第3話「降り立つ巨影」1
フェリシアは、やっとの思いで飛行型の怪物を退け、
鈍い音のなった方を振り返った。
そこには、肩を負傷し血を流しながらもアレンを守るように立つルークの姿があった。
「ルーク……!」
フェリシアは、疲弊した重い足を必死に動かしフラフラとルークの下へと駆け寄り、再三の再会を果たす。
「フェリシアも……無事で、よかった……。」
フェリシアは、途切れ途切れに返ってくる返事と、
汗がにじみ顔色が悪く見えるルークに違和感を覚える。
再開できたからといい、糠喜びできるような状況ではなかった。
アレンの死こそ免れたものの、
依然として、怪物達に包囲されている現状は変わらない。
ルークは右肩を押さえながら、近寄ってくる怪物たちに攻撃するが、
右肩の痛みと利き手じゃない事が影響し、うまく攻撃を当てられない。
それでも、なんとか怪物に攻撃を当てるために、無闇矢鱈と剣を振り回す。
数十分のまるで牽制をし合うような両者間の戦闘は、突然の終わりを迎える。
力を得たとはいえ、生身の人間であることにかわりのないルークは、その痛みに耐えることについに限界を迎え、
剣を地面に落とし蹲ってしまう。
「ルーク!」
フェリシアはルークの肩にそっと触れると液体の様な、それでいて妙に温かい。
どこか既視感のある感触を手に覚え確認すると、
手のひらが真っ赤に染まっていた。
「――ッ! そんな……。 ルーク!!」
「大、丈夫……。 これくらい……」
ルークの声はどんどん弱々しくなっていく。
「ごめん、ね。 こんな状況だけど……。 少しだけ、休、憩させ――」
出血は止まることを知らず、
肩から流れ続け血溜まりが地面にできていた。
ルークはそのままうつ伏せに伸び切ってしまう。
「ルーク!!」
フェリシアはルークの体を揺さぶりながら、口に手を当てる。
しかし、言葉を言い終わる前に閉じたルークの口からは息は感じられず、
今度は背中に耳を当て、
心臓の動きを確認する。
ルークの心臓の動きも微弱、もうほとんど動いていない。
「そんな……」
フェリシアはルークの体に触れながら、目を潤ませる。
「嫌だ……! 嫌だよ! ルーク! ルークってば!」
必死に体を揺さぶりながらルークの名前を呼び続けるも返事はない。
「起きて……! 起きてよ……」
フェリシアの声は段々と小さくなっていき、
嗚咽のほうが強く聞こえるようになってきた。
その様子を、アレンは朦朧とする意識のなか見ていた。
「――ルー、ク……」
力無く倒れるルークと、泣きながらルークを呼ぶフェリシアを横目に、
(私は何をしている……! まだ子供である彼らに、ここまでの思いをさせておきながら……、私は!!)
心の中で自分に強く叱責すると、
力の抜けた足にぐっと力を込め、震えながら立ち上がる。
――その時。
兵士達の声が聞こえなくなっていることに気がついた。
自分達のことに集中しすぎるがあまり、
周りの状況に注意を配る余裕がなかったとはいえ、
今の今まで気が付かなかったことに驚きを隠せなかった。
正門の先、
怪物たちの隙間から遠目に見えるのは、炎と煙に包まれた、崩れ去った商業区。
そして、兵士達は愚か、怪物の姿さえも誰一人として確認できない、凄惨な情景。
アレンの焦点は徐々にぐらついていく。
周囲はぼやけ、音も籠もって聞こえる。
「そんな――、まさか……。」
「いつ、だ……。 いつ、終わっていた……?!」
後ろを振り返るも、
フェリシアは泣きながら息をしていないルークにしがみついており、完全にそれ以外が見えていない。
(――すまない、ルーク。 私のせいで……)
アレンは、歯を食いしばり覚悟を決めると、
胸の中に嫌なざわめきを覚えながらも、
剣地面に突き刺し体重をかけながら、震える足を無理やり立たせた。
いつの間にか、空には暗雲が立ち込めており、
ゴロゴロと雷の音が胸に重く鳴り響く。
アレンは剣を抜き、踏ん張りながら怪物達に向ける。
すると怪物達は、少しずつ後ろへと後退し始める。
翼を展開し飛び去っていくものまで現れ始めた。
「――どういうことだ……?」
急な怪物達の様子の変化に戸惑いながらも、
剣を振るい、わけも分からないままルークとフェリシアに近寄らないようにけん制する。
「どうした怪物ども! 今さら怖気づいたか!」
「ならば、私の剣の前に散れ! 私が兵士達の……、ルークの仇を今――ッ!!」
剣を構え、声高らかに叫びながら、振りかざそうとしたその瞬間、
「「グオォォォォォォ!!!」」
けたたましい咆哮がまるで地面に打ち付けるように轟く。
地面はその衝撃で揺れ始める。
さすがのフェリシアもルークを庇いながらその衝撃に耐えていた。
永遠と思えるほどの長さの咆哮が終わった直後、
空から巨大な影が物凄い勢いで降ってくるのが見える。
アレンはそれを見ていると、周りの怪物達は、焦るように後退する速度を速めていく。
その影は一瞬にして地面に爆発音のような音とともに着地すると、
衝撃で砂ぼこりが舞い上がり、地面には亀裂が入り地形が変形したりしていた。
「くっ――!」
アレンとその後ろのフェリシアは、目に砂がはいらないように手で防ぎながら、
その煙の先にいるものを睨みつける。
煙の奥でゆらゆらと動くその影がゆっくりと、
地面に足をしっかりとつけながらその巨体を持ち上げる。
煙は晴れ、その全貌が明らかになったとき、
アレンとフェリシアは言葉を出すことはできなかった。
ただ唖然と見上げるのみ。
ただ見上げるだけでは、その全貌をしっかりと確認できず、アレンは少し後ずさりながら恐怖を目に焼き付けていた。




