第26話 にちようび
「ちょ、ナナー!そんなに走ったら危ないよー!」
...あんなに風を斬って走って...。実際昨日、料理中に小指ぶつけたばっかりだし...。
「追い...ついた...!!」
ナナの両脇を掴み、持ち上げる。
「わー!つかまったー!!」
ナナは空中で、両目をバッテンにして、足をバタバタさせる。...ちょ、暴れないで!?
そして。ようやく静かな朝が戻ってきた。
ミナが朝食を作っている間、ナナとテレビを見る。
だが、外の工事の音で何も聞こえない。
続いて...ギギ...ガガガ...の天気...ガシャーン!す...ウィーン!
「...窓閉めようか...。ってなんで全開なの!?」
道理でうるさい訳だ。ナナは、いたずらっぽく笑った。
「かんきってやつ!やってみた!」
少し誇らしげな顔だ。...いやいやいや...。って蜂いるし!?
窓のすぐ側の草むら。大きな蜂がブーンと、不快な羽音を発しながら飛んでいた。
「ミナ助けてー!!」
私は持っていたリモコンを投げ捨てる。それを、ナナが驚きつつもキャッチし、その目の前を私がすごいスピードで横切る。料理中のミナの所へ。
「わわ、サナ、どうした!?」
焦げたトーストの匂いが広がっていたが、そんなのはどうでも良かった。
「蜂が、蜂がー!!」
そして、リビングに目をやる。...すると。
ナナが無表情で、窓を閉めていた。
「あー良かったぁ...。ナナ、ナイス!」
と思ったのも束の間。ブーン。
先程の不快な羽音が、今度は部屋の中に響く。
「ちょ、中入ってきてる!?ナナ、窓開けて!」
「え、さっきしめろって...」
ナナは、またキョトンとしている。そして。羽音が止む。
「ってナナ!!腕!腕ー!!」
ナナの腕に、蜂が止まっていた。
そして、隣から笑い声。...ってミナ!?何笑ってんの!?
「HAは虫に刺されないから、大丈夫だよ」
笑いながら言った。...あぁ...なら...じゃなくて!?
「私が大丈夫じゃないんだよ!?」
ナナは、再び窓を開ける。だが、蜂は中々出ていかない。そして、重機の音が再び部屋に響く。
蜂の羽音と、テレビの音と、重機の音と、ミナが卵を焼く音と、私の大きな声。...こんなに賑やかな朝、久しぶりだな...。
そして。その賑やかで騒がしかった朝はすぐに終わり、あっという間に昼だ。特にやることも無い。私はただひたすら、リビングのソファに横になっていた。
そして。気付くと眠りについていた。
...あれ?私、何してたっけ...?って、なんか空赤くない...!?
窓が開いていた。カラスと、ヒグラシの鳴き声。...え!?
そして、キッチンの方からは焼けた肉の匂いと、味噌汁の匂いが微かに香る。
「え、待って待って待って!?ユウ、今何時!?」
「18時です」
...。自然と、口角が上がる。
「ユウ、今何時?」
「18時半です。」
「ユウ、今何時?」
「18時半です。」
何度も聞いても、同じことしか言わない...。
「サナ、何やってんの?」
ミナがキッチンの方から、笑いながら声をかけてきた。
「おはよう、朝だよ〜」
声のトーンをやけに高くして、バカにしたような表情で、私を煽った。
「嘘つけぇい!って私どれくらい寝てた!?」
「うーん、7時間くらいかな!」
...ヤバいやっちゃったぁ...。今日の夜眠れないやつやん...。
鉛となった体を、ゆっくり起こそうとする。
その瞬間。私とは対照的に、廊下から軽快に走る音。
そして。ばぁん!勢いよく扉が開く。
「さなおっはよー!」
大きくて、無邪気な声。そして、目の前には空中に浮いているナナ。...え?ちょっと待って。嫌な予感が...。
「ぐえっ!?」
内臓が殴られたかのような衝撃が走る。...また、ナナに飛び乗られた。デジャブを感じる...。
「もーナナってば...!」
私は少し笑いながら、ナナを見る。
...そういえば。ナナがうちに来てから、本当に毎日が楽しいな...。でもこの日常も、3ヶ月だけ...か...。こんなに元気で可愛くて天使みたいな子が、あと3ヶ月で壊れるってこと...。
それを改めて実感して、胸の奥をナイフで刺されるような感覚を覚えた。




