はじまり
そうだな、どこから話せばいいだろうか。
俺の名前は、『片桐ユウト』。どこにでもいる普通の16歳男子だ。
あえてちょっと普通じゃないところを挙げるなら、少しばかりお金持ちの家に生まれて、家にメイドがいることだろうか。
生まれも育ちもここ、『誓和国』。平和で自然豊かな極東の小さな島国だ。
穏やかすぎるこの国には、ひとつだけ穏やかではないルールがある。
そのとち狂ったルールというのは…
【16の男女、旅に出るべし】
…なんでやねんって感じですよね。
一応補足すると、全員16歳になったら旅に出ろ!という強制ルールではなくあくまで任意。そう、任意のはずなのだ。
そもそも、なぜ旅に出なければ行けないのか?という話なんだが、まあざっくり言えば『女神様の加護』のためだそうだ。
現在、女神期2000年。女神様がこの世界を守り始めるようになってから2000年ということだ。
魔王が創造せしモンスター達から世界を守る結界、それが女神様からの加護のひとつだ。
魔王と女神様の戦いは2000年前に決着がついているものの、モンスターの残党がこの世界にはまだ存在していて、そいつらを倒すことで女神様の結界を強めるパワーになるそうだ。
そのモンスターの残党を倒す役目にあるのが全世界の16歳の少年少女達、ということだ。
話を戻すが、別に強制ではないのだ。
16歳になる子供たちに与えられる選択肢は3つ。
1つは旅に出ること。これは今までの話の流れでわかることだろう。
2つ目は神子として神殿に仕えること。これは素質のある女子の選択肢であり、男の俺には関係のない話だ。
そして、最後の3つ目は旅には出ず学問に励むこと。普通に学生として過ごすということだ。
しかし、大半の人間は旅に出ることを選ぶ。
旅に出ることを選ぶメリットが山ほどあるせいだ。
そのため、平和ボケしたこの国は16になった男女に旅に出ることを推奨しているし反対する大人もいないのだ。
そんなこんなで16歳である俺も流れには逆らえず旅に出ることになってしまった。
旅に出ることがすでに厄介だというのに自分にはもう1つ厄介な事情が重なっている。
「はぁ…」
ガタゴトと不規則に揺れ続ける馬車の中で、俺のため息は大きく響いた。
俺のため息に隣に座る厄介が口を開く。
「ユウト様ったら…そんなに大きなため息をついてどうしたのですか?」
声の主は、上品に手を口に添えながら微笑む。
神秘的な妖精を連想させる澄んだ声、腰まで伸びる透き通る銀髪、誰が見ても美しさを認めるであろう目の前の女性こそ俺が厄介認定する存在であるメイドだ。
冒頭に説明した通り、俺の家には10歳の時からこの女がメイドとして共に暮らしてきた。
名は、『早苗柱 アカネ』。18歳。
年齢は2つしか離れていないはずなのに何をやらせても優秀であり、特に魔法を使わせれば右に出る者はいないと思っている。
普通に見れば強力な助太刀なのだが性格に難がある。あとすごい過保護。
今も馬車に乗っているだけなのに手を握られている。
「あのさあ、アカネさん…」
「うふふ、なんですかユウト様?」
眩しい笑顔である。
「…なぜ手を握られているのでしょうか」
「あら、そんなの見せつけるためじゃないですか」
頬を赤らめつつも、握られた手を見ながら堂々と言ってくる。
「じゃあ…その…」
俺は握られていない方の彼女の手を指さす。
「…なんだか禍々しい色をしてる球体の魔法はなんでしょうか」
キョトンとした顔の後、
「そんなの決まってるじゃないですか」
女は眩しい笑顔で答える。
「近づく女に格の差を見せつけるためですよ!」
非常に眩しい笑顔である。
そして、非常に女に厳しい過保護である。




