第53話 最下層への緩い道。
植物園ならデートだったのに(マテ
翌朝早くに全員起こして、朝飯は軽くサンドイッチだ。
但し今日は卵サンドはなしだよ。
「これも美味しい……」
「どれも美味しい!」
「あとどのくらいあるのこれ?」
薄切りキュウリサンドと(謎の魚の)ツナサンドにチキンカツサンド、それと薄切りハムを贅沢に挟んだハムサンド。
このハムは普通の前世界西南地方産の豚肉だよ!
「どれもまだ4セットか5セットくらいあるかな?あとピンチョス風のミニサンドがいっぱい」
「あ、ミニサンドもいいわねえ」
「場所に合わないかなって」
「それはそう!」
サンドイッチ類はいろいろ試作したとかで、なんだか種類も分量もいっぱいあるんだよな。
卵サンドは限定品で一番数が少ないけど、これもまだ3セットあるし……
……いや、もうあと3セットしかない、かな……1セット10個入りだけど……
貰ってすぐに味見したりしたから、帰って来てから出してるのは全部端数のやつ。
そしてミニサンドに関しては、マジでパーティ開けるくらいある。
でもミニサイズはこういう場所で食べるモンじゃないからなあ!
食べ終わったら転送魔法陣に乗って、91層だ。
うん、草の匂い。樹木の匂い。温帯の森林だな?
「いきなり森林地帯か」
「予想外に風景と匂いは穏やかね?」
「穏やか……ですか?どちらかというと、周囲の植物に元気がない感じがします」
そして姉ちゃんとリケラの会話に続くノノの言葉が、割といい線を突いている。
オレにも何となく程度にだが、異変が感じ取れるんだよな、この風景。
ぐるりと見回す。どの植物にも、何か葉っぱのない蔓のようなものが貼り付いている。
草に付いているコレは……もう少し量が増えたら目立つんだろうな、黄色いラーメンの生麺をぶちまけたような姿でたまにニュースになる、あれ。
「ネナシカズラと種類不明の蔓、どっちも形態としては典型的な全寄生植物だな」
そう述べた途端に、黄色い蔓がすっと引いていく。樹木に貼り付く大きい方はそのままだな。
「小さい方、いやな動き方したねえ?」
「様子を見に来ていた感があるな」
うん、うかつだなあこいつ。わざわざ本体の端末でオレらの様子を見に来たのか。
つまり、ここのはさっきの寄生植物が本体か。世界樹さんを狙うのは納得だ。
まあだからこそ茂崎側に弾き飛ばされたんだろうけど。
戦わない世界樹さんだって防衛行動はするのだよ。
「こいつが垂水側じゃなかったのは幸いだな」
「あー、確かに寄生植物系が入ると大変だからねえ……」
ただ、その結果、五斎さんは巻き添えでこっちに飛ばされた……いや違うな。
五斎さんは元々茂崎生まれの人だから、その生まれの縁を利用してこちらに迷宮を追いやったのか?
ただ、それだけだとどうやっても動かせるだけの理由が足りないから、スーパーの会長さんの生まれが垂水なのも利用して、配置を強制的に差し替えた?それなら辻褄は合う?
どうやら、迷宮そのものが成立する段階で、世界樹さんもかなりの抵抗をしたっぽいな、これは。
ダンジョンコア側の人選には世界樹さんには一切関わっていないだろうから、これは純粋に偶然の結果が齎した状況だろう。
ので、当面この推測は口に出すのはやめておく。
全部終わってからでも大丈夫な情報のはずだしな!
「ところで安宿、ここ何か継続攻撃してきてる?」
「匂いがそうだね!幻覚物質か何か含んでる」
「えぇ……それだとわたくし、ひっかかりませんか……?」
「さっきのボス戦で更にレベル上がったようだからどうだろう」
いやでもまだここのコアのレベルには到達してないはずだよな?
今見える限り、この茂崎第一迷宮のコアのレベルは478……なんだよその半端な数字はよ!!
あれか?斃れた探索者のレベル食ってるのか?
っつか100層モノのくせに、思ったより低いな。まだ姉ちゃんの方がレベル高いんだ。
一方のノノのレベルはさっき上がって……201。また随分ごっつく経験値吸いましたね?
「もしかして:経験値入らないオレやリケラの分、経験値入る二人で吸ってる?」
「……それだ!!!アズちん連れて遊んでるときも変だと思ってたんだけど!!」
「そういや遊びだした最初の頃に酷いレベル酔い2回くらいあったなあ……それでかぁ……」
なるほど、リケラが姉ちゃん相手にパワレベかましちゃったのもこの仕様のせいか!
いいんだか悪いんだか、だなあ。遠い目をする姉ちゃんだけど、あのレベル酔いを2回なら、さもあらん、だな……
「結界張りながら歩いてるから効果半減はしてるはずだし、そのくらいなら200でレジれるってことかなー?」
「かなぁ?あ、でもノノちゃんジョブ付いたからか、ステータスも結構上がってる。複合効果かもね」
念のため、お互いの状態を確認しながら、さくさくとルートを進む。
でも、状態異常はほぼ全員が無効になっているっぽいので、気楽なもんだ。
というかここの敵って本体は……あーウツボカズラ系の、幻惑した相手をツボにぶち込んで溶かす、理論上はえっぐい系かあ。
そろりと這い寄る蔓は随時火魔法を軽く当てると焦げて動きを止める。
たまに氷も混ぜておくとカチンと凍ってから萎びる。
「成程ドクツボカズラか……」
リケラが本体を見つけた、そして既知の種類のモンスターだったようで、弓を一発。
足元にころりと転がるドロップ品は『溶解液ハイパーと』、『蒸留水』。ここにきて、水。
「水が出るんですね」
「毒のない種類だと料理に使う国があるから、それでかな?」
ここのは食えない奴だけど!と姉ちゃんの解説。へえ?
結局ドクツボカズラを数体狩っただけでエリア移動だ。
もっとも、次のエリアも状態はほぼ同じだ。温帯から亜熱帯にかけての、気持ち温度は高いけど、植物に気持ちのいい温度と湿度。
うん、ちょっとヒトには湿度が高すぎる。ノノがだいぶ汗をかいているので、スポドリを飲ませておく。
無論オレらもそれなりに水分補給だ。
「湿度がちょっと高いのは……」
「地味に体力削って熱中症狙い?だとしたらかなり根性悪い」
「とはいうが、90台にしては地味すぎんかここの階層?」
80台のアンデッドどもがガチめの殺意マシマシだったもんで、気が抜けそうになるんだよな。
恐らくそういう効果も狙ってるんだろうけど。
これがずっと続くと、恐らく本当に気が緩む。相手はそれを狙っている、気がする。
まあ実際には『状態異常無効』がいい仕事しすぎてるだけだったんだが……
配置モンスターが種類が変わりながらも、全部誘い込み型でさあ……!
「なんとかのひとつおぼえ」
「そりゃダンジョンコアは自前の知識がねえからヒトを攫うような奴だし?」
「そういえばそう!」
「って事はこの90層台が、ここのコアの本来の属性って訳ね……」
ここは気分転換に全力でダンジョンコアの悪口でも言っておこうかと思ったけど、バカがキレると碌なことにならないので、この程度でとどめておこう。
「それでいくと垂水のコアは属性なんだったんだろ」
「あそこのも寄生だよ。ただしもっとランクの低い、ほぼ藻類とかそっち系」
「殺人バクテリアとか……」
「そこまで生物としてのクラスが下がると流石にダンジョンコアはやれないと思う」
これは世界樹さんと会長爺ちゃんからの情報なので、間違ってないだろう。
コアのランクとレベルが低いせいで、垂水の迷宮は世界樹の直近でリソースを奪いやすい環境だったにも関わらず、茂崎より育ちが悪かったそうなんでな。
そもそも藻類とか寄生植物とか言ってるけど、これ自体は実はイメージに過ぎない。
人間に判りやすい形態のうち、自分の本質に近いものに擬態している、というのが本当のところらしいので。
この擬態化も、迷宮コアに課せられた制限ではあるようなんだが。
まあそうだよな、得体の知れないモノより、これに近い何か、の方が認識はしやすいし、倒す目標として判りやすいもんな?
本質に近しい物理現象・実体に固着させられている、が近いかなあ<コアの本質
垂水コアのLv300は初期設定のままだったらしいよ。




