↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/21

プロローグ

 月光に照らされ、うっすらと青白く輝く少女が、俺に向かってゆっくりと近づいてくる。

 ついに幻覚まで見るようになったか、と自虐気味に笑う。

 もう限界だった。

 あるのかもわからない『楽園』を探して、何日も森をさまよった。

 けれど結局何も見つけられないまま、ただ病だけが悪化し、この場に倒れてしまった。

 もうやめよう。あるはずのないものを探すことは。

 森を通り抜ける春の夜の風を頬に感じながら、目を閉じる。


「諦めるの?」


 少女の声が遠くに聞こえた気がした。




「楽園に行きましょう」


 妻が突然そんなことを言い出したのはいつのことだったか。


「楽園?」

「そう、楽園。旅の人がね、アカトの森で大きな扉を見つけたって言っていたの。きっと楽園の入り口だって」


 楽しそうに妻は語る。

 アカトの森はウルアス、グラスティア、エルライアの三大国の国境が交わるところに位置する広大な森だ。


「楽園なんておとぎ話だろ?」


 『楽園』とは昔から伝わる幻の地で、「アカトの森に入り口がある」という噂もある。しかし誰も見つけたことがないので、人々は『楽園』の存在を忘れつつある。

 俺も祖母から小さいころにその話を聞いたが、詳しいことは何も知らない。


「違うわよ。きっとあるわ。私は信じる。だから一緒に行きましょう」


 はいはい、とその時はただ聞き流していた。

 雪の日、彼女の笑顔を突然失ったあの日までは。


「楽園、行きたかったな」


 最期にその言葉だけを残して、妻は帰らぬ人となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。