青春って呼んでいいのかな
タイムリープが無事成功したところでそれを根拠にするわけにもいかず、先行研究もなく、じゃあ修論はどう書けばいいのか、そんなふうにまた悩んでいる。というか量子物理学なんていう学問を選んだこと自体が失敗だったのか。講義棟の中の割と広めの教室に1人、後ろの窓から夕陽が差し込む。ここしか大学内に空き教室がなかったから。隣には、昨日、本屋で見つけてきた「かぐや姫」という絵本。過去を少しだけ変えてきたけれど、こんな美しい、童話が1つ生まれることになったなんて。私も少しは文学に関われたみたい。というか、こんなことなら最初から文転して文学部にいればよかった。こんな難しい量子物理学なんてそもそも最初から……なんて思っていたら、教室に入るドアが開いた。
「ここは空いてるかな」
そう言って入ってきたのは、二つ縛りで髪がピンク、緑のメガネをしてクリクリの目に青のカラコン、私と同級生のレイ。そして彼女は、文学部。噂をすれば、というやつなのか。
「……レイ」
そしてレイはその目を丸くする。
「あ! かぐや! なにしてんの? わあ久しぶり! どこも開いてなくてさあ、修論書きたいのに、ねえねえ、それで私ね、最近新しい小説書いたんだよ」
ふう、ふふ、と笑顔が溢れてしまった。
「へえ、みせてよ」
ダダダと走って私の前の席に来て、振り返りながら目をキラキラさせて、A4の紙5枚くらいの紙を渡してくる。
「あのね、たくさんのプリンセス達がね下克上していくなんていう話でね……」
読んでいて、ふふっと笑ってしまった。確信犯の白雪姫に、暗殺者ジュリエット、爆弾魔のラプンツェル、そして私が過去を変えてできた童話のかぐや姫の美談じゃないやつ、ちゃんと私の心の中もバレてるし、どれもこれも、このビビッドなファッションの彼女の心の中に秘められたイラつきと負けず嫌いな精神がまさに爆弾魔のようにぶつけられていて、流石に面白い。
「どう? ねえ、どう? かぐや」
「ふふ、ははは、おもろい、いやおもろいよレイ。面白くて泣いちゃう」
「ほんと? ねえほんと? やったー!」
立ち上がってぴょんぴょん飛び跳ねるレイ。
「レイ、よかったら一緒に修論進めようよ」
「わあ! いいねえ! かぐや! かぐや大好き!」
「はいはいありがと、私も大好きだよ」
「ねえ、かぐやそれ本気で言ってる? 本気で言ってるなら、私実は彼氏が……」
「わー知ってるそういう意味じゃなーいの修論やるよほらパソコン開けてもう」
「ふぁーい……」
……
「おーい、誰かいるのかー? しめるよー」
「……ん」
顔を上げると、懐中電灯を持った警備員の人が話しかけている。パソコンを開いている私。そして隣にレイ。レイはぐっすり寝ている。ぽんぽんと肩を叩いて起こす。
「はーい今出まーす」
その私の声でレイは起きたみたい。
私たちは一緒に修論を書きながら寝てしまっていたみたい。
講義棟を出て星空の下、レイと笑い合いながら帰るこの日々も、青春って呼んでいいのかな。




