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フィナーレ!

 リリーナがボンクラ皇子にビシッと婚約破棄を突きつけてから一週間--俺の日常は平穏を取り戻しつつある。


 あのあと、ボンクラ皇子ことアインザッハは、国益を考えて行動することができない真のボンクラだと認定されて廃嫡された。

 とはいっても『皇子』として生まれた身なのだから、王城から叩き出されて野垂れ死ぬということはないのだが。

 それでも『第一皇子』という肩書きを外されたことはいい薬になったようで、最近は前のように威張り散らすことも無くなったし、平穏。


 俺とリリーナは正式に付き合い始めた。

 今日は初デートということで、2人っきりで町外れにある『トフォの丘』に来ている。

 まあ、公爵令嬢であるリリーナには常に護衛が付けられており、今日だって草むらの中や木の影に隠れて何人かの護衛兵たちがついてきているのだけれど……できるだけ2人きりになりたいというリリーナたっての願いで、彼らは余程の危険がない限りは手を出さないことになっている。

 つまり、実質2人きり。


 リリーナが抱えてきた大きなバスケットを持つのも俺の仕事だし、足元の悪い場所でリリーナに手を差し出すのも俺の仕事なのだ。

 別に嫌なわけじゃない。

 リリーナのかわいらしさを独り占めできるわけだから。


 岩場で、俺が手を差し出すと、リリーナはプンと横を向いた。


「結構よ、この程度の道、一人で歩けますわ。それよりも、そのバスケットをしっかりと抱えていらっしゃい」


 どうやら俺に大きな荷物を持たせていることを気にしているらしい。

 俺は差し出した手を引っ込めはしない。


「俺だって男だよ? このくらいは余裕だって」


「そうですの?」


「それにしても、これ、何が入ってるんだ?」


「あの……お弁当……私が作って差し上げましたのよ!」


「ええっ、御令嬢が料理なんてするの?」


「は、初めてしましたわ、ですから、美味しくないと思いますわよ!」


「そんな事ないよ、きっと美味しいに決まってる!」


「美味しくないですわ!」


「いいや、美味しいよ、きっと」


「美味しくないですったら!」


「絶対、美味しいってば!」


 言いながら、お互いに……どちらともなく手を伸べる。

 その指先と指先が触れようとしたその瞬間、突然草むらから飛び出してきた隠密かげが手刀で、「とう!」と俺の手を払った。


「リリーナ、嫁入り前の淑女がみだりに男の手を握ったりするもんじゃない!」


 グラウス先輩だ。

 先輩は、いまはあの漫画的な筋肉増加の術は封印して、普通のマッチョとして暮らしている。

 なんでも筋肉は天然物の方が美しいことに気づいたそうで、以前にも増して筋トレには精を出しているそうだが、平穏。


 同じ草むらから、アレサがゴソゴソと這い出してきた。


「パイセン、そういう言い方するからリリーナたんに怖がられるんすよ、もっと素直にっす」


 グラウス先輩が俺をぎろりと睨んだ。


「ウチの義妹にベタベタするんじゃない! この小僧が!」


 アレサは楽しそうに笑っている。


「いや、それは無理があるっす、この二人、付き合っているわけっすし」


「それでも……それでも……うおおおおおん、俺はお前など義弟とみとめないぞ!」


「はいはい、パイセン、そのくらいにして、護衛に戻るっすよー、ちゃんとお仕事しなくっちゃダメっすよー」


 アレサはご覧の通りだ。

 グラウス先輩がゲームの強制力から解き放たれたおかげで二人は元の関係に戻り、寄ると触るとイチャイチャしている。

 この二人、一緒にいると賑やかだが、大きなトラブルもなく、平穏。


「あー、平和だなー」


 俺は街を見下ろす。

 白い壁に青い屋根をいただいた王城が中心にそびえたち、それを取り囲むように石レンガ造りの城下町が広がるそれは、いかにもありがちな文化水準も生活水準も中世ヨーロッパ風の、ごく普通の街に見える。


「本当に、平和ですわね」


 リリーナが、俺に肩を摺り寄せるようにしてつぶやく。


 リリーナの断罪ループから抜け出したことにより、俺たちはゲームの強制力から完全に解き放たれた。

 この世界には俺様皇子もいないし、マンガ的な筋肉を身にまとったネタキャラマッチョもいない。

 俺だって『かわいい枠担当、攻略対象のダレス=エーリア』ではなく、地方貴族の三男坊でありながら公爵令嬢に見初められたラッキーボーイ、ダレス=エーリアだ。

 そして街は、よもや現代のゲーム設定を下敷きにしたルール無用常識皆無奇妙奇天烈な冒険活劇があそこで繰り広げられていたとは思えないほどの静けさで、当たり前のようにたたずんでいる。


 俺はふと、傍らにいるリリーナに尋ねた。


「そういえば、なんでハイキング? 街歩きデートとかでも良かったんじゃ?」


 リリーナは少し顔を赤らめて、そっぽを向いた。


「あなたのためですわ」


「え、おれの?」


「あなたのご実家に行ったときに、山歩きに慣れていなかったら、困るでしょう、だから、練習ですわ」


「え、ウチの実家にくるの?」


「そっ、それはいずれ行くでしょう、結婚のご挨拶とか……」


「結婚……」


「まさか、嫌ですの?」


「とんでもない、大歓迎だよ! そうだな……」


 ここは、チヒロに仕込まれたイケメン特訓の成果を見せるところだ。

 何より、プロポーズの言葉は俺の方から、それもとびきりイカした言葉で言いたい。


「今までの俺の人生はソロライブだったけれど……」


 しかし、俺のイカしたセリフをさえぎるかのように、チヒロの声があたりに響いた。


「ダレスっ! どいて、そこどいてっ!」


 俺はとっさにリリーナを抱いて横へ飛ぶ。

 と、『空から』チヒロが落ちてきた。


「ああああああああああああ!」


 どかん!と派手な音を立てて地面に叩きつけられたチヒロは、一瞬だけ「ぐえっ」と情けない悲鳴を上げたが――


「ちょっと、大変大変、大変なのよ!」


 チヒロは、あいも変わらず『規格外』だ。

 この世界の魔法原理の穴をついて次々に新しい魔法を考案したり、あっちの世界風のBL小説を書いてベストセラー作家になったり、お目当てのラインバッハを口説き落としてよろしくやっていたり……まあ、相変わらず賑やかではあるけれど平穏な生活を送っている。

 そのチヒロが空から降ってきたってことは、平穏を壊すような出来事があったってことだ。

 彼女は早口で叫んだ。


「大変! 続編なのよ! 続編が始まっちゃったの!」


 俺とリリーナは当然、キョトン顔だ。


「続……編……?」


「ミラクルラッキースター、セカンドシーズン、〜仮面の王子と閉ざされた礼拝堂〜が始まっちゃったのよ!」


「落ち着けよ、チヒロ、まずは深呼吸して、それから簡単に説明してくれ」


「すーはーすーはー、はい! だからね、ミララキ2が始まっちゃったのよ!」


「ごめん、ますますわかんない!」


 アレサとグラウスが草むらから這い出してくる。


「ヒロインちゃんに変わって説明するっすよ。ミラクルラッキースター、セカンドシーズンってのは、ミララキの続編として作られたゲームっす。ゲームシステム自体は第一弾と全く同じっすけど、ヒロインをはじめとした主要キャラの大部分が差し替えられたっす」


「それに、俺やリリーナは?」


「出てないっすね」


「じゃあ、俺たちには関係ないことなんじゃ……」


「それがっすよ、第一弾で人気だったラインバッハくんは、セカンドシーズンでも攻略対象キャラの一人として出てるっす」


「ああ、ラインバッハって、チヒロが口説いてた、あの?」


 チヒロがガバッと身を起こす。


「そうなの、ラインバッハさま! もう、すっかり私のことなんか忘れて、セカンドシーズンの攻略キャラとして、セカンドシーズンのヒロインといちゃいちゃいちゃいちゃ……きいいいいい!」


 アレサも横から口を出す。


「実はグラウスパイセンも相変わらずネタキャラとして登場するっす。つまり、あたしも無関係じゃないんすよ」


 なんだか、めんどくさいことが起こりそうな予感がする。


「ダレスさま! 私はチヒロさんやアレサさんにたくさん助けていただきました、その御恩をここで返したく思います!」


 ほらね、つまり二人に手を貸すよってことだろ?


「あー、リリーナ、俺も君もセカンドシーズンには登場しない人物だからさ……」


「だからこそですわ! 本来のゲームとは違うながれを作る、これが運命を変えるコツなのでしょう?」


「うわー、そんなこと、誰に習ったの」


「アレサさんと、チヒロさんにですわ!」


「面倒な……」


 ゲームの運命から解き放たれた今、俺が何よりも望むものは『平穏』だ。

 別に静かでなくていい、アレサとグラウス先輩が夫婦漫才のような掛け合いをしている、その横でチヒロが常識破りな大騒動を起こして……何より、リリーナが、それを眺めて楽しそうに笑っている、そんな平穏--


「ああ、めんどくさいけど、『平穏』に暮らすためには仕方ないのか……」


 俺はリリーナに向かって手を差し出す。


「わかったよ、行こう、運命を変えに」


「ええ、ダレスさま!」


 俺とリリーナは手を繋いで駆け出す。

 その後ろから追ってくるのは仲間達の歓声。


「さすがっす! ダレスくん!」


「待つんだ、俺もついて行くぞ!」


「あんたたち、この私を置いて行くんじゃないわよ!」


 賑やかに常識をぶっ飛ばしながら……俺の『平穏』な日々は、これからも続いてゆく



 --fin

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何とか丸く収まって、お疲れ様でした。あの後、どういう展開でまとまるかと心配していました。いきなり決着をつける、作者にしかできない大技を披露されるとは思ってもいませんでした。ダレス、リリーナ…
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