第百十二話 破滅の魔剣
昨日は投稿休んですみません。具合悪すぎて寝込んでました。
引き抜かれた剣は柄や装飾が金で出来た流麗な剣だった。
鮮やかで煌びやか。
美しく、そして力強い。
その刃は銀で出来ており、その刀身は鋭いうえに妖しい輝きを放っている。
間違いなく最上級の魔剣か聖剣。
人が扱える武器の中では最高ランクのモノをグロスモント侯爵は手にしているということだ。
「わかるぞ……この剣の名が……素晴らしい。これが〝ティルフィング〟か」
「……呪いの魔剣か。それをお前に渡したのは黄昏の邪団だな? その剣の伝承を知っているのか?」
「もちろん知っている。地球に伝わる魔剣だ。あらゆる物質を布の様に引き裂き、錆びも刃毀れもせず、狙った相手は外さない魔力を持つ伝説の剣 。この俺に相応しい剣だ」
「肝心な部分が抜けてるな。一度抜けば誰かを殺さないと鞘には戻らず、三度願いを叶えるがそれが終わると持ち主に死の運命を与える。俺なら絶対に召喚しない破滅の剣だ。俺が勝っても損害を与えられるし、お前が勝っても死の運命がお前を襲う。奴らの考えそうなことだ」
「ふん、所詮は幻想の剣。一度使えば消滅するのだから、呪いも俺には影響を与えん」
「幻想の剣を甘く見るな。幻想とは人の願いだ。人がこうあってほしい、こうあるべきだという願いによって幻想は成立する。強い剣を召喚すればするほど、メリットもデメリットも再現されてしまう。お前は間違いなく破滅するぞ。しかもお前の周りの人物すら巻き込んでな」
「そのようなことにはならんさ。どうした? お前も抜け。それともこの場では得意の召喚は使えないか?」
グロスモント侯爵に挑発され、俺は柄に手をかける。
ただの召喚術はこの場では成功しない。魔力の乱れは召喚には致命的だからだ。
しかし、俺の夢幻解放は鞘の中で完結する。魔力の乱れなど関係なく、鞘の中に存在する魔力を使い、刃を召喚するから場所に左右されることはない。
もっとも、召喚したあとはいつもどおりとはいかないだろうな。魔力が乱れる以上、限界時間は大幅に縮む。
せっかく溜めている魔力をこんなところで使うのはあまりにもったいない。グロスモント侯爵はあくまで利用されているだけであり、裏にいる黄昏の邪団が本命だからだ。
だが、相手も幻想の剣を出してきた。しかも持ち主だけじゃなく、周囲にも影響を及ぼす性質の悪い剣だ。
止める方法は一つだけ。
あの剣をへし折るしかない。
意を決して俺は詠唱を始めた。
「その刃は幻想である――」
壊れてしまえば呪いも発揮されない。
ただ、あのレベルの剣をへし折れる刃を俺が召喚できるかどうか。
確実に折るなら天羽々斬が欲しいところだが、あれは魔王の魔力を吸収したときと、二年間溜め続けた魔力を使ったときしか召喚できていない。
支部を壊して回って魔力を溜めたが、あのときには及ばない。よくて同格の剣しか呼べないだろうな。
「人は願い、願いは希望に、希望は力へ――」
ぶっちゃけた話をすれば、グロスモント侯爵だけなら死んでも構わない。しかし、ティルフィングは持ち主の周りの者すら死を振りまく。その場合、エリスにもそれが向くかもしれない。
それだけは避けたい。だからなんとしてもへし折らなきゃいけない。
「果てなき希望の終着点。人の希望は天を超え、大地を割る――」
たとえ同格の剣だったとしても、俺のほうが使い手としては上。
やり方次第でへし折るチャンスはいくらでもある。
「今ここに我は人の大いなる希望を顕現せん――」
俺のせいでエリスは攫われた。
だからこそ、俺の手で取り返す。
掠り傷だって負わせるもんか。
「その刃は夢幻の海より現れた――夢幻解放」
引き抜くと同時にかつてエクスカリバーを召喚したときと同じ現象が起きた。
刃の力の大きさに鞘と柄が塗りつぶされたのだ。
この場がケルディアであること、そして支部を破壊して回る過程でケルディアの魔法を多数吸収したこと。
加えて目の前にティルフィングがあることも要因の一つだろう。
引き抜いた剣は青白い刀身を持つ西洋剣だった。
その装飾の見事さはティルフィングにも劣らない。
清冽な雰囲気を発するその剣は、神によって造られた魔剣。
その名は〝グラム〟。
かつて大英雄が振るった魔剣にしてドラゴンスレイヤーの一つ。
「大した魔力だ……それだけの剣を召喚できる男だ。たしかに魔王を倒したのも納得できるな」
「そう思うなら剣を捨てろ。今、ここでその剣を折ればまだ間に合うかもしれない」
「それはできんな。そんなことをするくらいなら反乱など起こしたりはしない。俺はすべてを捨てる覚悟でここに立っている。侮らないでもらおうか、無刃の剣士よ!」
グロスモント侯爵は瞬時に俺との間合いを詰めてくる。
横薙ぎの斬撃を受け取ると、その衝撃で部屋のあちこちにひびが入る。
このレベルの剣を室内で使うのはやはり無理があるか。
どこにいるのかわからないエリスはもちろん、城の中では明乃たちもいる。
「とりあえず外に出ろ!」
ティルフィングを受け止めつつ、俺はグロスモント侯爵を蹴りで吹き飛ばす。
吹き飛ばされたグロスモント侯爵は硝子の窓を割って外へと放り出された。
しかし、グロスモント侯爵はくるりと回転すると空中で立ってみせた。
さすがに最高位の魔剣だけあって、空中戦もお手の物か。
俺も同様に城の外へ出ると宙に浮く。
互いに同じ高さまでくると、グロスモント侯爵は愉快そうに笑い始めた。
「ふ、ふっふっふ!! はっはっはっは!! 素晴らしい力だな! サトウ!」
「そうか? 何かを斬ることしかできない力だぞ?」
「それで何人も救ってきたのだろ? 素晴らしい! これだ! 俺に足りなかったのはこの世界を救う力だ!」
「世界を救う力ねぇ……」
あって困る力じゃない。
この力があったから幾度も戦ってこれた。多くの人を救えた。
だが、グロスモント侯爵が調子に乗るほど万能な力でもない。
たった一人、守りたい女も守れなかった。
そんな力を手に入れて、狂喜しているグロスモント侯爵が俺にはひどく哀れに見えた。
俺に比べたら多くの才能を持っているだろうに、こんな力を欲しがるなんてな。
俺は戦闘でしか人を救えないが、グロスモント侯爵はより幅広い場面で人を救える力を持っている。そっちのほうが何倍も評価されることだろうに。
「俺にはわからんよ。グロスモント侯爵。あんたの考えていることが」
「わからんだろうさ。お前にはわからんだろう。わかってたまるものか!」
そう言ってグロスモントはティルフィングに魔力を集め、斬撃を飛ばしてくる。
俺はそれをグラムで斬り裂き、グロスモント侯爵を睨む。
「最後の警告だ。その剣を折らせろ。お前だけじゃなく、周りにまで呪いをまき散らすものだぞ、それは」
「最後の警告とは笑わせる。勝った気でいるのか? 俺の手にはお前と同じ幻想の剣があるんだぞ! たとえお前が相手でも負けはしない!」
「そうか……じゃあお前ごと叩き切るまでだ」
一瞬で俺はグロスモント侯爵の上に移動すると、そのまま力いっぱいグラムを振り下ろす。
咄嗟にティルフィングでガードされるが、それはおりこみ済みだ。
全力でそのティルフィングを折りにいくが、その前にグロスモント侯爵が力負けして地面に叩きつけられた。
「さすがに硬いな。おい、グロスモント。早々にダウンするなよ。その面倒な剣を処分するまでは立っていろ」
ティルフィングの呪いは基本的に持ち主の死がトリガーとなる。
ティルフィングを放置してグロスモント侯爵を殺した場合、呪いが発動して何が起きるかわからない。
だからさっさと死なれては困るのだ。
「……舐めるな!!」
グロスモント侯爵は勢いよく宙に上がってくると、多様な剣術を見せる。
良い腕だ。しかしそれはあくまで普通の剣術。
俺たちが手に持っているのは幻想の剣。
最高ランクの武器にして、俺たちの体にもブーストがかかっている。
体に染みついた普通の剣術は今の俺たちの体からすれば枷でしかない。
なにせ本来なら絶対にできない速度で俺たちは動くことができるからだ。
「年季が違うんだよ、年季が」
後ろに回り込み、またティルフィングに一撃を加える。
しかしグロスモント侯爵が吹き飛ばされるだけで、ティルフィングにはヒビひとつ入らない。
「まったく……これは骨が折れそうだ」
そう呟くと俺はさらなる攻撃を仕掛けるために吹き飛んだグロスモント侯爵の下まで縮地で移動したのだった。




