第61話 姉ちゃん抜きの生活、終了?
という訳で第三章です。
今回はずーっと地上の話をするよ!多分!
茂崎迷宮2つの踏破から、ドタバタしてたらもう1年経っていた。
オレがこの世界に帰還してから一周年、も、気が付いたらもうだいぶ前だ。
姉ちゃんはずっと五斎さんにつきっきりだ。
実際、常時介護というか……目覚めた頃はほぼ赤ちゃんの世話状態になってたそうだしな、しょうがない。
その間のオレらはというと、リケラと魔法の研究をしてみたり、ノノをはじめとする希望者たちを垂水迷宮の奥めのところに連れて行ってパワレベしたり、はたまた希望層への開通手伝いをしたり、と割と気ままに動いていた。
祝賀パーティも3か月遅れで開催されたんで、出たよ。
姉ちゃんが結局欠席したんで、オレに視線が集中したのが割としんどかったけど。
リケラがある程度捌いてくれたけど、オレああいうの、やっぱ苦手だ……
「おう、今日はもう上がりか」
エントランスに戻ったら、土田さんに声を掛けられた。
この人にも随分お世話になった。主に姉ちゃん関連の情報統制と、パワレベ希望者を集めるのに。
「うん、これ以上やると名城雲さんがレベル酔い起こすから」
「割と限界ー!スタートレベルの+110越えるとまずいって話、実感しそうになったわ!」
「寸止めっていけるんですねえ」
「ヤグスさん、調整上手いですよね……じゃあ戦利品査定して解散ですねー」
「いやあ、近日中にウチで馬肉フェアですなあ!良きかな!」
今日のパワレベ対象者は名城雲さんと、茂崎第二で受付をやっていた木在さん、それに今回が初対面のスーパー茂咲の専務さん、浜茂雄造さんだ。
妙に綺麗どころが多いのは専務さんへのサービス、と言っていたのは名城雲さんだが……それ、自分で言う?
なお今日のノノは、パワレベではなくレベル酔い判定のバイトをしにきている。
ノノの現在のレベルは450。とうとうここ……しましまうまの52層じゃレベル上がらなくなっちゃったんだよね。
中学生のレベル上げすぎ、と本来なら叱られるところなんだが、迷宮適応が変に出ているせいか、本来もう伸びないはずだったらしい身長が10cmも伸びたし、本人も快調そのものだというので、そのままになっている。
パワレベでレベル低い人を連れ歩くんだと、壁を立てておけば勝手にモブが突撃して激突したらいっちょあがりな33層の魔猪と、この52層のしましまうまがダントツで効率いいんだよ。
しましまうまは群れで来るから、そういう意味でもポイントが高い。
垂水迷宮も41層以降はレベル設定が階層+10になってるそうで、そうなるとしましまうまエリアが時間効率では圧勝な訳だ。
その代わり、やりすぎるとレベル酔いを起こすから、ガチの低レベル者がいるときは52層は封印だ。今日は全員レベル40は越えてたんで馬肉フェアになったけど。
ドロップ品はパワーレベリングでも分配式だ。
パワレベの報酬は別で貰っているからな!
「では精算お願いしまーす」
「ヤグス様、いつもだいたい全部売り飛ばしてますけど、料理はされないのです?」
「馬肉料理はしたことないなー。あ、こないだ美味しそうなレシピ見つけたからクミンシードはひと瓶分残します」
姉ちゃんがずっといないから、オレもすっかり自炊勢だ。
別にコンビニライフでもいいんだけどさ、地上だと魔力コピー品は迷宮の時より味気なく感じるのに気が付いてしまってなあ……
自分で料理するとそんなこともないのにも気付いてしまったので、最近では真面目にネットでレシピをチェックして、正確な計量の要らないアバウトレシピを見つけては頑張っている。
食材のほうは基本的にはスーパーで買っている。
正直、今のオレは垂水迷宮ではどの層にもフリーパスだから、ほぼ全部自前で賄うこともできるけど、それだと経済が回らんだろ?
「クミンいいですよねえ、根菜ならほぼなんにでも合うし羊肉にもぴったり」
「なんにでも?今回はジャガイモと炒める予定だけど」
「蓮根もジャガイモと同じレシピでいけますよ!」
受付嬢さん方はそんな風に簡単なレシピを教えてくれることがある。
ノノも隣でメモを取っている。
今は義務教育も通信課程があるのでそれを受講しながら探索者業に精を出しているノノだけど、流石に未成年に一人暮らしはさせられないから、と、木在さんの実家に預かってもらっている。
いや、木在さんが姫酸実教授の親戚だとは思わなかった。
教授の母と、木在さんの曾祖母が姉妹だそうで。
遠縁だから引き取る口実としては問題ないですよね!と言われたら、頷くしかなかった。
木在さんの実家は木在さんの両親二人暮らしだそうで、娘が未婚で困ってたら可愛い孫ができた!とノノはすっかり可愛がられているらしい。
ノノは、最初に会った時の、小学校中学年くらいにしか見えない子供とは、ほぼ別人のようになっている。
身長は150cmをだいぶ越えて、体つきもすっかり子供から女性らしさを感じさせるようになり、髪は濃く黒くまっすぐに、瞳の色は淡い紫色になった。
流石にもう小脇に抱えて走るとか、できないなあ。
何度か、小中学校の同級生と顔を合わせたようだが、一回もバレていないそうだ。
だろうなあ。態度もその頃とは全然違って、堂々としたものだし。
「……ところで……お姉さんはいつ頃復帰で?」
「五斎さんが来週退院だけど、地上でパワレベかますって息巻いてたから、迷宮には暫く来ないよ」
「……あー、あの制限ですね、判りました。上には暫くアテにするなと言っておきますね」
木在さんにこっそり質問されて、まあ迷宮組合の人だしな、と、簡単な予定だけ明かしておく。
そして、木在さんは流石に迷宮管理局のまあまあな地位にいる人だけあって、解放されたダンジョンマスターが他所の迷宮に入れないのは知っている模様。
「オレも地上の変化あんまり判ってないんで調査ついでに付き合う予定だから、暫くパワレベ依頼も休みでお願いします」
「判りましたー。依頼もだいたい一段落したので、問題ないかと思います」
そんな風に後日の予定を確認してたら、ノノにちょいちょい、と袖を引かれる。
「ん?」
「それ、わたくしも行っていいです?実は異変以降、町の外って出たことなくって」
「ああ、それもいいかもね。私も付き合っちゃおうかな?久々に会いたいし」
そして気が付いたら、名城雲さんとノノも一緒に行くことになっていた。
まあ多分問題ない。むしろノノの診断技能はオレでは判らん部分も見える時があるから、いてくれると心強いし、名城雲さんのスキル観測もあって損はないだろう。
「姉ちゃんに確認しておくね。可否はメッセ投げるから」
「「はーい」」
今日のメンバー、それに土田さんと上総さんとは、専務さん以外の全員とスマホの連絡先は交わしている。
基本的には姉ちゃん絡みで、だな!
最近では上総さんに対人戦の稽古も付けてもらっている。
対モンスターだとだいたいは大丈夫なんだが、何気に普通の人間とタイマン、とかは経験あんまないんでなあ。
軍隊?あれは別物だし、雑に薙ぎ払ったから参考にもなりゃしないよ。
なお、木在さんには1つだけ嘘をついた。
五斎さんの退院は!今日!!
という訳で、スーパーに立ち寄って食材を仕入れて、ノノと一緒に姉ちゃんと五斎さんの家に向かう。
今日はノノがいるので、セキュリティ判定があるから呼び鈴を押す。
ってオレも早速セキュリティ外されてるな?姉ちゃん仕事が早いぞ!
「あ、安宿、久しぶりー。ノノちゃん、今日泊まりになっちゃうけどごめんね?」
「姉ちゃん、一年ぶり?元気そうで何より」
「こんばんは、お邪魔しまーす。おばあさまたちには許可取ってきましたから大丈夫です」
いつもの顔でひょい、と開いたドアから顔を出して、姉ちゃんがオレ達を招き入れて、すっとドアを閉じる。
ノノの挨拶が久しぶり、じゃないのは、昨日がノノの通院日で姉ちゃん達とも会ってるからだな。
「お、少年とノノたんも到着か!イツキ君は今ちょっと寝てるから、あとでね」
「リケラも久し振りー」
リビングには既にリケラがいて、何かを片付けている。
この2カ月くらい、リケラも五斎さんのリハビリを手伝っていて、会ってなかったんだよな。
「状態はどんな感じ?」
「日常生活には支障がないとこまではもってこれた。でも少年の事は一切覚えていないから、そのつもりで」
「そもそもそんなにしょっちゅう会ってなかったから、忘れられてても全然不思議じゃないよ」
普通の人でも、五年会ってなかったら印象は薄れるはずだ。
五斎さんは、姉ちゃんの事を覚えているために、他の全てを切り捨てたんだそうだから、オレの事なんて記憶の片隅にも残っちゃいないだろう。
そういうところが好きなんだよなー、オレも、多分姉ちゃんも。
という訳で1年すっ飛びました☆
いやそうしないと五斎さんが動かせたもんじゃなくってですね……
壁といえばキャベツもなんですが、あいつら散発なうえに他の根菜どもが邪魔でなあ。




