第1話 痛み80%、歓喜20%
俺はいつもの大通りに立った。
交通量がそこそこあり、車がいいスピードを出している道。何台かの乗用車をやり過ごしながら、俺は静かに待った。
遠くから、デカい五トントラックが近づいてくるのが見えた。
心臓がバクバクと鳴り始めた。
手のひらにじっとりと汗が浮き、足がわずかに震える。
でも俺は歯を食いしばった。
深く息を吸い込んで——
「いくぞおおおおおお——!!」
トラックが目の前まで迫った瞬間、俺は全力で飛び出した。
(……死ぬ直前に走馬灯が見えるって話、完全なデマだったな)
次の瞬間。
ドンッ!!
体が文字通り粉砕されるような、凄まじい衝撃が全身を貫いた。
骨が砕け、内臓が潰れるような激痛が一瞬で脳を焼いた。
「うわああああああああああああっ!!!」
喉が裂けるほど叫んだ。
痛みは全体の80%。
残り20%は紛れもない——歓喜だった。
……なんでこんなことになったのかって?
まず俺の名前は秋葉原玄斗笑われるのを承知でつけられた名前だけど、俺はわりと気に入っている。秋葉原のオタク一家に生まれた時点で、これはもう運命みたいなものだと思ってる。
普通の高校一年生男子……なんて言えたらどんなにいいか。でも正直、俺は普通とは程遠い存在だ。
重度のオタク。コミュ力は底辺。顔も期待値ゼロ。こんなスペックなら、普通ならいじめ確定ルートまっしぐらのはずだ。
なのに俺はいじめられてない。
クラス全員からは「あのオタク」扱いで完全無視されているけど、掃除用具入れに詰められたり、金を巻き上げられたりする面倒な被害は一切ない。
理由は簡単だ。
入学早々、俺をナメて絡んできた不良風の奴に、カッターナイフをチラつかせて「二度と近づくなよ」と目で殺意を伝えただけ。それで十分だった。
その一件は、金持ちの親父のおかげで綺麗に揉み消された。親父はただ「またか……」とため息をついただけだった。
……正直、それが少しつまらなかった。
金があるのは確かに便利だ。でも全部が味気ない。予測可能な毎日、予測可能な人間関係、予測可能な退屈な人生。
俺が本当に欲しかったのは、そんなんじゃない。
ライトノベルみたいな、派手で予測不能な展開。
トラックに轢かれて異世界転生——あの最強のクリシェ。
美少女ハーレムに囲まれ、チート級の力で無双する主人公のような人生。
そんなものを、たった一度でいいから味わってみたかった。
だから俺は決めた。
死んで、異世界に転生しよう。
頭がおかしいと思うか?
俺にとっては、めちゃくちゃ理にかなった選択だった。
仮に転生できなくても、『トラックに轢かれて死ぬ』という伝説のクリシェを自分で再現できる。それだけでも十分に価値がある。
やっとだ……!
異世界に行くぞ——!!
意識が急速に薄れていく。
視界が真っ白に染まり、体がふわっと浮遊するような感覚に包まれた。
これから新しい世界で、新しい人生が始まる。
主人公として。
美少女たちに囲まれて。
オタクの全知識をぶちかまして最強になって—




