植生
ギムに礼を言って工房を出ると、再び中央広場に出てから農地に向かった。
放射路はその両端に石が積まれ、城塞に向かって徐々に高くなっていった。
城塞の門扉の内と外には衛兵が立って、人の出入りを厳重に管理していた。
プレートメイルの威圧感は、それだけで効果がありそうだった。
城塞までに幾つもの橋があり、その大半が川のない丘橋だった。丘橋の下は明らかに人工的に深く掘られ、他の都市では見たことの無い地形だった。
私は先程見たアーチを思い出していた。
(これは門を破られた後に橋を落とすのか)
先代ランス伯の時代のものだろう。
攻め入った先でことごとく橋を落とされ、その度に消耗させられれば退却せざるを得ない。
この街を訪れた時にここを通っているのだが、その時には気付きもしなかった。そして、こうして意識をして周らなければ、大麻草のみならず麻の類すら生えていないことも気付くことは出来なかった。
石畳の隙間からはディコンドラが葉を覗かせ、道端や川辺にはクリーピングタイムやクラピアが地面を覆っていた。
全て背の低い、だが繁殖力が旺盛な植物だ。
「これは発芽する余地が無いな」
あまりの徹底ぶりに思わず苦笑した。
過去の痛みは過剰なまでの、徹底した排除をこの街に施したのだ。
私はしゃがみ込んで、道端のクリーピングタイムを撫でるように触れた。
ハーブ特有の香りが鼻腔をくすぐった。
「そこで何をしている!」
背中から厳しく鋭い声が浴びせられた。
振り向こうとした瞬間に「動くな!」と怒鳴り声が響いた。同時に金属が何かに擦れる音——
剣が抜かれたようだった。
「ゆっくり手を上げろ」
「分かった」
私は言われたように手を上げた。
「自警団だ。そのまま動くなよ」
男の摺り足が聞こえると、切っ先を向けたまま私の前に回り込んだ。
古びた革ブーツ。
使い込まれた剣は払い下げだろうか。
削り取られた柄の一部には紋章があったのだろう。少なくとも、自警団を名乗る野党の類では無さそうだった。
見上げた男の視線は、私の両手のひらに向いていた。
「手には何も持っていないようだな。女、ここで何をしていた?」
「ランス伯の偉業に触れていただけさ」
「ほう、この植生の意味が分かるというのだな」
男は剣を向けたままで「何者だ?」と言った。その言葉からは威圧感は消え、代わりに警戒感が顔を覗かせていた。
「ただの流れ者だ。今はアンタらに雇われてハルドゥの悪魔を追っている」
「なるほど。話には聞いていたがお前がそうか。だが信じる理由も無いからな、詰所まで連行する」
「おいおい、マジかよ」
「安心しろ、身体検査は女性がやる」
「時間が勿体ない。今ここで全部脱ごうか?」本心だった。少なからずキッシャーやエバ、カインの姿を目の当たりにすれば羞恥心などドブに捨ててもいいと思った。
「馬鹿なことを言うな。他の街ならいざ知らず、我々は秩序ある自警団だ。腐敗した暴力集団ではないぞ」
「ああ。それはマスターやゼンを見てれば分かるよ」
「そうか、ゼンを知っているのか。分かった、身体検査はナシだ」
その言葉に私が立ち上がろうと膝に手をあてたところで、男は続きを口にした。
「面通しだけにする」と。




