17
俺たちは黙々と歩いた。もはや抗う気力も失っていた。
日暮れになりたどり着いたのは、森のはずれにある小屋だった。ここも木こりが使うのだろうか。そこに入るように促される。
「私たちをどうするの」
ツィアナの呟きに、
「どうもしない。ただ閉じ込めるだけだ」
兵士は答え、小屋から出て行った。
俺たちは各々座り込む。後ろ手に縛られているため、何もできない。
日が暮れた。暗闇と沈黙だけが俺たちを覆っていた。
誰かのため息。洟をすする音。――唸り声。
「ねえ、何か獣臭くない?」
ツィアナの言葉に思わず体臭を確かめる。
「ガレアスさんじゃないですよ」
意外と近くからティエラのささやく声がした。ひとまずほっとする。しかし確かに、微かに獣のようなにおいがする。なぜだ、と思った矢先、遠吠えが聞こえた。
小屋の、すぐ外だ。
「ちょっとこれ、まずいんじゃない」
ツィアナは立ち上がって、入り口と反対側の両開きの窓を開け、外に目を凝らす。彼女の両手は自由になっていた。
「ツィアナ、縄は……?」
「短剣。袖に隠していたの」
それならと、皆の縄も切ってもらった。彼女は夜目が効くようで、薄暗い中でも問題なく動けた。そして、部屋の隅にいるそれにも、真っ先に気が付いた。
「狼……!」
ツィアナの悲鳴と同時に、その獣の遠吠えが鼓膜を大きく震わせる。それに呼応するように、外の狼たちも吼えた。
小屋の中の狼がツィアナにとびかかる。彼女はその牙をよけながら短剣をさっと薙いだ。重い音がして、獣は動かなくなったようだ。
血の匂いがする。途端、外の獣たちが騒がしくなる。
ティエラが外を見て悲鳴を上げた。
「こっちに来ます!」
「窓を閉めて!」
アルトがさっと両開きの窓を閉めると同時に、衝撃が伝わる。
窓を壊そうとしているのか。
「外へ出ましょう。入り口側からは狼の気配がないわ」
ツィアナが扉を開こうとするが、どうやら開かないようだ。
「あいつら、鍵を閉めていったわ!」
「任せろ」
俺は道具を取り出し、開錠の作業に入る。
と、後ろの窓が破られたようで、獣が2匹入ってきた。
「くっ……」
「っ……」
戦う音がした。アルトも参戦しているようだ。血潮が飛び散り、やがて獣のうなり声が消える。
もう少し、もう少しで開く。
その時、先ほどよりも多くの獣の声が聞こえ、二人の切羽詰まった声が降る。
「まだ来ますよ」
「ガレアス、早く!」
「もう少し……開いた!」
転がるように小屋から出て、
「森へ!」
というアルトの声に従い、一目散に駆けた。
暗い森。いつかのように、木の根に足を取られそうになる。
「こっちよ!」
ツィアナが俺を、アルトがティエラを引っ張る。すぐ後ろで獣の唸り声、足音。
走って、走って。気がつけば俺たちは、濃い霧の中にいた。
狼たちが追ってくる気配はもうなかった。ツィアナとほっと顔を見合わせる。
「アルト、ティエラ、いるか?」
「いますよ」
霧の中から二人が姿を現す。よかった。二人も無事のようだ。
「危機一髪ね」
ツィアナは息を整えながら血で汚れたナイフをぬぐう。アルトも細身の剣を鞘に納め、俺たちの顔を見る。
「さて、どうしますか?」
「どうするって、そんなの……」
「まあ、ここまで来たからな」
「楽園に、行きましょう」
ティエラの言葉に、全員が頷いた。
原始の木の枝が伸びている方へ歩く。そしてたどり着いた。ここへ来るのは三度目だ。しかし、今回は少し景色が違う。月光に照らされた扉は、開いていた。
「行きますよ」
アルトも、ツィアナも、ティエラも、俺も。覚悟を決めて、扉をくぐる。
暗闇に浮かぶ、燃える色が目に入る。次いで、苦痛を帯びた咆哮が耳をつんざいた。




