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追放された巫女ですが、神と妖に愛されて辺境を再生します  作者: KATARIBE


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第10話 満ちる力と、新たな役目

 人の流れが増えたことで、水守の社には“目に見えない変化”が起き始めていた。

 それは静かで、けれど確かなものだった。

 朝の空気が、以前より澄んでいる。

 水の音が、わずかに深く、豊かになっている。

 そして何より――

「……あたたかい」

 小夜は、そっと手を握った。

 指先まで、しっかりと熱が通っている。

 あの冷えは、もうほとんど残っていなかった。

『当然だよ』

 水月の声が、どこか楽しげに響く。

『信仰が増えれば、僕も強くなる。強くなれば、流れも整う』

「流れ……」

『そしてその中心にいるのが、小夜。つまり――』

 少し間を置いて、くすりと笑う気配。

『君も、強くなってるってこと』

 小夜はその言葉に、ゆっくりと息を呑んだ。

 自分が、強くなっている。

 その実感はまだ薄い。

 けれど――

 確かに、何かが変わっている。

 そのときだった。

 足元の水が、ふわりと揺れた。

「……え?」

 驚いて視線を落とす。

 本来なら、ただ流れているだけの水。

 だが今は――

 意志を持つように、小夜の足元で静かに巡っている。

『ああ、それ』

 水月が軽く言う。

『もうできるはずだよ。やってみて』

「やるって……何を」

『“整える”んだよ』

 その言葉は、不思議とすんなりと胸に落ちた。

 小夜は、ゆっくりと目を閉じる。

 意識を、水へと向ける。

 流れを感じる。

 乱れ。

 滞り。

 そして、巡り。

 ――分かる。

「……こう、ですか」

 そっと手をかざす。

 すると、水が静かに動いた。

 地面へ、広がるように染みていく。

 乾いていた土へと、均等に行き渡っていく。

 まるで最初から“そうあるべき”だったかのように。

「……っ」

 小夜は目を見開いた。

「できた……」

『うん、“水の調律”』

 水月が静かに言う。

『流れを整えて、必要な場所に必要なだけ巡らせる力』

 それは派手ではない。

 だが――

 極めて実用的だった。

 その力はすぐに、村の中で活かされることになる。

 数日後。

「巫女さま、本当にいいんですか」

 畑の前で、村人が不安そうに言う。

「はい。少し、試してみますね」

 小夜は穏やかに頷いた。

 以前よりも迷いがない。

 土は乾いている。

 水を運ぶには距離があり、手間もかかる。

 だが――

 小夜は静かに手をかざした。

 意識を巡らせる。

 水の流れを、辿る。

 井戸から、地の中へ。

 見えない水脈へ。

 そして――

「……行き渡って」

 小さく、言葉が落ちる。

 次の瞬間。

 土の色が、ゆっくりと変わった。

 乾いていた表面が、均一に潤っていく。

「……え」

「うそだろ……」

 村人たちが息を呑む。

 無理なく、無駄なく、必要な分だけ。

 水が巡っている。

「これで、しばらくは大丈夫です」

 小夜は静かに言った。

 その声には、はっきりとした自信が宿っていた。

 ざわめきが広がる。

「すごい……」

「こんなことが……」

 その光景は、瞬く間に噂となった。

 水守の社の巫女は、水を操る。

 いや、“恵みを与える”。

 その認識は、より強い信仰へと変わっていく。

 訪れる人は、さらに増えた。

 供え物も、祈りも、確かに増えている。

 その流れの中で――

「……やりすぎだ」

 低い声が、背後から落ちた。

 振り向かなくても分かる。

「迅さん」

 小夜は静かに振り返る。

 いつの間にか、そこに立っている。

「負担はないのか」

 鋭い視線。

 だがその奥には、わずかな警戒と――気遣いがあった。

「……大丈夫です」

 小夜は少しだけ考えてから、答える。

「前よりも、ずっと楽で」

「楽、か」

 迅は小さく繰り返す。

 そして、社の空気を見渡す。

 人の気配。

 満ちた流れ。

 整った気配。

「……確かに、前とは違うな」

 その言葉は、認めている響きだった。

 だが――

「それでも、力の無理な使い方だけはするな」

 静かに釘を刺す。

「はい」

 小夜は素直に頷く。

「分かっています」

 その返答に、迅は一瞬だけ目を細めた。

 以前よりも、理解が早い。

 そして――

 「……ならいい」

 短く言う。

 そのまま、ふっと気配が薄れる。

 だが完全には去らない。

 見えない場所から、見ている。

 そんな距離だった。

『いいね』

 水月の声が、どこか満足そうに響く。

『ちゃんと“回ってる”』

 人の想い。

 水の流れ。

 力の循環。

 すべてが、ひとつに繋がっている。

 水守の社は今、ただの拠り所ではない。

 恵みを生み、広げていく場所へと変わり始めていた。

 そしてその中心にいる小夜もまた――

 確かに、変わっていた。

 あたたかさとともに。

 自信とともに。

 新たな役目を、その身に宿しながら。

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