第44話「命令か、想いか」
街の中心。再生した神社の前。小夜は祠の掃除を終え、白露と水月と共に神域を巡回していた。静かな風が社の旗を揺らす。
「……小夜、そろそろ戻るのか?」白露が低く声を潜める。
「うん、もう大丈夫。水月も安定してるし」小夜は微笑みながら頷く。
その瞬間。背筋に、冷たい気配が走った。
「……火乃香」小夜は言葉を落とす。
街に踏み入った火乃香は、整った衣装に身を包み、神社勢力の印を胸に掲げていた。表情は硬く、個人の感情ではなく任務を帯びた“巫女”の顔だった。
「小夜、話がある。個人的なものではない。命令だ」火乃香の声は凛と冷たく響く。
小夜は一瞬、手を止めた。
「命令……?」心の奥で、不意に小さな緊張が芽生える。
「国の指示だ。あなたの活動は、管理外になっている。これ以上の拡張は許されない」火乃香の言葉は真っ直ぐで、揺るがない。
水月が小夜の前に立つ。
「……彼女に何も強制する権利はない」低く、水月が唸るように言った。
白露も身を固め、警戒の眼を火乃香に向ける。
「……でも、そうはさせないわ。小夜が望む限り」
小夜は、二人の間で静かに息を吸った。命令として来ている相手に、正面から対峙する。
「火乃香……あなたは任務として来たのね。でも、私は私のやり方で、この街を守る」小夜の声は揺れない。
火乃香の瞳がわずかに揺れる。任務の中で、確実に小夜の力の異常さを理解している。だが、彼女の任務は命令であり、個人的感情を挟む余地はない。
「……わかっている。でも、命令だ。止めるべきだと」
その瞬間、小夜の背後で水月の神域がさざめく。神格の力が新たな境地に達し、街の空気までもがほんのり光を帯びる。小夜の言葉はただの意志ではなく、神と共にある“現実”の力だった。
火乃香は一歩、足を止める。命令と現実の力の差。
小夜は振り返らず、静かに祈るように言った。
「私は、この街と人を守る。そして、神様と妖も……」
火乃香の顔が硬直した。任務か、理解か。感情を押し殺した目が、微かに揺れる。
「……これは、まだ、始まりに過ぎないのね」火乃香の呟きは、次への伏線として空に消えた。
小夜は振り返らず、神域の光に手を差し伸べる。水月は静かに微笑む。白露は一歩後ろで、警戒を緩めない。
街に差し込む夕日。小夜の胸に、新たな決意が静かに満ちていった——
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