12
男のほかにもいるであろう人攫いに注意しながら砦の中を探索する。
とはいっても牢のある場所は限られているため、ツィアナを見つけるのは比較的簡単だった。
「ツィアナ」
呼びながら彼女のいる牢の前まで行く。
彼女は膝を抱えて座っていた。
こちらの姿を認めると、
「逃げられたの?どうやって……」
と言いながら立ち上がった。
「話はあとだ。とりあえずここから出るぞ」
俺はツィアナの牢の鍵を開け、彼女を外に出し枷を外す。
「ありがとう、助かったわ」
彼女が素直に礼を言ったことに驚いたが、早くここから出ようと二人を促す。
しかしツィアナは立ち止まり、
「待って、まだ捕まっている子がいるの」
と隣の牢を指さす。
そちらに行き覗いてみると、少年がこちらを見ていた。
この場にはふさわしくない青空のような瞳と、輝くような金の髪が目を引く。
12、3歳だろうか。薄暗い中でもまだ幼い顔立ちだということがわかる。
目が合うと、少年は口を開く。
「申し訳ありませんが、ここから出していただけると助かります」
場違いなほど丁寧に依頼された。
しかしこの状況で助けないという選択肢はない。
「少し待ってろ」
牢を開けると、少年は外に出てきた。
「ほかに捕まっている人は?」
「いませんよ。ここに連れてこられたのは僕とあなたたちだけです。ところで、ありがとうございます。このお礼はいつか」
どこまでも丁寧に続けようとする少年の言葉を遮って、ひとまずこの砦から逃げることが先だと説明する。
とはいってもこの砦の造りを知っているわけでもないので、階段を上り、出口を探す。もちろん、人攫いの仲間たちに見つからないように細心の注意を払ってだ。
いくつかの部屋の前を通り過ぎ、やっと出口らしきところが見えた。
もう日が昇っているようで、砦の中の暗さに慣れた目にはまぶしいくらいの光がそこから射している。
やっと外に出られる。
そこに向かっていくと、不意に光を背にして男が現れた。
まずい、人攫いに見つかってしまった。
「おまえら、どうやってここに――」
男が言い終える前に、わきから風のようにツィアナが飛び出し、男のみぞおちに拳を見舞う。
男は「うぐぅ……」と呻くような悲鳴を上げると、その場に倒れ伏した。
「一丁上がり」
ツィアナは満足げに手を払う。
俺は素直に感心した。ツィアナは「自分の身は自分で守れる」と言っていたが、それは本当の事なのだろう。
今の動きを見ればわかる。
その時、「奴らが逃げたぞ!」と言う声が響いた。
同時にこちらへかけてくる足音がいくつか聞こえる。
「早く行きましょう」
焦った声のツィアナに促され、俺たちは急いで外の森へと足を向ける。
「いたぞ」「待て」と言う声が追いかけてくる。
ちらりと振り返ると、4、5人の男たちを目の端に捕えた。
森の中は走りにくい。木の根につまずきそうになる。
そう思っていると、「わ」と言う声とともに少年が転ぶ。
駆け寄ると、どうやら足をくじいているようだ。これでは走れそうにない。
「僕のことは置いて」
「行けるわけないだろう」
少年を背負うと、再び走り出そうとする。
しかしいつの間にか男たちに追いつかれ、囲まれていた。
ツィアナとアルトの姿は見えない。うまく逃げられただろうか。
「手間かけさせやがって」
男の一人がこちらに手を伸ばしてくる。
しかしその手が俺たちに届く前に、突然男が倒れる。
「一体何が――」
続く言葉を発する前にもう一人の男が倒れた。
その男の後ろからツィアナが現れる。
「おじさんたら、とろいんだから」
そう言いながら3人目の男に蹴りを繰り出す。
おじさんという言葉に複雑な気持ちになったが、彼女の動きを見ては何も言うことができなかった。
残りの二人の男たちは、何が起きているのかわからないといった様子で立ち尽くしている。
そんな二人にも容赦なくツィアナは拳を打ち込み、彼らは同時に地面に倒れた。
「まったく、私の出る幕もありませんね」
のんびりとした足取りでアルトが姿を現した。
「本当に……ツィアナは強いんだな……」
しみじみと感心していると、ツィアナはにこりと微笑んだ。




