13,ここはシュウマツ放送局
他の誰でもなく、自分のために俺はディレクターになった。
それに、社長から機会を貰って話し手になった。
何年もかけて、自分の後悔と向き合って、有芽のいない事実を受け入れようとした。
少しずつ少しずつ、回を重ねると思うところがあった。
すっきりしたような、やれることをやっているような充実感があった。
けれど、これで良いのか、何か違うような、もやもやした気持ちもあった。
本当に、今日は良い節目になったと思う。
今まで良い機会も無かったから話さなかったけれど、ずっと抱えていた幼馴染の話が出来た。
本来、ディレクターが番組の趣旨や方向性を実際に話して伝えるのは、出しゃばりすぎと言われるかもしれない。
でも、俺には、そして俺のこの番組には必要だった気がする。
「そうか」
「翔さん? どうかしました?」
思わず呟いたら、悠に聞かれてしまった。
いや、大丈夫。なんでもないよ、と言いながら、俺は思った。
今までは、後悔がテーマだったんだな、と。
俺は有芽のことを想いながら、謝っていた。でも、これからは――。
「ねえ、悠」
「はい?」
悠にはメールを読んで泣いてしまったときに幼馴染の名前が有芽だと伝えた。
「これからは命日に、有芽の好きな曲を――有芽が天国で聞いて楽しめるような放送をしようと思うんだけど」
「すごく良いと思います!!」
食い気味に言われて、俺は笑ってしまった。
SAKURAの”たんぽぽ”を聴いたとき、アーティスト名も曲名も花の名前だと悠は言った。
有芽も同じことを言っていた。
だから、かな。今日は少しだけ悠と有芽が重なって見える。
そんな悠に食い気味に肯定されたら、頑張るしかない。
「ははっ」
「な、なんで笑うんですか!?」
いや、と言いながら俺たちはスタジオを片付けて事務所に戻る。来週の打ち合わせを軽くして、今日の仕事はおしまいだ。
悠は打ち合わせを終えて、先に帰った。俺は事務仕事をささっと片付けてから、最後に会社を出る。
戸締りをして、ショッピングモールの外に出て星空を見上げた。
後悔するのは、謝るのは今日で終わりにしよう。俺はこれからもずっとディレクターだ。
だから、これから先は、楽しめる放送を目指そう。
有芽が楽しむだろうな、と思いながら。
一人のリスナーを具体的にイメージするのは番組作りに結構役立ったりするものだ。
新人の頃、背中を押してくれたのと同じ偉大なディレクターの先輩に言われたアドバイスを思い出す。
俺は”迷わないで、探さないで”の、最後の歌詞を思い出した。
迷わないで、探さないで。夢は心の中にあるよ。
私は前を向いて進むよ。大丈夫だから、きっと。
「心の中にある。前を向いて進む。大丈夫だから」
決意表明のように、俺は小さく呟いて、帰路についた。
星も月も、輝いて。
有芽が昇っただろう天は、今夜も輝いていた。
これはとある、週末の。
終末に通りかかった少女と、
その幼馴染が務める放送局の物語。