後半
キャシーは聖女だ。
平凡な農村の少女だったが、最近めっちゃ調子いいなーてかうちの畑植えるはしから実ってない?やばない?と思ってたらなんか偉そうな人(偉かった)が来て聖女にされた。
ええー面倒と思ったが、長いものにまかれるたちなので素直に従った。もともと長女だからと家を手伝ったり弟妹の世話をすることも、言われるまま通常の手伝いの範囲を超えて、しかしうちはそんなもんと言われればそうかーとなっていた。素直だった。
そもそも他に選択肢もなかったし、ぶっちゃけ力を自覚した時点で何があろうと大丈夫と開き直ってもいた。死なない。聖女パワーは無敵だ。
だから神殿にひっぱりこまれあーだこーだ聖女教育やらマナーやら詰め込まれてもはいはい従った。
貴族は平民とは違うのです〜高貴なものには重い責任が〜とかいう話もへーそうなんだすげーと思っていた。素直なのだ。
とはいえ、周りの神官や貴族たち、特に王子を見ているとほんとか?と思ったりもしたのだがーーー……
マデリーンの存在には、驚いた。
馬鹿王子と婚約させられている上、何一つ報われたようすもないのにただひたすら責務を果たしている。
ナルホドこれが貴族か〜すげえ〜…
キャシーは感心した。貴族やっぱすごいんだーとなった。
いつかゆっくり話してみたいと思っていたが、叶わぬうちに更なる衝撃があった。
「マデリーン様を罪人として処刑する!?」
そんでからキャシーが王子と結婚!?あのあほと!?
さすがのキャシーもそれを伝える高官に詰め寄った。なぜマデリーンがそんな目に!?あと私も!
「マデリーン様もご承知の上です。聖女を国母とし安定させるため、ただの婚約解消ではなく罪を負って消えることこそマデリーン様の望み。国を支える為、その身を捧げることこそ、貴族の誇りなのですから」
マデリーンが聞けば憤死するようなど嘘であったが、キャシーは素直に信じて衝撃を受けた。
そ、そこまで…!!
貴族はそこまでするというの…!!
するわけがないのだがキャシーは信じた。
なんで普通に婚約解消じゃいかんのかという理屈もよくわからなかったが、素直なキャシーはかねてより、よくわかんねー貴族様にはよくわかんねー貴族様のルールがあると教えられていた為、さすが貴族よくわかんねーなと納得したのだ。
まさかあれだけ綺麗事ぬかす皆様が結託してどす汚い行いをするなど思いもよらず、「村の堤防に穴が空いてるのを見つけて咄嗟に自身の体をねじこんで村を救ったおじい」よりすごい…!!!と感銘を受けていた。素直なのだった。あほともいえる。
だからマデリーンの思いに答える為にも、聖女として、一目で間抜けとわかる始終へらへらべたべたしてうっとおしい王子との結婚にも耐え、聖女として国母として国を支えようと決意した。
決意したキャシーだったが、しかし結局、マデリーンとは一度もきちんと話せていない。
最後に一目でもと牢に赴き、閉じ込められたマデリーンの有様にキャシーはまたも衝撃をうけた。
貴人牢などでなく、薄汚い地下牢で倒れ込んでいるマデリーンは、美しかった髪はザンバラに切られ、拷問を受けた体はあちこち傷だらけで痛々しい。
なぜ、ここまで……!!ここまでしなければいけないの……!!?
断髪も拷問も、自身を国の礎とするためのマデリーンきっての願いとは聞いていたが、なぜそこまで…!とキャシーにはわからなかった。多分誰にもわからない。嘘だし。
キャシーは村の伝説にある「旱魃の折自ら池に身を投げて雨を乞うたという少女」の話を思い出していた。
思えば農村の少女ですらそれなのだ。いわんや貴族においてをや。
貴族の誇り、凄まじい……!
キャシーはぐっと涙をこらえ、マデリーンの想いを受け止める覚悟をした。それでもせめて……
ぽろり、一粒。
「お友達に、なりたかった……」
溢した言葉に、マデリーンは、熱い瞳で見返してくれた。
思いは同じ……!!と、キャシーはその瞳を万感の思いを持って受け止め、うなづいた。心が通じ、真の友情を感じ幸福であった。
全ては勘違いなのだった。
そしてマデリーンが処刑されーーーーーー………
時が戻った。
………。
………………………。
やべーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!
キャシーは頭を抱えた。農村で。
やらかした!キャシーはわかっていた。あの時の思いが祈りとなり時戻りの魔法になったのだ。聖女パワーである。神に届いてしまったのだ。
なんてこったなんてこったとキャシーは後悔した。マデリーンのあの苦痛を、あの覚悟を踏み躙り、台無しにしてしまった!!
自身の聖女パワーによる時戻りのため、前回ではただの少女だったこの時もキャシーは既に力がある。
パワーによる遠見でマデリーンを確認して愕然とした。
マデリーンが発狂している!!
やべー!!!やべー!やべー!だよねびっくりしたよねただでさえあんな目あってんのにごめんなさいごめんなさいごめんなさいすいません!!!!
キャシーはわたわたした。感情の乱れるあまりその一帯を豪雨が襲うほどだった。
そうだ、早く治してあげよう!と、聖女パワーで遠隔治療をしようとして……
いやまてよ?
治してしまえばマデリーンは再び、身を投げて国に尽くすだろう。
自分のポカで二度も彼女にそんな苦痛を……
マデリーンの矜持を踏み躙ることになるかもしれないが、それはさすがにキャシーが嫌だった。
自分のワガママで申し訳ないが、マデリーンは一度は全てを捧げたのだ。二度とあんな目にあってほしくない……!!
というわけで治療はせず、マデリーンは修道院へ。キャシーは聖女に。そして二人は再会しーーー……
マデリーンが爆発して時が戻った。
キャシーは畑に佇みぽかんとした。
え、なんで?
えー今回こそお友達になれると思ったのにー
首を傾げながらも、あっ嬉しすぎて魔力暴走しちゃったのかな?わかるーと結論づけ、またの再会を楽しみにしているうち暗殺者に襲われた。
えっなんで??
てかなにこれ??
聖女なので殺されず、暗殺者を捉えたもののキャシーは混乱した。そいつが言うには雇い主はマデリーンだという。
なんでー!!?
あーでも貴族とかって殺し殺されよくあるっていうしこういう遊びなのかなあ。
首を傾げたが、わからないなら聞いてみよう。
キャシーは暗殺者の記憶を消して放逐し、土塊を自身の姿に変えて死を装い王都へ向かった。
マデリーンは貴族だから知らないかもしれないが、殺し合う遊びはあんましよくないよ。命だいじ!と教えてあげようと考えた。ちょっとお姉さん気分でわくわくした。
そしてマデリーンの居室をそっと覗き込んだキャシーはまたも愕然とした。
部屋中に聖女抹殺!!!絶殺!!天誅!!!などと書かれた紙が貼られていたからだ。
他にも色々な悪口やキャシーと思しき少女を拷問する絵などが貼られている。
ど、どゆことーー!?
キャシーは混乱した。え、なに?なにこれなに?
これって村の運動会で絶対勝つぞ!とか見敵必殺とかノボリに書くようなもん?
さすがに激しくない?貴族ってそんな感じ?貴族だしな〜うーん…
納得しかけたが、ふいにこれまでの経験かがマデリーンの心に影響しているのではと心配になった。あまりに辛い経験が心に闇をおとしたのでは?
正解だが間違っている。しかしこの考えが、ついにキャシーを真実へと導いた。
マデリーンの心を読んだのだ。
聖女なのでそれができる。他者の尊厳を守る為、これまで誰にも使わなかったのだ。その力を行使した。
そして知った。
知ってしまった。
どちゃくそ嫌われてる〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
なんでなんでなんで!!!あの時牢屋で熱い友情を誓ったじゃん!えっくそほどブチ切れてたの!!?なんで!!?お友達発言に憤死!!??
えーーーなんでーーー!!貴族の誇りは??えっ嘘!!??ただの冤罪!?嵌められた!!??いやまってあたし王子すきとかないし略奪する気も全然ないし!!側近!?誰!!!えーーーーーーー!!!!!なにーーーーーーーーーーー!!!!!!???????
キャシーは騙されていたとはいえあまりの勘違いに羞恥のあまり天高く飛び上がりむやみやたらと飛び回った。
なんでなんでなんで!!!えーー嘘でしょ騙されてたの貴族もふつーなのあたし勘違いしてたのあたしあたしあたし…………
馬鹿じゃん!!!!!!!!!
キャシーは虚脱した。
信じていたものは失われた。はじめから存在しなった。
いやまあそうだよね……そう……。そっかー……。
騙されてた!?嘘でしょ!?と勢いで、かつて教えを受けた神官や貴族、王族の心も読みに読みまくったキャシーは、彼らが農民と別に変わらない事を知った。どす汚さもまあ農村にもあるし高貴な彼らとてまともなのもいる。
というかなんならキャシーを騙した神官やら高官も、キャシーとて分かった上で話にのっていると思っていた模様。どっちでもよかったともいえる。そうかー……
クソ女と思われていたのか……
消沈したキャシーは森の奥で暮らした。
ちなみに聖女パワーで国を守ってはいる。というかパッシブスキルなので存在するだけで守護豊穣が確約なのだ。
そんなふうに誰にも会わず静かに過ごすうち、キャシーは今更ながら、マデリーンとちゃんと話したいなーと思った。
キャシーも勘違いしていたが、マデリーンも色々誤解している。なんだかなー。うちらのせいじゃなくない?基本国の奴らがわるくない?
その辺わかってくれたら仲良くできないかなあー。ていうか……
友達にならないと時戻り終わんないしなあー……
キャシーは知っていた。不意の発動とはいえ自身の力による時戻りなのだ。マデリーンと友達になりたいと願い、時戻りが始まった。よって、友達になるまで終わらないのだ。どちらかが死ねばその周は終わる。
キャシーは悩み、しかしあの状態のマデリーンではどうしようもないなー、何周かすれば落ち着くだろうし、それまではマデリーンのことを知ろうかな。
というわけでキャシーは姿を変えてマデリーンに近づくことにした。
それからは色々あった。
毎回毎回マデリーンは開幕早々キャシーを殺しにかかるし、まだだめかーと、その度死を装って姿を消した。
土塊人形のキャシーが拷問されたり娼館に売られたりすることもあった。その様子もキャシーにはわかるので、うへーめっちゃ嫌われてんな!とがっかりした。
また、姿を変えてマデリーンの友人になったり仲間になったり部下になったりなんなら夫になったりした。
自由に生きるぞ!と決めたらしいマデリーンは、それでもやはり根本的に真面目で責任感が強く、どちらかといえば善人だった。真面目さと責任感の強さはいかれていて、突拍子もないところも大いにあったが、それがキャシーは好きだった。
初めの時も、勘違いとはいえなんやこいつすげえとマデリーンのありようには驚いたし、勘違いの分を引いてもやっぱ変だと今でも思う。
毎回今度は何をするんだろうと面白く、キャシーは毎回マデリーンのそばにいた。
肩を組んで笑ったり、泣いたり怒ったり楽しかったが、偽りの姿では真の友達とは見なされないのか、時戻りが終わることはなく、少し悔しい思いもした。
そのうちにマデリーンが王子攻略をはじめ、憎しみを抑えようと四苦八苦する姿にはらはらしつつ期待した。
いけるか?いけるか…!!?
そしてついに再び聖女として王宮へ向かいマデリーンに相対しーーーー………
やっぱだめか〜〜〜!!!!!!
畑で一人キャシーはがっかりした。しかもこの回からまたマデリーンが殺しにかかってきたのでんもう〜!!だった。
しかし会う度友達になろうと言っているのだ。気づいてくれないかな〜〜。まあそのうちそのうち……
そしてまた周回。常にキャシーはマデリーンのそばにあり、なんなら両親や王子になりかわって接しているときもあった(その時の彼らは記憶を消して放逐し、次回開始時に矛盾しない適当な記憶を追加している。聖女パワーである)
まあ彼女は面白くてあきないし、気長に待つかと思っていたら、国民総時戻りが始まった。
もうなんか笑ってしまった。
なんでそう斜め上にいくのかな〜!!!
それからも色々とあり、人類皆時戻りになったりしつつ、ひたすらキャシーはマデリーンのそばにいた。
友人であり仲間であり父であり母であり夫でありつつ、常に。
キャシーはわかっている。
本当なら、キャシーのままでいるべきだと。
殺しにかかられたとしても、逃げずに立ち向かい、話し合うべきだ。鎮静魔法をかけむりやり話をすることもできる。マデリーンは強力だが、キャシーのほうがはるかに強い。
何十週も根気よくやれば、相互理解のとっかかりくらいにはなるはずだ。
だけどキャシーは、どんどんマデリーンが好きになってしまっていた。
キャシーはもともと感情の強いほうではない。
家族も村のみんなも大事だが、なんなら人類全て、好きではないが王子たちもそうだった。聖女なので。
特別なのはマデリーンだけだ。
思えば村では家の手伝いで忙しく、親の言いつけを守りすぎるいい子だったので、友人と遊ぶこともなかった。
それを辛いと思うこともなかったが、はじめての大好きな友達(片思いだが)と、この遊びをするのがやめられない。
偽りの姿ですごし、マデリーンの友情も愛情も、真にキャシーに向けられたものでないのは寂しかったが、バレた時にどんだけ怒るかと思うとそれもまた楽しみだ。
いつか気づいてくれたら、いつかちゃんと話せたら、いつかーーー……
ちゃんとケンカして、お友達になりたいな!!
キャシーはそう、願っている。
あとまあなんか貴族も王族も口で偉そうなこといいながら好き勝手やってたし今となってはマデリーンもフリーダムだからあたしもちょっとくらいいいんじゃね!!?
だからーーー……
王子の姿でキャシーは言う。
「も〜!!これはやく終わらせろよな〜!!」
「できるならやってるわ!」
そして今も、キャシーはマデリーンのそばにいるのだった。
♡完♡
お読み頂きありがとうございました!!!(^人^)