトに利用され、兵士たちは上に行けないのだ。


「どんどんかかってこーい!」

「おのれ! 舐めおって! はやくその小娘を突破しろ!」

「おりゃー!」

「うわぁぁぁ!!??」


 二本の魔剣を振り回したミコトによって、階段を上がろうとした兵士たちは押し戻される。

 階段を制圧されている以上、一度に攻められる数は決まってしまう。個人の武勇のみで数を抑え込まれてしまうのだ。


「くそっ! 変な服装の小娘にこれ以上馬鹿にされるな!」

「変な服装って言うな! そっちの傭兵さんが斬っちゃったんだよ!」


 ミコトの服はあちこちに切れ目が入っていた。

 健康的な白い肌が垣間見えているが、どれもこれも際どい部分に切れ目が入っているため、傍目にはかなり変な服装になっていた。

 どうしてそんな服になったかといえば、ミコトと対峙した傭兵が服ばかりを狙ってきたからだ。正確にいえば肌も斬ろうとしていたのだが、ミコトが超反応ですべて避けてしまったため、ミコトからすれば服だけを斬ってくる変な奴にしか思えなかったのだ。

 ミコトとしても恥ずかしいという思いはあったが、ここで恥ずかしがっては駄目だと自分に言い聞かせて戦っていた。


「もう怒った! 絶対に通さないから!」

「調子に乗るな!」


 こうして階段の攻防は再開される。

 ミコトが元気そうなことに安心した明乃は、そのまままた下へと向かう。

 少々苦労しつつ、一階までたどり着いた明乃は城の正門から侵入し、肖像画の前を護衛していた兵士たちを一撃で昏倒させる。

 そこで明乃は異変に気付く。

 なぜか昏倒させた兵士の近くで、別の兵士たちが血を流して倒れていたのだ。


「仲間割れ……!?」


 この場でそれが起きる理由は一つ。

 エリスだ。

 急いで明乃は肖像画に駆け寄る。

 その瞬間、明乃の傍で轟音が響く。同時に爆風によって明乃は吹き飛ばされたのだった。 


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