第21話 ドラゴンの名を冠する草本。
食用縛りだと亥に次いでネタに乏しいのが辰である。
但し、品種名入れていいんだと途端に亥と子と巳が最下位争いを始めます。
暫く周辺雑魚を処理しながら進んでいくと、気配が変わった。
一線を踏み越えた、そんな感覚と共に、周囲が唐突に岩場と砂交じりの乾いた大地に変貌する。
「サボテンだからって砂漠風の風景は短絡的すぎないかしら?」
「月下美人と似た系統なんだから普通に熱帯雨林でいいはずなんだけどなあ?」
「わー、ワイバーンとかランドドラゴンとかいそうな場所だな!」
オレ達の感想は全体的に雑なツッコミだな、と自分でも思う。
風景を見回すと、進行方向中央に、やたらでかい三角柱タイプのサボテン。
天辺の蕾はふっくらしたピンク色。その蕾のすぐ下からみっしりと垂れ下がる枝に咲く、無数の淡紅色の花も見える。
周囲には水不足で萎れそうになったように見える、これは葉の大きな、黄色い花の咲いた植物がいくつかと、こっちは元気そうな、枝の多いウチワサボテンっぽい奴と、種類は判らないがひも状の白い棘に覆われたサボテン。
「ここもお供ありかー」
「サボテンがいるのは判るけど、なんでオクラっぽい花が見えるのか」
「へぇ、あれオクラなんだ?」
「サイズでかいから花オクラだったりするかもだけど」
オクラも前の世界の時に育ててたから判る。花が咲いてるから判りやすいともいう。
うーん、ベンケイチュウみたいな純正柱サボテンがいないのに、荒野の風景にする必要、あった?
日本人の持つサボテンのイメージは砂漠や荒野って話自体は何かで見たことあるけど。
ただ、視線が良く通るのはいい感じだ。魔法が使いやすい。
「これサボテンってことは凍らせたら終了するのかな?」
「流石にボスなんだからそこまでヤワじゃないと信じたい」
「50層だからねえ、ある程度は強くないと」
そんな会話の後、オレとリケラがまず氷結系の範囲魔法をぶっ放したけど……
わあ、推定オクラが火魔法で相殺してきたうえに氷が溶けた水分を吸収した!
生き生きと葉っぱを翻すオクラが元気になって良かったね、だ。良くないけど。
「えぇ……なにその理不尽」
「つまりまずはオクラからか」
当然相手からも何か飛んできたので多重結界で雑に弾く。
ああ、サボテンの針とオクラの種とオクラの火魔法っぽいな?
白いひも状のサボテンはこちらにその長いひも状のボディを延ばしてくる。
ウチワサボテンは固定砲台。
オクラも基本はその場を動かないタイプだな。
と思ってたらボスがオクラとウチワサボテンをその長い葉状の枝で引っこ抜いてこちらに投げつけてきた!
「おっし!こっちまで来てくれるならそれはそれで!」
但し目の前に降ってきたお供達は、姉ちゃんの剣で秒で千切りにされた。
でーすーよーねー!姉ちゃん近接特化だもんなあ。
「うっわオクラ、茎も粘る!」
「粘りが信条だからドロップに期待が」
「切れ味が一時的に鈍化!まあスキルでどうにかできる範囲だけど!」
「水洗いで行ける?」
姉ちゃんの剣にオクラの粘りがくっついたというので、〈湧水〉で水を刀身にざばっとかけてみる。
「お、解除された!っつか安宿、水出せるのは外では隠しなさいよ、水道局が既得権益維持のために必死で水出せる人間徴用しようとしてるから」
うわ、徴用?!思ったより水道局が悪い事してる?
そこまでいっちゃってるなら、個別システム伝授して早めに解体すべきでは?
いや、むしろ水道用魔法陣の普及管理団体に切り替えりゃいいんだよ、なんで旧態に固執してんだよそいつら!
「土木権益だっけ?ああいうのが絡むとどの世界でも面倒だねえ!」
「あー土木工事勢か。でもそいつらも魔法で仕事半減してるとかない?」
「実際仕事は減ったと思うわ。ただガテン系の鍛えるの好きな現場兄ちゃんずが揃って探索者になっちゃったから、業界人口も激減してたはず」
成程、力仕事そのものが好きで働いてる人たちが抜けちゃったか。
それで余計に危機感あるんじゃねえのかな、土木系の経営陣。
だから既得権益のある水道局に加担してる、もしくは水道局に圧力をかけている、と。
地上の厄介ごとの話をしつつ、目の前のボスの取り巻きだ。
サボテンの針とかオクラの種とかたまに飛んでくる火魔法なんかの魔法と飛び道具は随時結界を張り替えて無効化、投げつけられるサボテンたちは姉ちゃんが都度切り刻んでるのでそっちはたまにねばねばに水を掛けておく。
うん、裏方作業楽しいな!普段ソロだからこういうことは全然しなかったんで新鮮だ!
前の世界でも小団体での旅行みたいなことはしたけど、あの時は結界云々はもっと得意なねーさんがいたからなあ。
何より、今オレが守ってるのは、たった一人、オレと血がつながった、両親を失ってからは実質親代わりもやってくれてた、実の姉ちゃんだ。
そのことが、これほど充実感があるとは想定してなかったけど。
ごめんなリケラ、おまけで。
リケラはいい奴だと思うけど、出会ってまだ三日とかだからな!思い入れまでは流石にないんだよね。
ボスの取り巻きが半減した辺りで、ずるりとボスの足元が動いた。
下から突き上げるように飛び出してきたのはどうやら根っこのようだけど……
固くはない。ただ、足元を絡め取りに来る。
……ボスさーん、それ作戦間違えてないかい?
「敏捷ダウンのバステ?あんまり意味ないなあ」
「アタシも少年もやろうと思えば固定砲台なんだよねえ!」
「あたしも別に動かないと戦えないわけじゃないから……いやこれ何か狙ってるな?」
そう言われてみれば、ボスの頭の蕾がぶわり、と大きく膨らんで、サイズ自体が三倍くらいに膨れ上がっている。
此処に何かを確定で着弾させたい?魔法か?物理か?
まあどっちでもいいか。弾けばいいんだよ弾けば。
そう思ったところで、この根っこ自体が誘導目的、目印なのに気が付く。
「〈氷結〉」
根っこを凍らせたら、萎びて引っ込んだ。やっぱり低温に弱いんだな。
ってことはー……
「〈結界〉、〈氷壁〉、ついでに〈ブリザード〉」
勢いよく連続で魔法を展開する。まあこの位なら魔力の減り具合も大したことないし。
と思ったらなんか〈ブリザード〉の消費魔力が増えてるんだがなんでだよ!
確かに他の魔法と違って一つ前の世界で覚えてきた奴だけど、結界の方は消費変わってないのになんでだ?
それでも魔力半減には程遠いから、誤差の範囲だな。オレあの世界の超級攻撃魔法は覚えてないし!
ぼわっ!と勢いよく開いたボスサボテン頭部の花がその勢いでフィールド全域に撒き散らしたのは、纏う灼熱で空気を揺らめかせる大量の種だった。
結界と氷の壁に全て阻まれ、〈ブリザード〉の威力をいくらか削り取ったそれは、オレ達に届くことなく地に落ちて砕ける。
「流石ボスだけあってやることが派手ねえ」
「あれ素で食らうと火傷が状態異常で付く上に子サボテンが発芽するとかそんなカンジね?」
「成程、発芽して一気に距離を詰めるかぁ」
女子二人の感想と分析に頷く。
なおボス本体への〈ブリザード〉のダメージはかなり盛大に入ったようで、頭をぐにゃりと下げて、完全にダウン状態だ。
こうなるともうこっちのもんだ。
姉ちゃんがあっという間に近接して、サボテンをバラバラに切り刻む。
スキルなしの素でやってるのコレ?
逆らったらダメな相手だなこれ!もちろん現状ではそんな気ないけど!
「お、あれがコアだね」
そしてリケラの弓が、露出したボスのコアを一射で打ち砕く。
ボスも、お供とその残骸も、ざらざらと消えていく。
では今度はお楽しみのドロップチェックだな?
前世界での適正:召喚上・魔法上・護法超。
あとウィンドスラッシュの消費魔力は変更されてない。仕様。




